最高コレクションの実力
クロードは鼻歌交じりにゴルドバーン邸に訪れる。案内された先にはエドガーがいて、なにやらテーブルに広げた紙を覗き込んでいた。
「エドガーは何をしているの?」
「こんにちは、クロード。今はドレスの染料について調べているところです」
クロードが詳しく聞こうとしたところ、ミリーが現れる。
「いらっしゃい、クロード。今はエドガーを優先させていい?ドレスの染料について何か解った?」
「ミリーの言う通り、青色の染料である夜想草の値段が不自然な上がり方をしています。過去十年分の記録と照らし合わせてみても減少するような気象ではなく、虫害の報告もありません。夜想草の数は十二分にあると推測できます」
すらすらと述べるエドガーにクロードが驚いているが、ミリーはそれを当然と言った表情のまま正面に座った。
「原因に目処はついたんだよね?夜想草を出荷している土地に何があったのか」
「はい。夜想草を扱う商人の足取りを追いました。すると、少々気になる動きが」
ぺらりと出した一枚の紙、そこには商人の足取りが書いてある。それを横から見たクロードが「あら」と声をあげた。
「この商人、迂回しているわね。途中の伯爵領を綺麗に避けてるわ」
「ええ。はい。おそらく夜想草の値段が上がっているのは迂回による運送費の分だと思われます」
クロードは伯爵について思い出す。あまり関りがない人なので印象は薄いが、美味しいワインを作ると父が褒めていた。この領地で購入したワインを大事に熟成させており、祝い事の日に振舞う予定なのだと。
「ワインに強い場所よね?」
「いや、待って。一年前に病気でブドウが枯れたって噂を聞いたな。私のとこでは扱ってないワインだからマークしてないけど、ブドウが採れなくてワインが作れなくなったから関税をあげた…?」
「その点についても気になることがありました。この領地から王家に対し、災害対策願いが申請されています。ですが、書類に不備があるとされ二度も断られていました」
クロードは片眉をあげる。
畑や畜産物がなんらかの理由でダメになった時、国に申請すると補助金を受けることができるのだ。この申請にはそこまで複雑な手順はなく、書類を幾つか提出するだけでいい。ただし、秘密裏に調査員が派遣されているため、嘘の書類はすぐ見抜かれる。
この場合の『書類の不備』とは建前で『領地に援助は必要ないと判断された』が正しい。
「伯爵本人が書類を書いているわけじゃないってことね。伯爵なら調査員の存在を知っている筈だもの」
「はい。現在、伯爵領にいる人は運営の仕事に全く慣れていない誰かであると推測できます」
ミリーは顎に指をあてて悩む。夜想草はドレスの染料として優秀なので、どうしても安く手に入れたい。そのためにも本来の販売ルートである伯爵領にメスを入れたいところだ。
王家もそのうち動くとは思うが、彼らは未然に防ぐことができない。王家が動くとしたら腐り落ちた後だ。
「エドガー、伯爵家の内情は調べた?」
「家族構成ならば伯爵には年の離れた妻がいます。お二人の間には長女と長男の姉弟がいます。伯爵は十二年前まで軍に従事しており、本来は伯爵になる予定はありませんでした。兄が病気で後継から外されて、彼になりました」
クロードもまた考える。ドレスをデザインする仕事を任された身としては、染料が安く確保できないのは看過できなかった。
「久々にドレイクの息子として親孝行するわ。良いワインを安く購入したかったのよね」
「エドガーはワイン嫌いだよね?ブドウジュースは好き?」
「はい。好きです。その、ミリーと一緒に飲むものは、どれも好きです。お酒以外」
照れる様子のエドガーに、クロードは頬に手を添える。そしてミリーに向かって肩をすくめた。
「アンタの言う通り、最高に良い男ね」
「やらんぞ」
「セオドア様は?」
「口説き落とせたらね」