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雪の宿  作者: サクラの芽
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故郷の味

今夜は和やかな雰囲気。年配のご夫婦と近くの雑貨屋に勤める女の子2人が楽しく飲んでる。そこにお馴染みの片野さんが来られた。もうすでに飲んでるのか少し赤い顔で大きな紙袋を持っている。

少し遠慮気味だったけど端の席が空いてたので座られた。

「新潟のお酒ありますか?」

「高千代なら…」

「懐かしいなあ…それお願いします」

つきだしの枝豆を食べながらぼつりぽつりと話し出す。

「今日で定年でした。新潟から出てきて42年長かったなあ。ちょうど2年半前の冬ごろかな、仕事立て続けにミスしてしまって、年のせいか物覚えも悪くなるし若い子にいいように使われるし、一人だし、疲れたなあ、生きてるのも辛いなあ、楽しくないな、もうこんな人生終わらせてもいいかなと思いながらお店に入ったんですよ。たまたま他に誰もいなくて、おかみさん、わたしの疲れた表情が気になったのか『母から頼まれて作った豚汁があるんですよ。作りすぎたのでご一緒に食べませんか?』と言ってくれて。大きな丼にたくさん入れてくれて、はあはあ言いながら食べたんです。

実家は農家でお米を作ってるのですがお野菜も作ってて。時々野菜の端くれなんかを大きなお鍋に炊くんです。豚のない豚汁というのか。普段野菜嫌いのわたしもそれだけは大好きで。豚汁いただいた時、その故郷のお野菜の味を思い出したんです。大根やにんじん、芋…胸に染みました。そして今も一生懸命農家してる親の顔を思い出して、もう少しだけ頑張ってみようと思いました。あの時本当にありがとうございます。」

「そうだったんですか。でもよかったです。また笑顔でお店に来てくれて。無事に定年も迎えられて」


「あれほど辞めたかった会社なのになんだかもう少し続けたくなって。明日から嘱託で働くことになりました。あとフィットネスに通い始めたんです。1年後くらいに新潟に帰って両親と一緒に農家しようと思うんです。そのために体力作りをと思いまして。新潟帰って美味しい野菜作れたら送るのでまた豚汁作って下さい!先の話しですが」

満面の笑顔の片野さん。お酒を美味しそうに飲んでる。本当にお疲れ様でした。

母に作った豚汁だったけど、たった1杯の豚汁だったけど、片野さんの人生を明るくすることができた。母に報告しよう。きっと喜んでくれる。そして雪乃も母の顔が見たくなった。


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