後悔と繋がる思い
初めて書きました。来るお客様の人生をほのぼのと温かく書くことができればと思います。
雪の宿。宿といっても泊まれるわけじゃない。心からゆっくり休めたらいいと思ってつけた名。本山雪乃は病気になった叔母から店を引き継ぎ名前を変えてカウンターだけの小さな居酒屋を細々と続けてる。繁華街でもなく大した料理もお酒も出せないけど、ご近所さんやサラリーマンがふらりと入ってきてくれる。
今日は常連の漣さんが一人だけだ。仕事終わりで作業着はヨレヨレで真っ黒。仕事がいそがしいんだろう。いつも疲れた顔をして、1番安いお酒と一品のおつまみを頼んでゆっくり飲んで帰る。
「おかみさん、少し話し聞いてくれますか?」
声さえほぼ聞いたことがないのに。何かあったのだろう。「喜んで。お聞かせください」
「実は今日は息子の25歳の誕生日なんだ。昔結婚して3人で暮らしてたんだけど、息子が5歳の時、友人の保証人になってどうしようもなくて逃げてしまったんだ。離婚届けだけおいて。今更悔いても仕方ないんだけど。ただただ申し訳なくて…。毎年祝ってやりたかったっと…思うんだ…」
「そうでしたか…」
と呟き、次の言葉を考えてると若い男性客が入ってきた。いつもかわいい女の子と来てくれる人だ。多分この近くの会社員なんだろう。多分彼女さんも。同じ職場だと思う。なのに今日は1人だった。漣さんのが座ってる席を一つ空けて座った。
「今日はお一人なんですね?」と尋ねると、
「あはっ、お恥ずかしいのですが、彼女と喧嘩してしまって。今日僕の誕生日でお祝いしてくれたのですが、結婚の話になって。彼女はすぐにしたいと思ってくれてるのですが、僕は一歩踏み出せなくて」
今日はお悩み相談の日になりそう。
「自信ないんですよ。父親をほぼ知らずに育ったので家庭を持てる自信がないんです。幸せにできるのかなと考えてしまう。あと子どもが出来たら、きちんと愛情込めて育てられるかなあと」
簡単に答えられることではないけれど、「大丈夫ですよ、もう一度きちんと彼女さんの話しを聞いてあげれば」と頼まれたビールをついだ。
漣さん、寡黙の方なのに先ほどで話しなれたのか、若い男性に
「結婚してもしなくても大変なことはいっぱいある。でも1番大切なのはどんなことにも逃げない事だと思うよ。逃げなきゃ何とかなる。幸せばかりが続くとは限らないけど好きなら一緒にいたいのなら進むしかないんじゃないかな?」と優しく諭すように言った。
しばらくビールを飲みながら考えてる。
「幸せにさせると思わないで2人で一緒に幸せになろうと思えばいいんじゃないかしら?」雪乃も言葉を添える。
しばらく静かにじっと考えてた。残ってたビールを飲み干すと
「ありがとうございます。今から彼女のところに行ってきます。そしてプロポーズしてきます!」
お代を払って出て行った。
漣さんのお酒のグラスをを見ると雫がポタポタと落ちてる。男性は下を向いてグラスを持つ手が震えてる。
と、先ほど出て行った男性がまた戻ってきてドアを開けるなり叫んだ。
「父さんだよね!お母さんは教えてくれなかったけど、ずっとお金を送ってくれてたの知ってるよ!ありがとう!!そのおかげで大学にも行けて彼女と知り合えた。幸せになるよ!!」とまた出て行った。
「まさか、まさか…俺の顔を覚えていてれてるとは思わなかった……」
肩を震わせて泣き崩れた。
また2人がここで再会して祝い酒飲んでくれれば嬉しいなと雪乃も溢れる涙をそっと拭いた。