スマホ03
「まずはようこそ、地獄へ。まだドッキリとか、誰かが助けてくれるとかそんな幻想を抱いているならば、早々に諦めるといいわ。私もここに来て一年は経ったかしら? ずっと元の場所に戻ることを祈ってたけど、無駄だと一週間も過ごせば嫌でも理解したわ。そして、本当の地獄だということを理解したのはその頃だったわ。ここでは死を許さない、甘えを許さない、生に全力でしがみつかなければならない場所よ。あなたのように何人かと私も出会ってきたけど、悲痛な現実を知るだけだったわ。私が出会った人たちは皆好き放題、好き勝手、我がままで、憎い程に私と似ていたわ。私は頑張って手製の縄を作って自身の首にかけたわ。死ぬほど苦しくて、苦しくなるほどに力を込めて、ギュッとしたわ。でも、この場所では死が許されない。気が付いた時には、苦しみを覚えたまま私は生き返っていたわ。偶然見つけていた木の実も数日喉を通らず、そのまま餓死でもしてやろうと思ったわ。でも、気が付けばいつまで経っても死ぬことは無い。初めて出会った人もあなたくらいの男の子だった。ずっと文句を言いながら木の棒を振り回していて怖かったわ。だから最初は近づかず遠くから観察していたの。そして男の子は海に飛び込んでいったわ。しばらく見ていると、一番最初にあった大人が男の子を担いで陸に上がってくる様子がみえたの。その大人は男の子の腹を思いっきり蹴ると、そのまま何かの機械を取り出して。少しすると、男の子は大きくせき込みながら生き返っていたわ。その男の子の耳が一部欠けたままだったから、体の欠損は完全には治せないみたいんだな、って私なりに分析したわ。死んでも強制的に生き返らせて、苦しんだ時の感覚や記憶はしっかり残っているのだもの。嫌でも生きるしかないって思ったわ。つまり、ここでは無駄に死のうとすると後々困るってこと。ちなみに、誰がやったかは知らないけど少し離れた場所で、ずっと苦しみ続けている女の子を知っているわ。手足が動かせないみたいで、悲鳴すら上げる力はなくただただ苦しんでいる子。私はああはなりたくないって心底思ったから、とにかく生きる術を手に入れようとしたわ。後、不思議な道具が一人一人に配布されているわ。私の場合はこのベルトバッグと首輪よ。つけた相手を自由に出来る、とんでもないアイテムよ。あなたの場合はそのスマホなのかしら? 結構使ってる人をみかけるけど、この場所では何の役にも立たなくて、私はハズレって呼んでいるけど。まぁ、そんな事はどうでもいいの。この場所は地獄。生きるために生きなければ誰も助けてくれないし、死ぬことも許されない。力をつけようにも栄養になる食料もなかなか手に入らないから、私はずっと非力なまま。首輪をつける相手も中々みつからなかったから、本当に助かったわ。ポチ、貴方は私のために永遠に働いてちょうだい。ふふ、ふふふふ」
僕は目の前の女の子が何を言っているのか半分も理解できなかった。
死なない? 不思議な道具? それよりも、この状況がドッキリじゃなくて、誰も助けてくれない。
「いや、おかしいだろう? 何のためにこんなことを?」
「ハァ!? 私が知るわけないじゃん! 私のほうが教えてほしいわよ!!! この道具だって初めて使ったけど、言うこと聞いている感じ、本当のようだし? 何でそんな道具があるかなんて私が知りたいわよ!? もういいわ、とにかくスグ近くにあるヤシの木から実を取ってきてちょうだい。私の目の前まで運んだら、実を割ってね。ほら、すぐ行きなさい」
「ハァ!? 何で……」
反論しようとした瞬間、首に鋭い痛みが走り反論する気力を失ってしまう。
「……わかった」
僕はコンテナから外に出ると、内陸のほうを見る。海の方面ばかり気がいっていたので、気が付かなかったが、どうやらヤシの木がいくつも近場にあったみたいで、その天辺には実がいくつもなっていた。
ヤシの木まで近づくと、まずは落ちてこないかと思いっきり蹴りを入れてみる。
しかし、その程度の衝撃では落下しないらしい。
イライラした僕は今度はヤシの木に抱き着くと、大きく揺らそうと体重を乗せ揺らしてみる。
しかし、この程度の衝撃では落下しない。
なんで僕がここまでしなきゃいけないんだ、と女の子の命令を無視しようとしたが、再び首に鋭い痛みが走る。ここまでくると、僕にもこの首輪が不思議なアイテムで女の子の命令は絶対な状況下に陥ったんだということを理解するしかなかった。
そして僕は次の手として、ヤシの木に登り始めた。
木登りなんかしたことなかったけど、思いつく限りの方法を試さなければイケないのだろう。ヤシの木になる実をとるべく、徐々に木に登っていく。
そして、木の実に手をかけた瞬間、僕の体力は限界を迎えていた。
しっかりと木の実を握った両手を胸元に引き寄せ、僕は落下していく。
これが僕の最初の死の体験だった。
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子供たちに試練を課せたのだ。
私たちも大人として、現実を知ろうではないか。
同時刻。
ある大人の試練が始まっていた。