スマホ01
この物語はハイファンタジー(フィクション)です。
情報が満ち溢れた世界に生まれ落ち、移り変わる世の中を眺めながら僕は思う。
人は既に生存戦略を放棄。
破滅への道へ。
一歩、一歩、ゆっくりと、確実に。
自らが経験せず、情報のみから導き出される自己解釈の世界。
人が人を縛り、やがて滅亡へとたどり着く。
気づいた時には遅く、取り返しのつかない現実。
それでも。
人は事実に気づくことなく傲り続ける。
僕は思う。
取り返しの効く今やらねば、死の間際で嘆かなくて済むであろう。
せめて、現実に抗う力が無いことを嘆かないで済むように。
日本が崩壊する前に、僕が。
2030年1月1日
12歳の誕生日を迎えた僕は、生配信をしていた推しと一緒に年越しができて心が満たされていた。
両親は神社に行くと出かけ中だ。
生配信も終わり、スマホを片手に推しの情報を検索する。
『新衣装マジ良かった』
『まさかのコスチュームだった』
『今日もかわいかった』
僕が抱いた想いと同じコメントに、思わずニヤけてしまう。
『媚びすぎだろう』
『声嫌い』
アンチコメントは即ブロックだ。
僕の推しは最高なんだ、何も分かったない奴らだ全く。
好きな情報を仕入れ続け、満足感とともに睡魔が襲ってくる。
あぁ、やばいと思った時にはスマホを額に落とし痛みに小さくうめきながらも、抗えない眠気に僕は意識を手放した。
楽しい時間はいつもスマホを操作している時だ。
動画、生配信、ゲーム、すべてが僕を満たしてくれる。
勉強しろと学校で言われるけど、それすらもスマホが全て解いてくれるから手放せないツールだ。
もしもスマホを禁止されたら、僕は発狂して家を飛び出してしまうだろう。
今日も夢の中でも、僕はスマホの画面をのぞき込む。
刹那。
朧げに、スマホ画面に浮かび上がる文字を読み上げる僕。
「将来の夢は何? 働きたくないから、配信者になれたら良いな」
「仕事はそれで良いのか? 良いも何も、そもそもなんで働かなきゃいけないのさ」
「勉強はしているのか? 煩いな、スマホが何でも解いてくれるから勉強なんかどうでも良いじゃんか」
「スマホがなかったらどうするのか? 発狂するね、暴れて家出してやる」
「家出して何が解決する? スマホを返してもらうんだよ」
「誰に? オヤジに」
「スマホ自体が無いのに? そんな訳ないじゃん、どこかに隠してるだけだよ」
「この世からスマホが無くなったとしたら? 無くなるわけないじゃん、うける」
「なぜ、自分事で考えられない? 何だよさっきから、どうでもいいだろ?」
「そのままの生き方だと困るぞ? それ、あなたの意見ですよね」
「…… あれ、スマホの画面が映らなくなった?」
「…… おーい、充電切れかな? コンセントはどこだろう? あれ、ここは……?」
朧げな世界で、僕の意識が徐々に覚醒を始める。
スマホを探す手は何もみつけられず、しぶしぶ体を起こす。
「おはよう、蒔田来 紫苑君。おめでとう、君は選ばれた人類の一人だよ」
突然話しかけられ、僕の意識は一気に覚醒する。
知らない部屋、知らない大人。
「突然だけど、君にはこの島から自力で生還してもらうよ。それじゃあバイバイ」
僕が何か尋ねる前に、スーツ姿の男の人は扉から出て行ってしまった。
唖然とするも、急いでベッドから這い出ると僕も扉の外に出た。
瞬間。
「何、、、これ」
目の前に広がるは一面の海。
潮風が心地よい。
「海? オヤジ? オカン? 何なんだよ一体!?」
扉を出て、僕が先ほどまでいた部屋を見る。
砂浜にコンテナが一つ置かれており、その中にあるベッドに僕はいたようだ。
「これは夢? スマホは...あった」
ベッドの中に僕のスマホはあった。
だが。
「電波がない」
思わず一人愚痴る。
電話もつながらなければ、ネットも開かない。AIが搭載されているが、だからといって現状の解決には何も役立ちそうにはない。
スマホを一通り操作していると、急に覚えるのどの渇き。
一度渇きを覚えてしまうと、すぐにでも水分が欲しくなる。
しかし。
「ペットボトルも蛇口もない...」
まだまだ成長途上の体は、食料を欲求する。
つまり空腹なわけで。
身長が大きい(160cm超え)分、僕の体はエネルギーを欲しているようだ。
「海の水ってショッパイ、けど飲めるのかな……?」
ネットは繋がっていないが、スマホのAIに思わず質問をする僕。
「海の水は基本的に飲むことはお勧め出来ません。理由は以下です。塩分濃度が高い。海水には大量の塩分が含まれています。これを飲むと体内の水分が逆に引き出され、脱水症状を引き起こす可能性があります。また、健康被害のリスクがあげられます。海水には細菌、ウイルス、その他の汚染物質が含まれている可能性があります。これらが体内に入ると、食中毒や感染症の原因になることがあります。そして、 体に負担がかかります。高濃度の塩分を体外に排出するため、腎臓に大きな負担がかかります。これは特に長期的に飲む場合に深刻な問題になります。」
どうやら、海の水は飲んだら危ない様子だ。
でも、AIは続けて教えてくれる。
「どうしても水が必要な場合は、淡水化装置を使う:キャンプ用や緊急時用のポータブル淡水化装置が利用できます。蒸留:海水を加熱して蒸気を集めることで、塩分を取り除いた飲料水を作ることができます。しかし、飲むのは避けて、どうしても必要なときは適切な方法で淡水化してください!」
淡水化装置は手元にはないけど、蒸留ならば何とかなるかもしれない。
そう思った僕は、蒸留の方法をAIに聞く。
「海水を蒸留することで飲料水を得る方法を説明します。以下は、簡単に実施できる基本的な蒸留プロセスです。必要なものは、大きな鍋(フタ付き)、耐熱性の小さな容器、フタとして使用する鍋の蓋(できれば丸い形状で裏返して使えるもの)、氷(冷却用)、火(コンロやキャンプ用バーナー)です」
ダメだ、全く使えない。
「喉乾いた...」
試しにそのまま飲んでみるか? いいや、でもAIはおすすめしないって言っているし、でもこのままだと...
「そもそも、これ何かのドッキリなんじゃないの? 誰かいるんでしょ? おーい」
「おーい」
「何かの撮影? ドッキリ? 喉乾いたから、ジュース頂戴」
「おーい」
僕の声に対して、何も反応を示してくれない。
僕は生まれて初めて誰も助けてくれない現実に直面した。
独り言も無くなり、途方に暮れて死んでいくだけかとベッドの中で身を縮める。
何の冗談かと。
何の悪夢だと。
頭の中で色々な思いが交差する。
日々の日常は、たくさんのストレスがあった。
友達とは話題が合わずイライラして。
スマホを操作していると両親に怒られ。
宿題をしないと怒られ。
好きな動画を見ていれば怒られ。
好きなゲームをしていれば怒られ。
好きな配信をみていたら途中でスマホを取り上げられ。
何で自由にさせてくれないのだろうかと、イライラして。
何て不自由な世界なんだと何度も何度も何度も何度も嘆いていた僕。
だけど。
両親もいない、僕の部屋でもない、一人になった今。
僕は無力で、ただただ渇きと空腹に恐怖する事しかできなかった。
でも、スマホで碌に好きなことができないのならば、別に死をも受け入れてもいいのかなと僕はぼんやりとベッドの中で逡巡する。
ぐるぐると、ぐるぐると。
しかし、僕が思っていた以上に、渇きと空腹は精神を追いやっていく。
つらい。
ツライ。
嫌だ、嫌だ。
気が付くと、飲まず食わずで二日が経過していた。
目の前には海がある、水がある。
ここまで飲まず食わずで僕はよく頑張ったと思う。
だから。
「水......」
海の水に手をくべ、僕は一気にソレを流し込んだ。
「うっ」
短い悲鳴とともに吐き出す海水。
それでも、飲まなきゃと僕は無理やりに海水を飲もうと挑む。
三回目の挑戦時だ。ふいに一つの気配が迫ってきた。