入学試験④(最奥の扉)
「なんだろ、この嫌な気配……さっき聞こえた不気味な音……」
ミケチは少し震えた声で言う。
「だ、大丈夫だろ、きっと、大丈夫……」
ノヴァは自分に言い聞かせるように呟く。
2人は不安を押し隠しながら、音のする方へ慎重に歩みを進めた。
ポチッ
「ん? あっ、ごめんノヴァ、なんかスイッチみたいなの踏んじゃったみたい」
「は? なにやって──」
ゴロゴロゴロ……ッ!!
奥から不穏な音が響くと同時に、巨大な岩が通路を埋め尽くして転がってきた。
「うわーーーミケチ、お前やってくれたな!!」
「ごめんって! 床にボタンあるなんて普通気づかないでしょ!?」
「言い訳してる場合かー!!」
必死に走る2人の背後で、岩が容赦なく迫る。
行き止まりが目前に迫った瞬間、ミケチが叫んだ。
「ノヴァ! 壁の横に小さいスペースがある! そこに避難しよ!」
「ナイス判断!」
2人は息を切らせながら、ギリギリで隙間に滑り込む。
ドガァン!!
岩は勢いよく壁に激突し、粉々に砕け散った。その衝撃で壁には小さな穴ができている。
「た、助かったぁ……もうホント、気をつけろよな」
「うん、ごめんノヴァ」
壁の向こうを覗き込んでいたミケチが、目を輝かせた。
「ねぇノヴァ! なんか箱がある! 宝箱かな?」
「ほんとだ……でも罠かもしれない。油断は禁物だぞ」
ノヴァは警戒しつつ、杖を掲げる。
「仕掛けられし悪意よ、光に曝され姿を示せ──《トラップサーチ》!」
箱の周囲が淡く光に包まれ、罠の気配を探る。
「よし、問題なし!」
「さすがノヴァ、こういうとこしっかりしてるよねぇ」
「お前はもうちょっと慎重になれ!」
そんな軽口を叩き合いながら、2人は宝箱を開けた。
中には魔法の書とスクロール、宝石、そして銀色の指輪が収められていた。
「実は宝箱あるの知っててボタン踏んだんだよね」
「調子乗るなよ」
「へへっ」
「それより……この魔法の書、なんかすごそうだな」
ノヴァが魔法の書を慎重に手に取ると、息を呑んだ。
「これ、《アークライト・ディザスター》だ!」
「なにそれ?」
「上級の光属性魔法だよ! けど……魔力の消費がハンパない。打ったら確実に魔力切れになるから、最終手段ってとこかな」
「すごいじゃん! ノヴァ、覚えちゃいなよ!」
「でも、魔法の書は1人しか使えないんだぞ?」
「いいんだって! ノヴァの方が魔法得意なんだから! その代わり、このスクロールと……えーっと、なんの指輪か分かんないけど、この指輪ちょうだい!」
「……ありがとう、ミケチ!」
ノヴァが書を手にした瞬間、金色の光が彼を包む。光の粒子が体へと溶け込み、ノヴァの魔力が一段と強くなる。
「……やった! 上級魔法、ゲット!!」
ノヴァは拳を突き上げ、子どものようにはしゃぐ。
その時──
「……アァァァ…ウゥ……グァァァ…」
不気味な声が、洞窟に響き渡った。
「!?」
2人は顔を見合わせる。
「岩に追われて必死だったけど、さっきの声の主に近づいてるっぽいな」
「油断せずに行こう……!」
緊張感を高めながら、2人は声のする方へ慎重に進む。
やがて、闇の中から1体のカーストスケルトンが姿を現した。
「《ホーリーエンチャント》!」
ミケチが剣をかざすと、光の加護が宿り、剣が輝き始めた。
「そぉらっ!」
ミケチが光に輝く剣で一閃し、カーストスケルトンを粉砕した。
「へへっ、今の俺たちには余裕だな!」
油断した瞬間、天井から黒い影が滑るように降りてくる。
無数のグロウフレアが羽ばたき、2人を包囲した。
「くそっ、次から次へと……!」
「ノヴァ、来るよ!」
ミケチが叫ぶと同時に、グロウフレアが一斉に飛びかかってきた。
「《ルミナスショット》!」
ノヴァは杖を振りかざし、光の弾を連射する。
光弾は正確にグロウフレアを撃ち抜き、次々と爆ぜ散らせた。
「こっちは任せろ!」
ミケチも剣を振るい、近づくグロウフレアを一体ずつ切り裂いていく。
一際大きなグロウフレアがノヴァに向かって突進してきた。
「くっ、間に合わない──!」
ノヴァが焦ったその瞬間、ミケチが素早く踏み込む。
「ほら、ぼーっとしない!」
光に包まれた剣が横薙ぎに振るわれ、グロウフレアを一刀両断した。残骸が虚空に消えていく。
「ミケチ……助かった、ありがとな!」
「いいって、ノヴァがやられそうなの、放っとくわけないしさ!」
ミケチは気取らず笑い、肩をすくめてみせる。
「……頼りになるな、ホント」
ノヴァは苦笑しつつも、心強さを感じていた。
2人は、慎重に洞窟の奥へと進んでいく。
通路は次第に狭くなり、空気は一層重く冷たくなっていった。足音だけが響く中、やがて、薄暗い通路の先に、古びた石扉が現れる。
「この奥……さっきの声、ここから聞こえてくるみたいだぞ」
ミケチが緊張した面持ちで囁く。
ノヴァは扉をじっと見つめ、杖を握りしめた。
扉には
「深淵の秘窟 最深部、攻略すれば地上への道が開かれり」
と、古びた文字が刻まれていた。
「何がいるか分からないけど、準備はしっかりしとかないとな……」
「うん。でも、ここまで来たんだし、あとちょっとで突破できそうだよな!」
互いにうなずき、慎重に扉の前に立つ。
「せーのっ!」
掛け声とともに、2人は力を込めて重たい扉を押し開けていった──。