入学試験③(未知なる洞窟)
「ねぇ、大丈夫? ねぇ、ノヴァ、目を覚まして!」
薄暗い洞窟の中、ミケチの必死な声が響く。
「うぅ……。」
ノヴァがかすかにうめき声を漏らした。
「ノヴァ! よかった、意識が戻った!」
ミケチは安堵の息をつく。
「ミケチ……ここはどこだ? あっ、俺たち、穴に落ちたんだっけ……。」
まだぼんやりとした様子で周囲を見回すノヴァに、ミケチは優しく微笑んだ。
「無理しないで。待ってて、聖なる輝きよ、生命に祝福を与え、痛みを和らげよ──ヒール!」
ミケチが手をかざし、柔らかな金色の光がノヴァの体を包み込む。傷が癒え、痛みが消えていくのが分かった。
「ノヴァほどじゃないけど、僕にだって人並みに魔法は使えるんだよ。」
ミケチは得意げに胸を張った。
「さすがだよ……。助かった。」
ノヴァは呆れたように笑いながら、そっと体を起こした。
辺りを見回すと、洞窟は奥深くまで続いているようだった。ひんやりとした空気が肌を刺し、壁には青白く光る苔が点々と生えている。かすかな光がぼんやりと周囲を照らし、足元にはゴツゴツした岩が散らばっていた。
「ここ、思ったより広いな……。」
ノヴァがつぶやく。
天井は高く、どこまで続いているのか分からない。奥からはかすかに水滴が落ちる音が響き、薄気味悪い静けさが周囲を支配していた。
「何か嫌な感じがするね。早く出口を探さなきゃ。」
ミケチが剣を構え、警戒を強める。
そのとき──
バサバサバサッ!
突然、洞窟の奥から黒い影が飛び出してきた。
「うわっ!?」
ミケチが反射的に身構える。
影の正体は、赤い目をぎらつかせるグロウフレア──魔力に引き寄せられる性質を持つ巨大なコウモリだった。
「グロウフレア……魔力に反応してるってことは、この先に何かあるかもしれない。」
ノヴァが低くつぶやく。
奇妙な金属音のような鳴き声を響かせながら、グロウフレアは彼らの頭上を旋回し、闇の奥へと飛び去っていく。
「この洞窟、普通の場所じゃないな。」
ノヴァは杖を握り直し、奥へ進む足を止めない。
「もしかして、何か強力な魔力が封じられてるのかも……?」
ミケチが呟くと、次の瞬間──
……ウゥゥゥ……
「おいミケチ、なんかいるぞ!」
洞窟の奥から、腐臭をまとった影がゆらりと現れた。
「うわっ! カーストスケルトンだ!」
ミケチが叫ぶ。骸骨の兵士──しかも呪われた剣を持つ厄介なアンデッドだ。
「エンチャント! 炎! おりゃぁぁ!」
ミケチはすかさず剣を振りかざすが、カーストスケルトンはひるむことなく呪いの剣で反撃する。
「危ない、あんなの当たったらただじゃ済まないぞ!」
「ミケチ!カーストスケルトンには光属性が有効だ!」
「おうけい!」
「ホーリーエンチャント!」
ミケチの剣に光の力が宿り、カーストスケルトンに斬りかかる。
……ウゥゥゥ……
「ノヴァすごい! 少し効いてるぞ!」
「次は俺だ! 輝ける光よ、敵を貫け──ルミナスショット!」
ア゛ァァ……ウゥ……
「効いてる! ノヴァ、トドメは二人で!」
「おう!」
ノヴァの魔法とミケチの剣が一斉に襲いかかり──
……ウゥゥ……グァァ……
カーストスケルトンは悽惨なうめき声を上げ、崩れ落ちた。
「ふぅ、なんとか倒したな……。」
「さすがだよ、ノヴァが弱点を知ってるなんて。」
「本で読んだことがあってな。覚えてて良かったぜ。」
すかさずミケチはマジックポーチにカーストスケルトンの素材をしまう。
「にしても、これだけじゃ終わりそうにないな……。」
ノヴァが天井を仰ぐと、上に続く階段が見えた。
「ひとまず進むしかなさそうだね。」
階段を登っても、洞窟はなおも奥へと続いている。
「ノヴァ、ここで少し休憩しよ。」
ミケチが座り込み、ため息をつく。
「あ~早く帰らないと、シアラに会いたい、シアラが足りないよ~。」
「相変わらずのシスコンっぷりだな、引くわ。」
「うるさいな! 妹と結婚したいわけじゃないけど、どこが好き?って言われたら百個は言えるね!」
「きも。」
ノヴァが呆れた顔を向ける。
「そういうお前は好きな人いないのか?」
「……俺の初恋は、この杖をくれたお姉さんだな。」
ノヴァは杖を握りしめ、遠い目をした。
「数年前、森で偶然会ったんだけど──」
「その人にもう一度会うため、俺は目的を達成しなきゃならないんだ。」
「目的?」
ミケチが問い返すが、ノヴァは立ち上がり、歩き出す。
「そろそろ行こうぜ。早く帰らないと。」
洞窟の奥へと進むノヴァの背中を追いかけ、ミケチも剣を握り直す。
しかし──その足元で、不吉な震動がわずかに響いた。
ゴゴゴ……。
奥から響く不気味な音。巨大な何かが蠢く気配が、確実に近づいていた。
果たして、二人は無事に地上へ戻れるのか──!?