入学試験②(初めての冒険)
ミルフィーユ魔法学院入学試験──開始
受験生たちは森の入り口で、ゴブリンなどの下級魔物を狩ったり、薬草や鉱石を集めたりしていた。しかし、より貴重な素材を求めて、危険な森の奥へと向かう者も少なくない。
そこには、グリズリーという巨大な熊型の魔物や、俊敏で獰猛なブラッドウルフといった中級魔物が潜み、受験生を容赦なく襲ってくる。
それでも、合格を目指す者たちは怯むことなく挑戦を続けていた。
ミケチとノヴァもまた、慎重に森の奥へと進んでいた。
「さすがに、入り口付近の素材じゃ、合格できるか怪しいよね。」
ミケチが呟く。
「だよな。適当に集めただけで突破できるなら、誰も苦労しねぇっての。」
ノヴァがため息混じりに答え、ふとミケチの腰に目を留める。
「……っていうか、その剣、すごく良さそうじゃないか?」
「これ? 試験前に、お父様がソレイユの街の鍛冶師に特注で作らせてくれたんだ。」
ミケチは誇らしげに剣を見せる。だが、すぐにノヴァが手にしている杖に視線を移した。
「それより、ノヴァの杖もカッコいいよな。どこで手に入れたんだ?」
「これ? 昔、森で誰かにもらったんだけど……誰だったかは覚えてない。でも、すごく綺麗な人だったのは覚えてる。」
ノヴァは、どこか遠くを見るように言う。
ガサッ──
突然、茂みが揺れた。
「ミケチ、構えろ!」
「おうっ!」
二人はすぐに武器を構え、気配の主に備える。
──すると、草むらから一匹のスライムがヌルリと姿を現した。
「なんだ、スライムか。よし、ミケチ、俺たちの初陣といくか!」
ノヴァが意気込む。
ミケチは静かに剣を構え、呪文を唱え始めた。
「エンチャント──炎!」
剣の中心から赤い光が広がり、刃全体を燃え盛る炎が包み込む。
「はぁっ!」
火炎を纏った剣を振り下ろすと、スライムは一瞬で蒸発した。
「……おいおい、俺の出番なしかよ……。」
ノヴァが肩をすくめる。
その直後──
ザシュッ!
別の茂みから、もう一匹のスライムが飛び出した。
「よっしゃ、次は俺の番だ!」
ノヴァは杖を振りかざし、素早く詠唱を紡ぐ。
「風よ、刃となりて奔れ──ウィンドカッター!」
鋭い風の刃が疾風のごとく放たれ、スライムを一瞬で切り裂いた。
「さすがだね、ノヴァ!」
「任せろって!」
二人は素早くスライムの素材をマジックポーチに収納した。スライムの素材は安価だが、ポーションや薬品の材料として価値がある。
しかし、そこで終わりではなかった。次々に茂みが揺れ、スライムが新たに現れる。
「また来たぞ!」
ミケチが素早く剣を構える。
「エンチャント──雷!」
雷光を纏った剣を振り抜くと、目の前のスライムは一瞬で消し飛んだ。
ノヴァも負けじと、次々に呪文を唱える。
「凍れる大気よ、鋭き氷弾となりて敵を討て──フロストショット!」
冷気の矢がスライムを貫き、瞬く間に凍結させる。
「くそっ、これで何匹目だ?」
「たぶん、もう10匹以上は倒してる……。」
二人は次々に現れるスライムと戦いながら、着実に素材を集めていく。しかし、その数は減るどころか、ますます増えていく。
「ちょっと待て……もう30匹は倒したぞ!? こんなの、普通じゃない!」
「確かに……こんな数、異常だ。スライムは単独行動が基本のはずだろ?」
次から次へと湧き出すスライムに、二人は眉をひそめた。
「クソっ、試験用の素材も探さなきゃいけないのに、こんな奴ら相手にしてたら時間が……。」
ミケチが焦りをにじませたその時。
「うわあああっ!!」
突然、ノヴァの叫び声が響き渡った。
彼の足元が突如として崩れ、大きな穴が姿を現す。
「ノヴァ!!」
ミケチは咄嗟に手を伸ばすが──間に合わない。
ゴッ!
冷たい落下音が、森に虚しく響いた。
「……大丈夫か、ノヴァ!?」
しかし、返事はない。
ミケチは迷うことなく、穴に飛び込んだ。
暗闇の中を急速に落下する感覚が、全身を包む。
──ドサッ!
硬い地面に体を打ちつけながら、ミケチは目を開けた。
「……ここ、どこだ?」
そこには、これまで見たこともない未知の光景が広がっていた。
ミルフィーユ魔法学院入学試験──波乱の幕開け。