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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

薬局よもやま話

第57回日本薬剤師会学術大会備忘録

作者: イトウ モリ


文章中盤以降に緊急避妊薬及び人工中絶に関連した内容について触れています。気分を害する可能性がある方はご注意下さい。


 前回の学会備忘録を投稿してからもう1年が経っちゃいました。

 歳をとるのは早いですね。


 前回こんなんにポイントをつける人なんていないと思ってたんですが、予想外な反応だったので、もしかしてそれなりに需要があるのかもしれないと再び投稿してみた次第です。

 例に漏れず簡単なメモですが、何かのお役に立てるのであれば幸いです。


 今年はアーカイブでオンデマンド視聴ができるらしいので、参加できなかった講演や分科会も見ることができるそうです。素晴らしいですね。埼玉県薬剤師会グッジョブ。



 プログラム届いてびっくりしたんですが日本薬剤師会の会長、去年のおじいちゃんじゃなくなってました。なにげに去年の名言でうっすらファンになりそうだったので残念です。会長交代を知らないだめな会員ですみません。



 今回もちゃんと式典から視聴しました。

 なんていうか歳をとったらこういう式典ものの良さというか、割に嫌いじゃないなって思えるようになったんですよね。

 なんなんでしょうね、こういうの。


 若い頃はこういうのって意味あんの? いらなくね? みたいに思ってましたけど、いいもんですよね。

 何がどういいのかは語彙力がなくて説明できないんですけど、なんか……いいんですよね。


 人相学とかは特別勉強してるわけではないんですが、しっかりと人生の年輪が刻まれてる人の表情って見ていて気持ちがいいです。

 どっかの偉い人の言葉でありましたよね、40過ぎたら自分の顔面に責任を持て、みたいなの。

 出しっぱなしにしてても恥ずかしくない顔面でありたいなと思いました。



 さて、今回の学会はちょっと重いなあって感じました。宣伝のノリと埼玉県薬会長のキャラのせいで余計にギャップですよね。騙されました。

 超高齢化社会や人口減少による労働力不足、医療ケア児……自分にはちょっと重いテーマでした。ただ単に弱ってただけかもしれませんが。


 寿命自体は延びているのに、健康寿命はそれほどではないから、最後の数年から十数年は……的な話とか。


 政策の視点からみた超高齢化社会と地域包括ケアシステムの話とか、ホントどうなっちゃうんだろう、長生きしないでさっさとくたばった方が幸せかもしんないとか思っちゃうのは、ダメな思考ですかね。


 このままだと自分が完全に高齢者になったとき、もう徹底的に人的サービスは壊滅してるわけですよね。この先子どもが増えるなんてことはまず期待できませんから。


 援助が欲しくても手助け可能な人の数は限られていて、奪い合いになるわけです。僕は平和主義者なので奪い合いなんかに参加したくないんですよね。

 もともと自分のことは自分で完結したいし、人の手を借りるのは苦手です。

 だからとりあえず自分にできることと言えば徹底的に健康寿命を実寿命に近づける努力をするしかないわけです。目指せPPK。



 そんなことより埼玉大学の理事長がかっこいいんすけど。キリッとしてて目ヂカラあって、絶対あの人若い時モテまくりだったと思うんですけど今でもモテますよね、きっと。

 登場した瞬間惚れそうになりましたもん。えっ、ちょっと待って、なんかかっこい人でてきましたけど? 空気変わった? 空気清浄機? 

 場の空気を一瞬で自分色に変えられる存在感の人って憧れますよね、サインほすぃ。


 ああいう歳のとり方、今から心を入れ直せば自分でも間に合うのでしょうか。

 去年の日薬会長に続き、うっすらファンになりそうな人リストに加えさせていただきます。かっこいいじいちゃんが大好物です。


 あとはパラアスリートのスポーツファーマシストの話とか。


 自身が障害者側になったことで、得た知見の話は本当に貴重でした。

 アスリートにどこまで寄り添えるか、どれだけ相手の立場を理解できるかをテーマに、障害を持つ人との相互理解ももちろん出てきました。


 難しいですよね。障害とか病気とか。

 目に見えやすいものもあれば、視認できないものもあって。

 さらにボーダー的な人もいて、診断ついてないけどたぶんそうだろうなみたいな人もいて。

 気遣われたくない人がいて。

 気遣ってほしい人がいて。

 同じカテゴリーの人だけど、対応は同じじゃいけなくて、その人の特性に合わせてきめ細やかに要望に応えていかないといけない。

 ……無理ゲー……と言ってしまったら医療者失格でしょうか。


 この多様性が声高に叫ばれる時代に、避けて通れないテーマです。

 結局、完全に分かり合えるなんて不可能だから、聞くしかないんだよなって思いました。


 どうしたいですか?

 どうだったらいいんですか?

 どうしてほしいんですか?


 そうやって相手を知る努力をしていくしかないんだなって思いました。

 ……言い方はもう少し優しい感じで工夫したいところですね。



 1日目のラストは緊急避妊薬の現状を知りたかったので分科会6を選びました。

 研修は受講済みなので処方箋を受ければ調剤はできます。まだ応需したことはないですが。


 婦人科医の話だと、日本の人工中絶率は世界的に見て非常に低く、ここまで下がれば今後は避妊ばかりに重きを置く教育ではなく、プレコンセプション教育に力を入れていきたいという私見も出ていました。


 透明なゆりかごという漫画で、日本人の死因第1位は、悪性新生物でも心疾患でもなく人工中絶だというフレーズのインパクトが強かったので、最初は嘘だろ? って思ったのですが、漫画が発表された年代に比べるとちゃんと下がっていました。それでも未だに年間10万件以上の数が報告されています。これを多いと思うか少ないと思うかは人それぞれです。

 


 この分科会で『はどめ規定』という言葉を知りました。

 性行為について授業で扱うことが可能なのは高校からなのだそうです。……遅くね?


 初交年齢は年々低年齢化しています。早い人と遅い人で二極化していますが、早い人は早いです。

 さらに小児への性暴力の問題もあるのに、肝心の性行為について義務教育では教えることができない。

 知識がなければ身を守れません。


 おいおい、緊急避妊薬をOTC化する前にやることあんだろうがよ……って思います。


 かくいう自分も、緊急避妊薬のスイッチ化には、議論が出たばかりの時は賛成だったんです。

 望まない妊娠が減れば、凄惨な児童虐待は減るだろうなって。


 でも学べば学ぶほど、そういう簡単な問題じゃなくて、もっと根の深い問題があるって考えるようになりました。環境とか家族とか脈々と続く負の連鎖とか、この社会そのものとか。


 それに避妊さえできればいいという問題でもなくて、性病は放置しておくと、母子感染して未来の子どもに伝染してしまうことだってあるんです。

 

 知らなかったことを後悔したって時間は巻き戻らないから。


 傷つく人が一人でも減ってほしい。

 傷つかないための術を手に入れてほしい。

 そのために教育ってあるんじゃないのかなって思うんです。


 幸せを手に入れたときには、その幸せを守れる人であってほしい。


 だからどうか正しい知識を吸収して、そして自分のことを大切に守ってほしいと思います。




 2日目。


 特別講演を視聴する予定だったのですが、間違って講演後に途中参加しようとしていた分科会にアクセスしてしまいました。開始直前に気づいて、そのまま視聴しましたが結果的に大当たりでした。特別講演はオンデマンドで見ることにします。


 アカデミックディテーリング。

 初めて聞きました。


 非常に気になるテーマです。


 現場にいるとどうしても教科書通りにはいかない事例も多いですが、やっぱり基礎薬学って大事だなって思います。

 去年も似たようなこと言ってたかも。

 基礎系、好きなんですよね。得意かどうかはさておいて。


 薬物動態むちゃくちゃ懐かしかったです。経口クリアランス! 分布容積! 肝クリ腎クリ! うひゃひゃなんだよこの公式、全然わかんねえ! おかしいな、なんで国試受かったんだろ。


 現場出てからの方が大学の授業の大事さに気づくあるある。


 学び直しって本当に大事ですよね。分子標的薬とか、抗体製剤とかもう1回ちゃんと大学で基礎から習ってみたいです。


 肝代謝なのに腎排泄みたいな添付文書の記載の話はすごく勉強になりました。

 抱合されたものは尿中排泄されるけど、薬効が消失してるのは肝だというトラップ。うぅ、動態も勉強し直したい……。でも時間がない……。


 動態の話をしてくれた人、いい声でしたね。学生の時にあの人の講義聞いてたら確実に寝ます。すごく質の良い睡眠が取れそうな気がします。そういういい声でした。もちろんちゃんと起きて聞いてましたよ。




 ラスト分科会は医療的ケア児です。


 本当に大変。

 そんな言葉で片付けてはいけないくらい過酷で、そして孤独なんだと思います。

 まだまだ法整備が全然追いついていなくて、でも必死で関係者が調整を進めている状況。


 今までだったら、病院から出ることができなかった子たちが、医療の進歩で家で過ごすことができるようになった。それは本当に素晴らしいことだと思います。


 ただしそれは病院で受けていたケアを在宅で継続するということで、それは家族だけでやり遂げられることではないんですよね。


 病院だってたくさんの職種が連携して一人の患者さんに関わっているのだから、在宅ケアでも同じくらいの関わりが必要ってことなんですよね。



 まだ薬剤師になったばかりの頃、研修会で在宅業務の話をしている社外のベテラン薬剤師の話を聞いて、すごいなあって感じた日のことを思い出しました。


 その当時、うちの会社は在宅に全く興味がなくて、他社との熱量の温度差にちょっと幻滅しかかっていた時期でした。


 今はもう、もうちょいセーブさせてくれよってくらい外来と在宅でパンパンで働かせていただいてます。良いか悪いかは別として。

 薬剤師が在宅に行くのは当たり前になりました。前は在宅の仕事がやりたければ転職して会社を変えるしかなかったんですけどね。時代の変化っておもしろいです。


 きっと医療的ケア児の在宅業務に、薬剤師が当たり前に参加する日も来るんでしょう。関われるのであれば、関わっていきたいと思っています。ますます家に帰る時間が遅くなりますが。



 この先まだまだ要介護者が増えていく日本では、多職種が連携していかなければ全員共倒れです。


 でも別にこれは医療や介護の現場に限ったことではないはずなんですよね。


 公共の福祉って言葉は、もしかしたらすでに死語化してるのかもしれないですけど、お互いがお互いを思いやって、少しずつ我慢して、少しずつ協力し合える世の中が戻ってきたら、もう少し生きやすい社会になるんじゃないのかなって感じました。


おしまい。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 凄く面白く、また、ためになりました。(埼玉大学の理事長がかっこいいとか。 ありがとうございました
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