姫と魔王の出会い
登場人物
男:魔族
女:人間
二人の初めての出会い。
男が一歩足を踏み出すと、そこにある草や落ち葉を踏んだ音が耳に届く。
他にするのは、風がそよめくわずかな音と、風に揺れる木々の葉がわずかばかりにカサカサとなっている音。
時折、離れたところから獣の咆哮も聞こえる時がある。
あたりを十分に警戒してから、また一歩男は新たに踏み出す。
それを繰り返して、歩き続ける。
男の足取りは重たい。
後ろを何度も振り返り、背後におびえているようだ。
「もういないか」
先ほどまで誰かに追いかけられていたらしい。
男を追いかけていた足音らしいものは聞こえないのだろう。
追手が身を潜めているのか、追手を捲いたかどちらかかもしれない。
「ここまで来れば…。」
男は木に背を預け、空を仰ぎ見る。
木に生い茂る草が太陽の光をさえぎっているが、わずかな隙間から日が覗いている。
その一筋が男の顔を照らす。
「この世界は…眩しいな」
「あなたの顔にお日様が当たっているからよ」
頭の上から降ってきた声に男は身構える。
頭上に視線を送るが、逆光で見えない。
「何者だ!?」
「名乗るなら、自分から名乗りなさいって言ってほしい?」
「……もう言ってるぞ」
男は声の主を探すために、目を細め頭上に視線を向け続ける。
近くにいることは確かだが、見つけることができない。
「正式に言ってあげましょうか」
「いや、いい……どこにいるかもわからないが、あんたは敵ではなさそうだ」
「そうかしら?」
上から降ってきていた声が、横からして男は目の前に声の主を見つける。
話し方と声から、女と決めつけていたがあたりだった。
音一つ立てずに、どうやって現れたのか。
「急に現れたな……木の精霊か?」
「いいえ、人間よ」
女が男に近づき、目の前に立つと、さらに顔だけ男にズイッと近付ける。
女は男の眼をまっすぐと視る。
「あなた、魔族なのね」
「魔族だという根拠は?」
「……目に炎が宿っている」
「炎?」
「ここが戦場でなくてよかったわね」
「何者だ、女!」
胸倉を掴み、男は女を威嚇する。
女はまっすぐと男を見つめるだけで、抵抗を見せない。
「今すぐここから去りなさい」
あまりにも真っ直ぐな言葉。
全く動揺した様子もない。
男は女を解放する。
「次に」
「”次”はないわ」
男の言葉を遮って女が発言し、女は男の手を振り払って森の奥へと消えていった。
男は女が消えるとすぐに、その場から立ち上がった。
あたりを警戒することは忘れずに、じっくりと時間をかけつつも、自分のいるべき場所へ戻るために。
切り立った崖になっている、島の先端に立ち、海の向こうにあるはずの、あの女がいる、人間の島のほうを見据える。
あの女のことが頭から離れない。
女は怖がることなくまっすぐ男を見ていた。
男のほうがひるんでいた。
「面白い女だった」
続く
だいぶ前に書きかけていたものを発掘しました。
自分でも書き始めた時を思い出しながら、追加・修正を加えて、最後まで書きたいと思っています。