追跡者 2
「駄目だ。君が記憶を提供してくれなくてはね」
迷った。ここからは自分との相談になる。記憶を提供。それだけなのだろうか。何か隠してこうした取引をしているのではないのだろうか。提供後、自分も花となって彼らの一部になってしまわないのだろうか。
だが、メリットはたくさんある。このような記憶の集まりは、一つの図書館のような役割を果たすだろう。この地域の記録というものはそもそも存在しないことが多く、貴重な情報源となってくれることは間違いがない。目的の人物でなくても、何か有益な情報を今後得ることができるはずだ。
それに、僕の記憶なら城の機密に触れるようなものは殆ど無いと言っていいだろう。城の一員になってわずかな経歴しかないからだ。
「交換します」
ニールは手を差し出した。記憶が吸い取られていく。自分の脳に張ってある、液状の膜が脱皮をするような感覚で、ゆっくりと脳からはがされて離れて行く。痛みは全くない。記憶が削り取られていくという感覚もない。
「ありがとう。読み取った。君の記憶の花はじきに芽を出すだろう」
「不思議な感覚でした」
「私も同じ感覚を味わったよ。150年前の話になるがね」
「150年も前に・・・?」
「ああ、それ以来記憶の交換をした者はいないよ」
「何か、このあたりで最近動きはありませんでしたか?」
「あった。この辺りをドラゴンが飛び回っていた時期がね。今から1週間くらい前の話だったか」
「ドラゴンですって?」
少しまずいことになったのかもしれない。囚人たちの中で竜の力を使える者はいくらかいたが、その中でもあの人だとしたら一刻も早くここを立ち去らねば。
「竜の特徴は?」
「アーネス・ホーンという種類だ。私の記憶の中に、竜に詳しい者がいるのでね」
種類までは知らなかった。僕が知っているのは、竜使いを乗せている巨大なドラゴンという情報のみで、そこまで詳細な特徴はこちらでも掴んでいない。
「どんな種類のドラゴンなんです?」
「このドラゴンは珍しい。人に慣れることがまずない、という点では他の竜と同じだ。言葉を話すことのできない種類で、特徴的なのはその口だ。空気ごと対象を吸い込み、空気ごと噛み砕く。休息を取っている時は空気と同化するため瞳で捉えることはできない。だそうだ」