追跡者 2
翌日、一隊は城を出る。空気感は悪くない。ここから例の森へは歩いて一週間ほど、移動魔法で1日ほどかかる。森自体もたいへん広いのでエネルギーは温存していこう。せっかくなのでその森にも名前をつけてやろうかな。
一行は森の中へと突き進む。最近は森の任務が多い気がする。まあ、全体的には森のない地域の方が珍しいから仕方ないのかもしれない。20人のメンバー達は2列10人ずつの隊を組んで進んでいく。隣にいるのは今回、副隊長に任命した上級魔法使いのナレン。年はニールより二つほど上だ。
今回の遠征は、内国の実地調査も兼ねている。情報を集めて図書館司書に伝えれば、より正確な国の事情を作ることができるという点でも有意義なものとなる。だから、できるだけ多くの情報を持ち帰ることも大切だ。
森の中は景色が大して変わり映えがしないので、通常ならかなり神経を使わないと進めないところではあるが、ここはルーハイ出身であることが役に立っている。ニールは森の中で迷わず、正確に元の道へと戻ることのできる感覚を持っている。これが、ニラードに気に入られて隊長を任ぜられている理由であり、結果中級魔法使いで尚且つ年少でありながら人の上に立つ存在になっているのである。
「うわっ」
自分のと同列、3つ後ろを歩いていた兵が声を上げる。振り返ると痛みを訴える彼の腕に何やら針のようなものが刺さっていた。それを抜いてよく見ると、本当に針のように見えるが足が生えている。かなり細くて目が捉えることができなかったのだろうか。彼が被害に遭った場所に戻る。このあたりだ。見たことのない虫。気になって観察してみたくなる。いた。葉っぱの上に何匹か、同じような形状の虫が歩いている。こうやって見ると針が葉に刺さっているように見える。ニールの存在に気付いたのか、虫たちは歩みを止めた。そのまま観察していると、虫たちはゆっくりと体の体制を変えている。身体の先端、最も鋭利な部分がこちらに向けられていくようだ。なるほど。こうやって体の向きを変えることで目には針の先である細かい点しか捉えることしかできず、見過ごしてしまうのだろう。
感服していると、次の瞬間点が一気に大きくなったように見えた。まずい。虫たちが跳びあがって攻撃してきたのだ。間一髪で躱したから良かったものの、これが直接目に入っていたら失明は免れないだろう。生物の瞳孔目指して狙いを定め、狙われにくくするのと同時に確実に失明させる道を選択しているのだろうか。この森の生物は恐ろしい。
今後こういった虫は気を付けるよう隊に指示を出す。なかなか危険度が高いのではないのだろうか。この先が不安になる。兵の負傷が腕で良かった。傷も軽く済んでいる。だが目の場合は話が全く異なるから安心していられない。
何か人の気配がないかを優先的に探す人、野生の生き物を動きを観察する人、森の地形を把握するのに務める人、どういったことを重要視するかは個人に任せている。その方がいろいろな情報が手に入るからだ。まだまだこの森は深そうだ。自分達がどれほどまでの距離に来たのか分からない。このまま未開の地にたどり着いてしまいそうだ。