追跡者 2
ニールは一仕事終えた後だった。先ほどの市場で物を売り裁いていたものはやはり過去塔の中にいた者であり、既に再収監が終わっている。
それにしても、どうしてまたこんな見つかりやすい場所に戻って商売を始めたのだろうか。そういったことを調べるのは自分の役割ではないが、気になってしまう。脱獄が成功しても、行く当てがなくて結局馴染みのある地に戻り人生をやり直そうとしているのかもしれない。実際、塔が開け放たれた際にも、外へ出てから再び自身のいた部屋に戻っていった囚人や、そもそもその部屋から一歩も動かなかった囚人がいたとさえ聞く。自らの野望の為、外の世界へ飛び出していった囚人たちに頼れる家族はいたのだろうか。顔向けがそもそもできるのだろうか。自分だったらどうするだろう。故郷のルーハイに戻り、親族に助けを求めるだろうか。
いや、それはないだろう。そんな面目のないことはやはりできない。そういった神経の図太さはなかなかない。
今回捕まえた脱塔者は元々そこまで塔の中でも高いランクにいなかったから容易に見つけ出すことができた。それでもまだまだ捕まえるべき脱塔者は多い。他のグループも活躍をして収穫をあげているとは聞くので、少しでも自分で貢献できることをしたい。
ニールは捜索本部に戻る。相変わらずニラードは忙しそうだが、向かうべき次の場所を指示してくれた。
「この辺りね」彼女が指を指す場所は、ここから南東へ進んでいった方向にある。先の任務で行ったような森にひどく囲まれている、というか森そのものだ。
「分かりました!」ニールは隊に指令を出す。翌日の出発だ。彼にとって違和感なのは、どうして決まった地の名前がそれほどないのだろうかといったものである。地図という地図は設けられているのに、具体的な地名が付された箇所はあまりにも少ない。ルーハイにおいてさえ、その内部では森や川、湖に一つひとつ名前があり区別していた。この国には測量士が必要だろう。
だが、今自分がやるべきことを見失ってはいけない。既に国中に散らばった捜索隊とは被らない場所に赴いて情報を収集すること。それだけを考えよう。頼れるもののない者どもは人気のない場所を選んで群れ、自足自給の生活を送っているのかもしれないのだから。次は何か新しい発見があるかもしれない。場合によってはその場で確保ということもあるだろう。
ニールは宿舎に戻った。自分の隊のメンバーのことを考える。彼らは疲弊していないだろうか。自分だけが前のめりになり、彼らに必要な休息を与えられているだろうか。そう思い目を瞑った。