第8話 釈然としない何か
それから何度か、同じ六人で、遊びに行く日があったりした。
碧としては、黒羽とはチャットアプリのIDを交換しているし、一度遊びに行った経験もあるので、黒羽と碧の二人で出かけても不自然ではないと思うのだが、そう碧に話しても、「いいから!」と言われていつも通りの六人の集まりが継続していったのだった。
そんなある日。
「今度、サッカー部の試合があるんだけどさ、ちょっとした観客席がある場所でやるんだ。よかったら、川島と黒澤さんで、見に来ないか?」
そんな話を、黒羽から持ち掛けられた。
黒羽がそんな話をするということは、部活での自分のかっこいいところを、碧に見せたいという思いがあるのだろう。
「無理に俺を挟まなくても、碧なら来てくれると思うけど……」
俺がそう言うと、黒羽は一瞬驚いた顔を見せると、ため息を一つついた。
「な、なんだよ?」
「いや、そういう感じか、と思ってさ」
そういう感じって、どんな感じだよ。
「まあ、それなら、そうだなあ、ほら、女子一人が観戦に来てても、サッカーの見方とかもわからないだろうし、浮いちゃわないか不安になるだろ? そこで、川島が黒澤さんにルールとかの解説をしてやるとか、そういうのでいいから」
黒羽はそう説明する。なるほど、それはわからなくもない。
俺も別にサッカーのルールが詳しいとかじゃないけど、ワールドカップなんかはテレビで見たことあるし、背番号何番の選手が黒羽かってことくらいは教えられるだろう。
黒羽がシュートしたとか、アシストしたとか、そういうことを碧に伝えてやればいい。
「そういうことなら……」
俺はそう納得し、チャットアプリで碧に連絡を入れるのだった。
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そして、黒羽のサッカーの試合当日。
俺は、首尾よく碧を試合に誘うことができていた。
これで、黒羽は碧に自分の得意なサッカーでかっこいいところを見せることができる。
碧としても、試合に来るということは、黒羽のかっこいいところを少なからず見たいと思っている。
つまり、二人の仲はある程度順調、と言っていいだろう。
しかし、俺の中にはどこか釈然としない何かが、ずっと渦巻いているような心地がした。
二人の仲が上手くいっている、問題ない状態だというのに。
考えてもわからないことは意識しないようにしながら、俺が試合会場の最寄り駅で待っていると。
「あ、蓮!」
改札の奥から、碧の姿が見えた。
初めて碧を含めた六人で遊びに行った時期よりも、だいぶ季節が初夏に向かって進んでいることもあって、最初の時より碧は薄着の、オフショルダーのワンピースとなっていた。
首元のひらひらも華やかで、爽やかな印象で夏らしい、碧にとてもよく似合っている。
碧の私服姿はあれから何度か見たけれど、いつも慣れずに衝撃を受けてしまう。
「ほんと、何着ても似合う美人だよな……」
「ちょ、ちょっと、蓮!」
「あっ、ご、ごめん!」
いつも、うっかり声に出してしまう。
碧を恥ずかしがらせてしまうので、本当はよくないのだろうけれど、いつも本当に綺麗だから。
……どれもこれも、黒羽に綺麗に見せたい、ということなんだろうな。
……いや待て、なんだ今の感情は。
それは、最初から分かっていた、当たり前のことだろうに。
「何してんのよ、ほら、行くわよ!」
その言葉に俺は意識を引き戻され、慌てて碧の隣に並んで試合会場へと向かうのだった。