第5話 私服姿の碧
そうして迎えた、お出かけの日、当日。
行き先は、ボーリングやテニスなどのスポーツや、カラオケなどが楽しめる、有名な複合遊戯施設となった。
待ち合わせ場所はそこの最寄り駅となったのだけれど、俺はといえば、なんだかそわそわしてしまって、待ち合わせの20分前には集合場所に着いてしまった。
おかげですっかり手持ち無沙汰、通行人に邪魔になっていないかが気になって、スマホを確認する手もおぼつかない始末。
こんなんで今日一日大丈夫か? なんて我ながら心配になる。
そんな、居場所なさげに、一人突っ立っていると。
改札の奥から、とんでもなく美人の女性が、こちらに向かって歩いてきた。
いや、その女性が誰かはわかる。
黒髪サラサラのロングヘア―に、若干ツリ目気味の凛々しい赤い瞳、そして脚の長いスタイルの良さ。
その女性はまぎれもなく、俺の幼馴染、黒澤碧だった。
しかし、そのことは理解しているはずなのに、認識が追い付かない。
いつもの碧との違いといえば、碧の恰好が制服ではなく私服であるという、それだけだ。
少し青みがかかった白のワンピースは、ひらひらとした華やかさを出しつつ、清楚さを失わないバランスを保っている。
そして、そのワンピースを黒のベルトで止めている高さと、ワンピースから伸びている、黒タイツを履いた細長い脚が、碧のスタイルの良さを強調している。
つまりは、碧の私服姿が美人過ぎて、衝撃を受けてしまったというわけだ。
「あ、いた。蓮、今は一人?」
碧から声をかけられて、ようやく俺は我に返る。
「え、ああ、うん、そう」
「どうしたのよ、落ち着きないけど」
落ち着きを取り戻せない俺に、碧は怪訝な目を向ける。
「いや、その、碧の私服姿が美人過ぎて……見惚れちゃって……、はっ!?」
口に出してから、俺は何を言っているんだと焦る。
「いや、その、あの、その」
焦ってしまって、上手く次の言葉が出てこない。
碧は碧で、突然のことに赤くなっている。
「な、何を言ってるのよ!?」
「ご、ごめん」
「いや、謝ることじゃないけどさ……」
碧も、この場をどう乗り切ろうか困惑しているようだ。
「だいたい、今日は、そういう言葉は黒羽くんに言ってもらうように、頑張る日なんだからね!」
それはそうである。
今日の機会を利用して、碧が黒羽とお近づきになるのが、今回の目的だ。
碧の方も友人女性を二人呼んでいて、碧へのアシスト体制を整えているらしい。
今日の恰好も、そのために気合を入れて準備したのだろう。
「黒羽も、綺麗って言ってくれると思う。今日の碧なら」
ぼそぼそとつぶやくように、俺がそう言うと、碧が「そ、そう……」とだけ言って、会話が止まってしまった。
気まずい。
俺が初手から変なことを言ったせいで、間が持たない。
だからといって待ち合わせ場所から離れるわけにもいかない。
誰かこの空気を救ってくれと祈りながら、待つこと数分。
端正な顔立ちとスタイルの良さが目立つ、黒羽が現れた。
スキニーのパンツと薄めのジャケットを合わせた爽やかな姿で、私服姿もイケメンだ。
黒羽がこちらに来た時、碧がとてとてと数歩、黒羽の方に歩いていった。
「黒羽くん、今日は来てくれてありがとう! その服、とっても似合ってるよ!」
「ありがとう。黒澤さんも、とっても素敵な格好だね。綺麗だよ」
「あっ、ありがとう……。嬉しい……」
そんな会話を繰り広げていた。
そうだよな、黒羽から言われるからこそ、嬉しいんだよな。
まあ、ちゃんと黒羽から碧に言ってもらえたことは、とてもいいことなんじゃないかな。
そんなことを考えているうちに、碧が呼んだ二人の友人女性も、待ち合わせ場所に到着した。
黒羽はその二人にも、「その服、可愛いね」とか「似合ってるよ」とか口にして、二人からきゃあきゃあ言われている。
……そうだ、俺も黒羽の姿勢から、女性との接し方を学ばないとな。
今日は、俺にとっては、そういう日だ。
改めて、よし、と気持ちを新たにする。
ちなみに、それから10分後。
「お、遅れてごめん、はぁ、はぁ」
真田は待ち合わせ時間ギリギリに、思わぬ方向から走ってきた。
「お、おう……どうした?」
「ぜぇ、ぜぇ、駅の出口を、間違えて、駅の周りをぐるっと走ることになって……」
真田は息も絶え絶えに、理由を俺たちに話した。
とりあえず、こうはならないようにしよう、と決意したのだった。