第4話 非の打ち所がないような
翌日、俺は友達と昼食をとるべく、学校の屋上に集まっていた。
その「友達」の中には、黒羽も含まれている。
俺が事前にゲーム仲間のグループチャットで「今日のお昼、屋上で一緒に食べよう」と誘っていたからだった。
そして集まったのが、俺と、黒羽と、高校入学当初からのゲーム仲間の真田春也、以上三人である。
集まってご飯を食べ始めたのはいいのだが、俺はなかなか話を切り出せずにいた。
……だって、自分から話題を切り出していくのって、けっこう難しくないか?
そんな感じで俺がコミュ障を発揮していると、
「川島、そろそろじゃないか? 何か話があって俺たちを呼んだんだろ?」
と黒羽が話のきっかけを提供してくれた。
本当に、気遣いもできて、非の打ち所がないような男だ。
「あ、ありがとう……。えっと、話ってのは、とある女子生徒から、どこか遊びに行こうっていう計画があるんだけど、どうせなら大人数の方が楽しい、ってことで、幼馴染である俺に、誘える友達いないか? って聞かれて。それで黒羽と真田ならどうかな? と思って声をかけたんだけど……」
俺は事前に立てた計画に沿った会話を、二人に対して話す。
「なるほどね、ちなみに幼馴染の女子生徒っていうのは?」
話をスッと理解してくれた黒羽が、質問を返して会話を繋げてくれる。
「……黒澤碧」
「でぇぇぇぇ!?」
俺がおずおずと名前を出したときにオーバーリアクションで驚いたのは、真田だ。
まあ、黒羽と違って、女子に耐性なさそうだもんな、真田は。
「ってかお前って黒澤さんと仲良かったの!?」
俺の前に乗り出すようにして、真田が迫ってくる。
「ま、まあ……幼馴染だしね……。」
仲がいいかどうかはともかく、幼馴染であることは本当だから、嘘は言ってない、はず。
「そういうことは早く言えよ!」
「言ってなかったっけ?」
「聞いてねぇよ! 紹介しろよ!」
紹介っていったって……。紹介するほど仲良くなかったし……。
「まあ、今回のことが、紹介的なイベントになる……んじゃないかな?」
「確かに! よろしくお願いします! 黒羽も来るよな?」
急に真田がピシッとしたお辞儀を俺にした後、真田が黒羽に話を向ける。
しかし、黒羽は、少し困ったような顔を向けて、
「いや、でも俺、部活の拘束時間が多いから、そういうみんなと予定合わせるような話に入っちゃうと、みんなの迷惑になっちゃうと思うんだよな……」
なんと、黒羽が思わぬ難色気配だった。
「土日も部活ある週も多いし、お前ら二人で行くなり、別の人誘うなりしたほうが……」
これはまずい!
黒羽が優しすぎるがゆえに、全てが破綻しようとしている!
碧は黒羽だけが目当てで、俺とか他の人はジャガイモかなんかみたいなもんだ。
黒羽が来ないと、今回の話は全て立ち消えとなるだろう。
行く気満々の真田も落胆するだろうし、何より……。
『お願い! 私と蓮でお出かけをして、そこに黒羽くんも呼んでほしいの!』
あんなに必死になって俺に頼んできた碧を悲しませることは、なんか、嫌だなと思った。
だから。
「頼む! 黒羽にはどうしても来てほしいんだ!」
俺は黒羽に対して、深く頭を下げた。
「でも……」
「予定は、黒羽の予定を最優先にして組むようにしてもらうから!」
そう言っても、黒羽は申し訳なさそうな顔をするばかりだ。
何か説得材料はないか……何か……、そうだ!
「頼む、俺たちに女子グループとの関わり方を教える日だと思って! 俺たちの今後の青春生活のために!」
人がいい黒羽の良心に訴えかけるように、頭を下げたままそんなことを叫ぶ。
「そうだ! それは必要だ! 俺からも頼む! 俺たちの青春生活のために!」
真田も話に乗って、一緒に深く頭を下げてくれた。
そうして必死に頼む俺たちに、黒羽はやれやれといったような苦笑いを浮かべながら、
「……しょうがないなあ、俺が行くには、日付指定させてもらうしかないけど、いいか?」
黒羽はそう言って、参加を了承してくれた。
「ありがとう! うん、それで大丈夫だ! 碧にそれで予定組んでもらうから!」
俺は笑顔になって、まくし立てるようにそう答えた。
碧は、きっかけを作るために俺なんかを頼ったくらいだ。黒羽の言われた日程に調整することくらい、やってのけるだろう。
そう考え、安心した俺は、「これから俺たちの青春だ!」なんて騒ぐ真田と、賑やかに昼の時間を過ごした。
その姿を、黒羽は微笑ましそうに見つめるのだった。