第12話 エピローグ
「ああ、やっとか」
次の日、前と同じように、黒羽と真田と三人、屋上で昼食を食べているとき、俺はこれまでのネタばらしとともに、碧と付き合うことになったことを伝えた。
驚かれるかと思ったら、黒羽の反応と来たら、こんなものである。
「やっと、って……」
「いや、だって、川島と黒澤さん、明らかに目を合わす回数多かったし、そりゃあ、そうかなって」
なんと両想いがバレバレだったらしい。指摘されると恥ずかしくなる。
「さ、真田は驚いてくれるよな? 俺が碧と幼馴染だって話したときだって、あんなに驚いてたし……」
「まあ、俺には女心はわからんから、黒澤さんが応えてくれるかどうかはわからなかったけど、川島が意識しまくってたことは、さすがの俺でも気づいてたぞ」
な、なんと、真田にまで……。
「俺って、そんなに、わかりやすかったのか?」
「うん」
「そりゃあ、もう」
そこまではっきり言われると、もうどう反応したらよいのやら……。
ひとしきりそんな話を終えると、真田はニカッと笑って、
「さーて、今回のことでいえば俺たちはさながら恋のキューピット、つまり貸しイチってわけだ。今後は俺たちの青春生活に協力してもらうぜ?」
そんなことを言いながら、真田は肩を組んでくる。
「いや待て、川島は『協力する』なんて言いながら、いつの間にかターゲットの女性を自分に惚れさせてしまうかもしれないぞ? ふふっ」
黒羽まで、冗談めかした口調で、言ってて自分でも笑いながら、そんな煽り方をしてくる。
「そ、そんなことしねぇよ! だ、第一、俺は碧のことしか、好きにならねえし……」
言ってて自分で恥ずかしくなって、言葉がしぼんでしまった。
「あー! ノロケ発言しやがったな? リア充爆発しろこのやろう!」
「いてててて、やめろ、締めるな!」
肩を組んでいたはずの真田は、いつの間にか俺をチョークスリーパーする体勢となっていた。
そんなじゃれ合う姿を、黒羽は楽しそうにニコニコと笑って眺める。
これはこれで、穏やかで、いい時間だと思った。
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世の中には、男性主人公に、美人の女性幼馴染がいるという物語が沢山ある。
その多くが、物語開始時点で、既にお互いにずっと親しくしていて、お互いの色々なことを知り尽くしていることが多い。
それ故に、そこから新たにドキドキすることがない、よって恋愛感情が芽生えることがない、という話が書きやすいことが、「幼馴染は負けフラグ」なんて言われる所以なのだろうと、俺は思っている。
ということは、この言葉は、俺と碧の関係には当てはまらない。
これまでずっと「遠い世界の人」として、お互いをよく知らずにいたから。
例えば、ある日の朝。
俺と碧は付き合うようになってから、お互いの家の最寄り駅が一緒なことから、駅で待ち合わせをして一緒に学校に行くようにしていた。
今は、俺が先に駅に着いて、碧を待っている。
「蓮~!」
鈴の鳴るような声で、名前を呼ばれ、碧が現れる。
「待った?」
「ううん、今来たとこ。行こっか」
そう言って、二人並んで改札を通る。
それから、ホームに向かって階段を上がろうというとき。
碧の右手が、そっと俺の左手を掴んだ。
その柔らかな感触に、俺はびくりとして碧の方を見る。
碧は少し顔を赤らめた、でも嬉しそうな笑顔で、俺を見つめてくれる。
そうして、「碧は、こんなに可愛い行動をして、こんなに可愛い笑顔を見せるんだ」と、碧の「これまで知らなかった姿」を見ることができる。
そのことが、俺をドキドキさせる。
そんなことが、碧と一緒に過ごしていると、幾度もある。
そんな俺たちに、「幼馴染は負けフラグ」なんて言葉が、当てはまるはずがないのだ。
駅から電車に乗って、学校の最寄り駅に到着すると、再び俺と碧は手を繋いで、学校へ向かって歩き出す。
そのあたりになると、他の生徒たちも周りに増えてきて、美人で人気のある碧と、その隣を歩く俺に、多くの視線が集中する。
今はまだあまり慣れていないけれど、これから毎日、碧とともに歩くことは絶対にやめたくないので、これから頑張って慣れていこうと思う。
「碧~! おはよー!」
そう言って声をかけてくるのは、これまで何度も六人組で出かけていった、碧の女友達二人だ。
「うんうん、今日もラブコメ成分、ごちそうさまです」
なんて言って、二人のうちの一人が、俺たちに向かって拝んでくる。
「ちょっと彩奈!?」
「えへへ、ごめんごめん! それじゃお邪魔虫は先にいってますよ~っと」
そう言って二人は、嵐のように去っていった。
さっきまで照れた顔を見せていた碧は、一転むくれたような表情に変わる。
そんなコロコロと変わる表情のいずれも、俺にとっては魅力的な、可愛い表情だ。
こうして、俺は毎日、どんどん碧のことが好きになっている。
そう実感し、思わず、笑みがこぼれる。
「……なによ?」
碧は怪訝な顔をして、俺を見てくる。
「いや、やっぱり碧は、可愛いところいっぱいあるなって、思ってさ」
そう言うと、碧はまた顔を赤くする。
「な、何言ってるのよ!?」
「いや、だって、一生言うって決めたし」
俺は事もなげにそう言う。
「~っ! ああもう、ホントに一生だからね!」
赤い顔でそんなことを言ってくれる碧を見て、「俺は一生碧に可愛いって言い続けられるな」と、改めて確信するのだった。
皆様、ここまで読んでいただきありがとうございました。
本作は、ここまでで一区切りとなります。
今のところ、後日談的な、交際後の話などを書くかどうかについては何も決めていません。
書くかもしれないし、書かないかもしれません。
そんな自分がエピローグまで書ききることができたのは応援してくださった皆様方のおかげと思っております。
本当に今までありがとうございました。