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第11話 これが答え

 話の引き延ばしをしたところで、予定した日付などは、あっという間にやってくる。

 俺は、放課後すぐに呼び出した教室に向かい、碧を待つ。

 待ち時間を用意することで、少しでも心の整理ができればと思ったのだけれど、気持ちは晴れないままだった。


 もうすぐ、世界で一番大好きな人と、何の関係もない他人に戻るのだ。


 辛くないはずがない。


 でも、碧の想い人は黒羽だ。


 それを選べるのは、碧だけだ。


 そんなどうしようもなく当たり前なことを、グルグルと考えることしか、俺にはできなかった。



 やがて、碧がやってくる。

 教室内に俺の姿を見つけて、近くに寄ってくる。

 ひどい顔をしているであろう俺に、心配そうな表情をしてくれる。


 ああ、最後まで碧は、俺に魅力的な姿を見せてくれるのか。


 そう思うと、逆に決心がついた気がした。


 意を決して、言う。


 言え。


 自分の顔がどんなにひどいものでも、顔を上げて、言え!





「碧、俺、碧のことが、好きになってしまったみたいだ」





 言った。


 もう後戻りはできないその言葉は、この言葉から始まった。


 碧は、驚いた表情を見せていた。


 頬には、涙まで伝っていた。


 そんなに、俺の事を信用してくれていたのか。


 それなら、頭を下げなければいけない。


「だから、俺は、もうこれ以上、碧と黒羽の仲を、応援することはできない。俺は、碧と黒羽の近くから、離れようと思う。……本当にごめん!」


 俺は頭を下げながら、ぎゅっと目をつぶる。


 裏切りだと、頬をはたかれるだろうか?


 逃げるように、その場から去られてしまうだろうか?


 それとも、優しい碧は、そっと受け入れて、静かに俺から離れてくれるだろうか?


 そんな想像をする俺は、いつの間にか身体を震えさせ、じっと動けずにいた。





 そんな俺の身体は、肩から突然グイッと持ち上げられた。


 何事かと思って、目を見開いた瞬間。







 碧は俺に、強引に唇を重ねていた。






 がっしりと、逃がさないとでもいうように、強く、強く俺の肩を掴んで。






 しばらくの間、碧が俺を離すことはなかった。






「ど、どうして……」

 ようやく離されたとき、俺の口から出たのは、そんな言葉だった。



「これが、私の答えよ」



 長いキスの後で紅潮した顔で、碧は俺にそう告げた。


「寝ぼけたことを言う蓮は、これで目を覚ますかと思って」


「これが……答え……、キスが……答え……」


「そう、これが、答え。私がこういうことを今一番したいと思っている相手は、蓮、ってこと」


 キスをしたい相手が、俺。


 つまり、今の碧が好きなのは、俺……?


「ああもう、本当にいつも、思った通りにいかないわ。蓮とのことは、何もかも。今だって、自分でも何やってるんだろうって、思ってるし……」


「な、なんで……」

 自分でも情けないことを言っていると感じるが、そんな言葉が口を突いて出る。

「本当に、なんででしょうね? 最初は、本当に、黒羽くんと仲良くなりたいって思ってたのよ。顔とか、好みだし。でも、初めて、みんなと一緒に出掛けた日、蓮が、心からの言葉で、私のことを褒めてくれて……。そうよ、あのときから、全てが変わり始めたの」


 碧は、話しながら、自分の思考を確認していくように、続ける。


「あの後も、その日私は、蓮に驚かされっぱなしだった。耳打ちでアドバイスなんかをしてきたり、カラオケで私の姿を情熱的な目で見つめてきたり、挙句の果てには私に対して面と向かって『一番美人だった』ですって? そんなの、意識するに決まってるじゃない!」


 碧は怒りながら照れているような、複雑な表情で話し続けた。


「それからは、目的と手段が、完全に入れ替わったわ。蓮と会って、蓮と話をするために、黒羽くんを含めたメンバーで、出掛けることを続けて。……それを認めるまでには、今の今までかかったけどね。それが何? 私のことが好きになったから、私の元から離れようですって? そんなのは認めない! 私のことが好きなら、ずっと私の側にいなさいよ!」


 最後、碧は、叫ぶように俺に言いきった。


 やるべきことは、すぐにわかった。





 俺は、ゆっくりと碧の元へ歩み寄り、そっと、自分の腕で、碧の身体を包み込んだ。





 今、俺と碧は、世界の誰よりも近い位置にいる。





 そう、実感し、そう、碧に伝えるために。





「碧、ありがとう。俺の事を、好きになってくれて。俺、一番好きな人から、好きって言ってくれて、本当に嬉しい」


「ばか。そういうことをすぐ言葉にしちゃうから、私はこんなになっちゃったのよ」


「じゃあ、控えるようにしたほうがいい?」


「ダメ、一生言い続けなさい」


「わかった。一生言うよ」


 そう言い合う間も、俺たちの距離は、変わらぬままだった。


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