第10話 気づかないフリをして
そんな、試合の帰り道。
碧と二人並んで、試合会場から駅まで歩く中、俺は考えていることがあった。
それは、碧とこのまま協力関係を続けてよいのか、ということだった。
正直、今日、思い知らされた。
いや、これまでずっと、気づかないフリをしていただけなのだろう。
碧は俺にとって、誰よりも魅力的な女性だということに。
新しい姿を見せられるたびに、毎回見入ってしまって。
顔が近づいただけで、その後ずっと顔を見合わせることができなくなって。
そんな状態であるならば、もうこれ以上、否定できない。
この俺、川島蓮は、黒澤碧という女性が、誰より好きだと。
もともとずっと持っていた美貌が、これまで「遠い世界」のことだったから見ていられた美貌が、これまで何度も一緒に出掛ける、もはや「遠い世界」とは言えないところに来てしまって。
そして、それに至るまでの、碧の行動が。
俺に頼みを聞いてもらうとき、本当に心から誠実にお願いをしてきたり、ボーリングやカラオケに至るまで、何に対しても一生懸命で、真剣で。
そんな碧の、姿にも、心にも、俺は惹かれてしまったのだと。
そんな俺が今後、碧と黒羽の仲をとりもつことなど、できるはずがない。
けど、今存在する碧との接点を、手放したくないと考える、浅ましい自分もいて。
俺は結局、駅から電車に乗って、家の最寄り駅で碧と離れるまでに、協力関係の解消を、言い出せなくて。
結局、その日は、寝る前にようやく、チャットアプリで碧に、
「月曜日、話があるから、放課後、この前集まった教室に来てほしい」
そうメッセージを送るのが、精一杯だった。