割れ鍋に綴じ蓋?
とある一族の先祖です。
騙し打ちのようなものだ。借金をかたに婚約をするように迫ったのだから。
父の行いを心から反省しつつ、きっと相手は婚約を破棄したいと言い出すだろうからその時は誠実に受け入れて、この話を持ち出したこちらが悪いから借金の方は返さないでいいと伝えよう。
「実は私は呪われている……」
と言いたくなかった事実を伝えた。
「実は私は呪われている……」
と、初顔合わせの絶世の美女に言われていきなりどうすればいいのかとティアナは戸惑った。
確かここは婚約者の私室で、まだ数回しか会っていないのに寝室まで通されて大丈夫かと不安に思ったのだ。貞操的意味で。……まあ、そういう時は正当防衛だからと反撃してもいいと思うけど。それをしたら化けの皮が剥がれると後で両親に叱られるのだろうと簡単に予想つくのである程度我慢は必要だろうけど。
そこでなぜか絶世の美女!!
えっ、婚約者。愛人とか恋人がいたのっ⁉
まさか、借金を代わりに払ったからお飾りの妻になれって事ですかっ!!
と困惑していた矢先に先ほどの言葉だ。
どういう事。
と、前世の記憶にある宇宙猫というのはこういう事を言うんだろうなという表情になってしまった自分に。
「すまない。騙していて」
と頭を下げる仕草が。
「クリオ様……?」
まだ数回しか会っていない婚約者の仕草にそっくりだった。いや、別にじっと見ていたわけではないが……いや、しっかり見ていました。だって、公爵子息様で、イケメンで。なんでわざわざ借金の形で貧乏伯爵家の娘と婚約するのか不思議で裏があるのかなと疑っていましたので。
ちなみに爵位を返上しようかなと話は進んでいたのだが、領民の事を考えるとそれをするのに躊躇われて、現在保留中だ。
だって、うちの領地は昔から魔物がよく出没する地域で、武力でのし上がった我が家の兵士たちが守ってきたのだから。
あっ、話がそれた。
「クリオ様の親戚ですかね。雰囲気も近いですしっ。あっ、もしかしてセアラ様の方の親戚ではっ!!」
興奮したように言ってしまう。
びくっ
動揺するかのように小刻みに反応するさまを見て、よくよく見ると。
細い絹の様な金色の髪も。
やや釣り目の緑色の瞳も。
よく見えると顔のパーツ一つ一つが。
「ホント、セアラ様………ハイドン公爵夫人にそっくりですね。セアラ様の若い頃は絵姿を見た事ありましたけど、クリオ様は性別こそ違うがセアラ様にそっくりで………」
と初めて会った時にその美しさでつい憧れてしまった………前世で言えば“推し”だ。そんなセアラ様との相似点に気付いてぺらぺらとそこまでしゃべっていると。
「その、私が…………クリオだ」
と、絶世の美女が告げた。
気まずそうに顔を手で隠して。説明してくれた。
以前、魔女に求婚されて断ったところ――というか一桁の時に見た目こそ若いが実年齢は三桁の方に求婚されても困ると言うのが本音だったらしいが、その魔女に振られた腹いせにと呪いを掛けられたとの事。
それが月の満ち欠けで性別が変化するという代物で、その姿が自分の若い頃にそっくりだと喜んだセアラ様が侍女と共に磨きをかけてこの絶世の美女ぶり。
呪いを掛けた魔女曰く、
「“あちしと結婚すれば呪いが解けるようになっているから。そんなコロコロ性別の変わる貴方を受け入れる者はいないから諦めてあちしのモノになりなさい”という事で」
「それって、脅迫ですね……」
断られたからってそんな腹いせって理不尽だなと思うけど、古今東西そういう話は多かったわねと理不尽だが受け入れざる得ない。
「少しでも淑女ではない行いをすれば母が叱りつけるし、女性の姿を一目見た男たちが不法侵入して迫ってくるし……、それが親友だった時の絶望ときたら……」
女性の時は引き篭もっているのにそれでも噂になるというか……クリオ様狙いの女性が勝手に入ってきて、男性の姿だと媚びてきたのに女性姿だと敵意むき出しの様に女性不信……。いや、人を信じるのが怖くなったとの事。
それにしても公爵家なのに侵入者が入ってくるなんてセキュリティがばがばじゃないだろうか。つい、セ〇ムかアル〇ックをした方がいいのではと心配になってしまった。
「なので……このままではいけないと父が都合のいい家を探してそこで白羽の矢が立ったので……その……」
「――分かりました」
言い淀んでいたクリオ様の言葉を遮り、
「三日ほどお待ちください」
何とかしてみせましょう。
力いっぱい告げるとすぐに秘密を打ち明けてくれたことに誠意をもって答えようとすぐに。
「――マリサ」
「仰せのままに」
実はずっと控えていた侍女に用意を頼んだ。
三日後。
「――待たせたね」
まだ呪いで女性の姿をしているクリオ様の元に騎士の格好をした私。
「ヘルマン辺境伯令嬢…………?」
「ティアナと呼んでくださればいいですよクリオ様」
目をぱちくりしているクリオ様に向かって恭しく跪いて、
「貴方に相応しい者になったのでここに来ました」
と手を取ってそっとその白魚のような甲に口付ける。
前世から男装の麗人が好きだった。特に男の格好をして戦う女性が好きで。ベル〇らとかに憧れた。転生したら武力で貴族位を得た家系で魔物が多く出る環境なので当然のように兵士として前線に出ていた。
両親は女の子らしい格好をしてもらいたかったが。
で、借金のかたという形で婚約を申し込まれた時渡りに船とばかりに半狂乱だった。
まあ、もっとも私が嫌だと言えば断っただろう。我が家の異名は……その愛が重い一族という代物で、愛する人が居ればドラゴンすら倒してしまう一族なのだから。
まあ、前世の記憶があるから一族から少し浮いているし、ハイドン公爵夫人の美しさに“推し”活動をしているから家族愛を注げるだろうという判断の元送られた。
まあ、正式な婚姻は様子を見てからになるからそこで決定すればいい。
絶対化けの皮を剝がすんじゃないと何度も言われて気を付けてきたが先日の呪いの話だ。それを聞いて思ったのだ。
これ男装の麗人をするチャンスじゃない。と。
「クリオ様が女性になるのなら私が男になればいい。それに貴方を狙う輩も私が倒して見せますし、魔物相手をした事あるので魔女も倒せますよ」
なので、お買い得です。
にこやかに告げてそっと抱き上げる。
憧れのお姫様抱っこをする男装の麗人だ。
「羽根のように軽いですね」
そっと微笑んで告げると。
「女…女性に抱き上げられるのは男の沽券として………」
「なら、男性に戻ったら今度は私を抱き上げてください」
それもそれで前世からの憧れだ。
「私は呪いに負けずに女性なら女性として振舞い、借金のかたである婚約者である私にすら誠実であろうとする貴方に恋しました」
そう。人を信じるのを怖がっているのにそれでも私を気遣ってくれるありように心惹かれる。
「それに」
綺麗な顔が赤く染まるのを見つめながら。
「クリオ様が性別をころころ変えても妊娠するのは私なので子供に影響はありません」
安心してくださいとそっと頬に口付ける。
「ヘルマン家は愛が重い一族なので安心して任せてください」
呪いでも何でも受け入れますので。
そう宣言すると。
「嬉しいけど、何か複雑です………」
と本来男性のクリオ様は頭を抱える。
「ふふっ。可愛らしい人だ」
前世のイケメンの様にさわやか笑顔で告げて、ベットに押し倒したいなと内心思っていたが、騎士服を慌てて取り寄せてくれたマリサの目が汚したり、破いたりするなよと無言のプレッシャーを掛けてて怖かったので行動に移さなかった。
それから数年後妊娠中に件の魔女が現れたのだが、当然殺してほしいと訴えるまで痛めつけておいた。
当然、クリオ様にばれないようにこっそりと。
ばれたら妊娠中に何をやっているのかと叱られるからね。
ネタバレ
ティアナ・ヘルマン
前世の記憶持ち。男装の麗人に憧れて特にオス〇ルになりたかった。
クリオ・ハイドン
呪いで女性になってしまう。
男性に性的に迫られ、女性の裏の面を見て軽く人間不信。
だけど、まさか婚約相手が男装の麗人になって迫ってくるとは………。
クリオ「もう、お婿に行けない」
ティアナ「私の婿になってますし、何ならお嫁さんも体験させてあげますよ(無駄にハイスペック)」