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キングの買い物  作者: 19
20/23

ユメノアト

 

 一面火の海の中に立ちすくんでいる。

 空気に接する身体の表面全てがチリチリと痛むのに、何故か精神的にはとても穏やかで静まっている。


 オレンジ色に揺れる炎の向こうから腕が一本伸びてきて、強い力で俺の身体ごと持って行こうとする。

 抵抗しながら炎の向こう側へ引きずり出された俺の服に点いた火を、腕の掌が乱暴に叩いて消す。

 また強い力で引っ張る腕に抱きこまれ、火の中のように熱い誰かの胸で意識を失う。 


 そんな夢を見ていた。


 目が覚めると、見た事も無い部屋のベッドに寝ていた。


 何故か身体のいろんな所にガーゼが貼られたり、包帯が巻かれたりしている。

 それに片方の目が見えない。

 

 それに声が出ない。

 ただしこれは何も喋る気が無いのであまり苦にならない。


 部屋には常に、もう一人誰か男がいる。

 知らない男二三人が交代でベッドの横の椅子に座り、監視する様に俺を見ている。

 男と目が合うのが嫌なので、反対側にある窓からいつも外を眺めている。

 外の風景から、ここがマンションの一室であるらしいことがわかる。

 窓の外には何の変哲も無い閑静な住宅街が広がっており、マンションの門から覗く道路を時折人が行き交うだけで、殆んど車は通らない。

 

 俺を監視している奴等は、俺がトイレに行くときもトイレのドアの外までついて来るので落ち着かない。

 それに俺が何かに触れる事を好まない。特に隣で果物の皮を剥いているペティーナイフなど鋭く光る物に対して何気なく手を伸ばすと、触ろうとしていた物を俺の前から遠ざける。


 食事は毎日三度しつこいくらいに出されるが、食欲が無いのであまり口にしない。

 食後にいくつかの錠剤を飲む為にちゃんと食べないといけない、と金髪の男が口元までスプーンを持ってくるので嫌々食べる程度だ。

 そいつは俺の身体のガーゼや包帯を何日かに一回剥がして、隠れていた傷らしきものに消毒をする。

 最初のうちは肌に触れられるのが嫌だったので、手で払いのけて抵抗していたが、かなり粘り強い。

「ぃやだ!」

 久し振りに聞いた自分の声は、全てを拒絶する言葉だった。

 そもそも何の前触れも無く急に身体に手が伸びてくるのが嫌だ。襲われる様な衝動に駆られて怖くなる。

 他人が不意に椅子から立ち上がったりする大きなアクションや、突如大きな音が鳴ると、身体が勝手にビクつく。

 ところが金髪の男は女みたいに優しい顔をしておいて、あまりにしぶとくガーゼに手を伸ばしてくるため、諦めてしたいようにさせておく事にした。

 

 話せるようになった俺に男達がいろいろ話しかけてきたが、喋りたいとは思わなかったので、ずっと窓の外を眺めていた。

 

 何故こんな情況に自分がおかれているのか思い出そうとするが、身体中のガーゼや包帯の下が急にジンジン疼きだすし、それが体内をこだまして酷い頭痛を引き起こすので考えないようにしている。

 

 一日の大半を窓の外を眺めて過ごしている。

 日に二回マンションの前に止まる郵便配達のバイクや、夕刊を配る新聞配達のバイクを見て時間が経過した事を知る。

 そうやって何日も過ぎていったような気がする。


 身体に張り付いたガーゼの枚数が少し減った頃、夕飯の後に隣に座っている眼鏡をかけた男が「風呂に入るか?」と聞いてきた。

 夜はこの男の担当らしく、いつも日が暮れてから俺が眠るまで、ずっとこの男が隣にいる。

 外が暗くなりカーテンを閉めるので窓からの風景を見る事も出来ず、隣で本を読んだり何かのプリントに目を通している男の横顔を眺めているので、顔を覚えてしまった。

 その男の掌と指にも、俺と同じように包帯が巻かれている。


 湯船には浸かりたかったが、浴室へ行くと縛られたり身体に新しい傷が増えるから嫌だと丁寧に断った。

 相変わらず口から出るのは何かを拒否する言葉ばかりだ。

 具体的に浴室で何をされたかと聞かれれば上手くは説明出来ないが、足が、太腿が、浴室へ行ってはいけないと警告を鳴らしている。

 男は何故か辛そうな顔をしていた。

 俺が風呂に入らない事がそんなに悲しいのか。

 毎日渡された温かい濡れタオルできちんと身体を拭いているのに。変な奴だ。

 男の表情が辛いというより悲しそうに見えたので、少し心配になって男の髪の毛に触れ、頭を撫でた。

 あたたかい。

 すると男の顔に微笑みが戻ったので安心した。


 しばらくして、いつまでも取れない足首のガーゼに何となく触れてみる。

 特に痛みが無いので、テープを外してガーゼを捲る。

 すると踝から十センチほど上に真横に線を引いたようにかさぶたが現れた。指でその線をなぞってみると少し凹んでいる。

 反対側の足首にも同じ傷跡があった。

 なんだろう、これ。

 ガラスの中に浮かぶ白い足首の映像が頭の中で映っては消え映っては消え、いつのまにか顔をしかめていた。

 隣で書類を読んでいた男が突然立ち上がった音に驚いて、身体が縮む。

 男は怖い顔をして何も言わないまま、見上げる俺の手を退けて両足首のガーゼを張り直した。

 光る物だけでなく、自分の身体に触れる事もタブーらしい


 ある夜、ベッドサイドテーブルの引き出しの中に見覚えのある、手の平程の小さな機械を見つけた。

 鼓動が高鳴るのを押さえつつ、二つ折りになっている機械を開けた。

 一つの面にボタンがギッシリと並んでいて、反対の面には画面がある。三毛猫の顔がアップで映し出されている下に時間と日にちが表示されている。

 俺はこの機械が喋るのを知っている。

 大好きな声で俺の名前を呼ぶ。

 その声が聞きたくて、ドキドキしながら適当にボタンを押すが画面の表示が変わるだけで全く喋らず静かなままだ。

 確かにこの機械に間違いないのに、と思いながら機械を何度もたたんだり開けたりしてみる。


「どうかしたのか?」

 例の夜担当の男が聞いてきた。

「これ……俺の宝物なんだ。毎晩喋ってくれてたのに……今は全然話してくれない……大切にしてたのに壊れたのかな?」

 顔の前で必死に機械を触りながら、初めてまともな会話をした。

「貸してみろ」

 そう言って、俺の機械を取り上げた。

 大切な物なのに人の手に渡ってしまって不安になる。

 心配になので、上半身を前屈みにして画面を見ながらボタンを押す男の顔と小さな機械を交互に見た。

 本当にこの男に直せるのだろうか。大事な物なので早く返してほしい。

 男はいくつかボタンを押して、最後に「これかな?」と言って中央の丸いボタンを押しながら機械を耳にあてている。


 機械が何か喋ったらしく、眼鏡の奥の瞳が曇った。

 壊れていなかったと分かって嬉しくなった俺は、男の手から無理やり機械を奪い取り、ベッドの中に潜り込んだ。

 布団の中で、先程男が最後に押した中央のボタンを押して、機械を耳にあてる。


『おやすみ。ユキヤ』

 少し鼻にかかった優しい大好きな声で機械が呟いた。

 一気に身体が溶け出すように緩和する。

 大きく溜め息をつき、何度も同じボタンを押す。押した回数だけ機械は俺の名を呼ぶ。

 ユキヤ……。俺の名前はユキヤっていうのか……。

 

 そのまま眠ってしまおうとニヤついたまま目を閉じると、布団の上から何かが圧し掛かって重たい事に気付きベッドから顔を覗かせた。

 さっきの男がベッドの布団に両腕をつき、顔を伏せていた。

 

 どうしたんだろうと起き上がり、男の肩にそっと手をおく。

 その肩が僅かに震えている。

 急に身体の具合が悪くなったのかもしれないと慌てる。


「もう……。もう、やめてくれないか? 俺が悪かった。……やっぱり手放すべきじゃなかった。……だから頼む。……もう許してくれ」

 

 頭を抱えて独り言の様に呟く男を見て、俺は焦った。

 途切れ途切れのかすれた声が泣いているのかもしれないと連想させた。

 俺のせいか? 俺が泣かせたのか? どうしよう。

「ご……ごめんなさい」

 原因が掴めないままとにかく謝罪し、以前した様に男の髪に手をやり頭を何度も撫でてみる。

 それでも男が顔を伏せたままなので、どうすればいいか必死に考えを巡らせた。

 駄目もとで、子供の様にキスしたら泣き止むかもしれないと思いついた。

 

 自分の顔を男の方に寄せると、男は少し驚いたように顔を上げた。

 その隙をついて、男の唇に自分の唇を重ねた。


 男の髪の毛をもう一度そっと掌で撫でた。少し硬い髪の毛からでも温もりを感じる。

 

 全部欲しい。この髪も、唇も、肩も、身体も、声も、もちろん心も、全部。

 

 このぬくもりだけで、俺はこれから茨の海を歩いていける。


 いつかそう誓った事を思い出した。


 それを皮切りに、鮮やかな記憶が淡色だった脳の中に凄い勢いで流れ込んできた。

 どんどん満ちてくる海水に浸った脳は、渇きを潤しゆっくりと浮き上がった。


 目を見開いたまま、ゆっくり顔を離した。


「ユキヤ……」


 その声が先程小さな機械から発せられた音と同じ音色だと気付く。

 透き通る水で覆われた、漆黒の瞳を見つめる。


「せん……せ……い……」


 長い夢の後 


 一度終わった世界が

 

 また始まる。




土日結局更新できませんでした。・゜・(PД`q。)・゜・ユルシテクラサイ…

昨日の晩、ついに小説の完結を待たずして読者数解析が復旧され、それを見てゲロるという事件が発生しました。

ブログの方をメインで考えておりましたので、こちらの方は拍手数・コメント数から察するに10人前後の読者数を予想しておりましたら、平日は毎日70人程の方に読んで頂いていたと知り、まあ軽く度肝を抜かれた次第でございます( ´∀`)Ь逝ッテヨシ!

ウ○チを投げていたら、予想外に檻の外から沢山の人に見つめられていたゴリラの気分です。そんなつもりじゃなかったんです!ホントマジごめんなさいってゴリラもきっと思ってるはずΣ(*゜д゜*)クッハア--!!!。(こんな表現しか出来なくて本当にごめんなさい!でもこういう奴なんです……私)

こんな小説を、こんなに沢山の人の前にさらしていいのか悩みどころですが。もうあと三話程で完結なので恥を忍んで書いちゃいます。オラアァ-Σ(゜∀゜ノ)ノ─ッ!イッケェェェ--!!!

次回作の連載を始める前に目を通そうと思って買ってあった「小説の書き方」という本を、とりあえず神棚に移して毎日拝もう……。ああ、もうこれで何か安心だ!アホタレ!(゜∀゜ )ノ

あと少しなのでお付き合い下さいますと幸いです。

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