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白いふわふわ。風鳴の怪鳥。

 北にある目的の広い空間まであと僅か。

 本来なら数日かかる行程も、道が一直線である事、魔剣の力によってセス達の身体能力が向上した事によって大幅に行程を短縮する事が出来た。


 始めはぎこちなかったのに、道中の戦闘も問題無くこなして行く姿は頼もしい限りだ。

 しかし、最初こそ嬉しそうに武器を振るっていたセス達だったが、次第に不満を口にする様になった。


「凄く良い武器なんだけどさ、何だかズルしてるみたいで嫌だな……」


「何言ってるのアレン。先生が言ってたでしょう? 私達自身が強くなった訳じゃ無いって」


「いや、そういう事じゃなくてさ。なんかこう……分かんないかなぁ」


「俺もアレンと同じ意見だ。別に武器が悪いって話じゃないんだ。んー……なんて言うか、なあ?」


 アレンとアランは腕を組んで考え込んでしまった。


 そんな二人の様子を見ていたレイヴンには何が悩みなのかさっぱり分からないでいた。

 助言をしようにも、性能の良い武器を使って戦う事自体がズルだとは思わないからだ。


 レイヴンにとって武器とは道具だ。

 魔物を倒すだけなら素手で充分。

 その方が戦い易い。

 自分が振るっても折れない強度と、魔物の素材を傷付けずに切断出来る斬れ味があれば、それで良いのだ。

 

 セス達の場合で言えば、足りない分の実力を武器や防具で補う事にあたる。慢心してはいけないが、装備を整える事は重要な事だ。ナイフ一本が命を救う事だってある。


「何が問題なんだ? 魔物はちゃんと倒せているし、斬れ味も強度も問題ない様に見えるが?」


「だから、そういう事じゃ無いんだよ先生。今まで苦労してた事が急に楽チンになっちゃうと違和感っていうかさ……」


「頑張って訓練して来たのに、なんだかなぁって」


「先生は同じ事考えた事ない?」


「先生の魔剣凄いもんね」


(ああ、そういう……)


 アレンが言いたいのは『達成感があるか無いか』そういう事だろう。


「この魔剣は俺にしか使えない。他の者が持てば魔力を吸い尽くされる。それと、良い武器を使う事はズルイ事にはならない。例えば、一人で冒険しているのなら、どんな武器を使おうが勝手だが、魔物を効率良く手早く倒す事はパーティー全員の生存確率を上げる事に繋がる。そしてお前達自身の生存確率もな。死にたくない、死なせたくなければ割り切れ。腕を磨くのとは別だ。仲間を死なせたくは無いだろう?」


「うん……」


 微妙に納得していない気がするが、レイヴンにはこれ以上の事は言えそうにも無かった。


(ふむ……達成感など考えた事も無かったからな)


 後でライオネットにでも説明してくれる様に頼んでみれば良いだろう。


「先生くらい強くなれば、こんな悩みなんか無くなっちゃうんだろうなぁ」


「そうでも無い」


「え? 先生も悩みとかあるの?」


「加減が難しい。気を抜くとやり過ぎてしまう。戦斧を使って花畑から花を摘む様なものだと言えば分かるか?」


「「「……」」」


「どうした?」


 ポカンとした顔をして固まっていたセス達は、一斉に深いため息を吐いた。


「なんて贅沢な悩みなんだ」


「一回言ってみてぇよ……」


「私達なんて全力出してもギリギリだもんね」


「言うなよ」


「先生強いから当然だけどさ……」


「強いって言うか最強の冒険者って呼ばれてるもの」


「だよな……」


(……言わない方が良かったか。難しいな)


 悩みがあるというのは、共通の話題になると誰かが言っていた気がして試してみたが、失敗だった。


「さあ、行くぞ。目的地はもう直ぐだ」


 不満を漏らしていた時よりもセス達の表情は暗い。


 そんなに気にする事も無いと思う。

 誰でも冒険者になれるが、誰もがSランク以上の冒険者になれる訳でも無い。

 経験を積み、自分に合った戦い方を身に付ける他無いのだ。


 そして何より“生きる事” を意識しなくては。

 死んでしまっては何も成せない。

 強力な魔物を倒す事よりも、時には逃げて生き延びる事の方が重要だと思う。


 現にSSランク冒険者であるランスロットやリヴェリアの部下達も絶えず自分の戦い方を工夫している。

 一流の冒険者でさえ、そうした努力を続けている。

 駆け出しの冒険者が不満を漏らすのはまだ早い。


(……そうか。これを言ってやれば良かったのか)


 リヴェリアもマクスヴェルトも、こういう場面ではよく喋る。

 コツがあるがあるのなら教えて欲しいものだ。


 全員が暗い表情を浮かべたままのおかしなパーティーは、北へ向かって歩みを進めた。




 あれから数時間、ようやく目的地に辿り着いたレイヴン達は、広い空間内に浮かぶ奇妙な物体を見つけて天井を見上げていた。


(何だアレは?)


「でっけぇ〜……」


「これが風鳴の怪鳥?」


「鳥なの?」


「どうなのバート。鳥好きなんでしょ?」


「僕は別に鳥博士じゃ無いよ。食べるのは好きだけど、あんな鳥見た事無いもん」


「翼はどこ?」


「「「さあ?」」」


 ふわふわとした白く丸い物体は、羽ばたく素振りも見せずに宙に浮いていた。

 顔を見る限りでは鳥に間違い無い様だが、寝ているのか目を閉じたまま動く気配は無い。


『ふははははははは!!! 待っていたぞ冒険者諸君!!!』


 頭上から降り注ぐ声は高らかに笑って、レイヴン達を歓迎した。


「うわっ! 鳥が喋った⁉︎ 」


「流石、怪鳥なだけのことはあるね」


「どうするの? あの高さじゃ攻撃が届くのはユリとアッシュだけよ?」


「いや待って。まだ何か言うみたいだ」


『ふふふ。私はこのダンジョンの主。ここまで辿り着いた君達に褒美を与える。って、うわ……近くで見るとグロテスクですね』


『ちょっと! モタモタしてないで早く投げなさいよ!』


『う、受け取るが良い!!! 』


(あの声……)


 白い物体から放り出された色鮮やかな塊が地面に落下して飛び散った。


『『うわあ……』』


(……?)


 落ちて来たのは鳥の姿をした魔物の死骸だ。

 落下の衝撃で酷い見た目になってしまっているが、怪鳥と呼ぶに相応わしい出で立ちと言える立派な翼と長い嘴が辛うじて確認出来た。


 羽からは微量の魔力を感じる。

 おそらくこの羽で風を自在に操っていたのだろう。


「な、何だこれ⁈ 」


「コレが褒美?」


「どういう事なの?」


「うわ……流石の僕でもコレは食べられないや」


「食べる気だったのかよ……」


『ふふふ。どうだ! 我が同胞の亡骸ではあるが、素材としては申し分ないでしょ……じゃなくて、申し分あるまい!!! 特別にくれてやろうではないか! ふははははははは!!!』


『で? この後の事考えてるんでしょうね?』


『ちょっと、駄目ですよフローラちゃん! 静かにして下さい! 巨大化したツバメちゃんの厳かで幻想的な雰囲気が台無しです!』


『分かった分かった。ちゃちゃっとやってよね』


『あ、今二回言いましたね⁉︎ 』


『良いから早くやりなさいよ! 』


(何をやっているんだ……)


 ミーシャとフローラの会話は丸聞こえだ。

 何の真似か知らなが、ツバメちゃんを巨大化させてダンジョンの主を演じている様だ。

 同胞の亡骸をくれてやるなどと、意味が分からない。


(と、言う事は……)


 地面に落下して来たこの魔物は、風鳴の怪鳥という事で間違い無いらしい。


 その間にも、セス達は熱心に魔物の観察を行っていた。

 しかも驚いた事に二人の会話すら怪鳥の仕業だと信じ切っている様だ。


「綺麗な羽! これ、お部屋の飾りに使えないかな?」


「馬鹿だな。これを組合に持って行ってお金に変えるんだよ」


「お、この爪は高く売れそうだぞ」


「この嘴も良いね」


(やれやれ)


 熱心なのは良いが、あの白い物体と声に何も疑問を抱かないのは問題だ。

 とは言え、流石にここまで気付かないものだろうか?


「お前達、あの白い物体には疑問を感じないのか?」


「疑問?」


「きっとアレはダンジョンの守護神的な存在に違いないと思う」


「そうね。とても神聖な空気を纏っているもの」


「うん。何だか安心する」


(守護神? 神聖? 安心? 何を言っているんだ……)


 レイヴンは頭上に浮かぶツバメちゃんを改めて見てみる。


 白くてふわふわな体には確かに安心感はあるし、ツバメちゃんは風の精霊だ。

 まあ、神聖というのも頷ける。


「さっきの声を変だと思わないのか?」


「ちょっと不思議だけど、厳かな雰囲気だったと思う」


「威厳があって、流石ダンジョンの主って感じよね」


「カッコイイ!」


(正気か……?)


 レイヴンは足元に転がっている手頃な石を拾うと、ツバメちゃんの背中目掛けて放り投げた。

 緩やかな放物線を描いてツバメちゃんの背中の方へ消えた石は、ゴンッと音を立てて何かにぶつかった。


『痛ッ!!! 』


『どうしたんですか?』


『あいたたたた……。なんか石が降って来た……』


『降って来た? ここは空中ですよ? 崩落ですかね?』


『知らないわよ。ああ、もう……たんこぶ出来た』


『立派なたんこぶですねぇ。痛そうですぅ……』


(あいつら……)


 どうやら、ツバメちゃんの体が大き過ぎて下の様子がはっきりとは見えていない様だ。


「おい。これでもあの声が不思議だと思わないのか?」


「もう、さっきからどうしたの先生?」


「全然不思議じゃ無いよ。あんなに大きな鳥だもの、何があってもおかしく無いんじゃないかな?」


「あの白くてふわふわしてるの気持ち良さそう!」


(これでも駄目だと⁈ )


 レイヴンはこれならどうだと言わんばかりに魔剣に魔力を込める。

 バチバチと音を立てる赤い魔力がツバメちゃんの白い体を照らす。


「せ、先生何を⁈ 」


「あの白いふわふわ倒しちゃうの⁈ 」


「良いから黙ってみてろ」


 いい加減面倒になって来たレイヴンは、ツバメちゃんの頭上にある天井に狙いを定めた。


『ん? 何か音が聞こえませんか?』


『音? そう言えば、何だか下も明るいわね』


 ミーシャとフローラはツバメちゃんの上から頭を出して、下の様子を確認する。


 すると、此方を凝視しているレイヴンと目が合った。


『『げっ!』』


「三つ数える内に降りて来い。一つ……」


『わわわわわわわ!!! 何する気ですか⁈ そんなの死んじゃいます! 消し飛んじゃいますから!!!』


「二つ……」


『ミーシャちゃん降りまーーーす!!!』


『え⁉︎ 置いて行かないでよ! フローラちゃんも降りまーーーす!!!』


 一瞬で元の大きさに戻ったツバメちゃんは、顔を強張らせた二人を乗せて降りて来た。


「三つ……」


「ちょちょちょちょちょ! 降りたじゃないですか!」


「その物騒な物仕舞いなさいよ!」


 猛抗議をする二人はセス達の側に駆け寄った。

 体の大きなバートを盾にするとは何とも小癪だ。


 どうしても攻撃を受けたく無いらしい。


「冗談だ」


 レイヴンは魔剣を鞘に納め、旨を撫で下ろす二人の前で仁王立ちした。


「エ、エリスさん? 目が座ってますよ? 何だかとっても怖いんですけど……」


「わ、私も⁈ 」


 状況の飲み込めないセス達は両者を交互に見やって、頭に疑問符を浮かべていた。


「さあ、吐け」


 レイヴンは二人の前に立ち塞がった。


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