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小人族の魔法

 小人族だと名乗った小さな魔法使いフローラ。

 座っていて正確な身長は分からないが、本の大きさから比較しても大差無い様に思う。


 フローラは乱雑に置かれた紙の束の中から一通の手紙を取り出した。


「依頼の事は聞いてるから。ちゃちゃっと説明するわね。えーっと。先ずは……」


「待て」


「ん? 何? 忙しいから早くして」


「小人族とは何だ? 他にもいるのか?」


 レイヴンは今まで世界中を旅して来たが、小人族という種族には初めて出会った。

 これだけ小さな種族ならば、気付かなかっただけとも考えられるが、噂くらいは耳にした筈だ。


「この大陸にいるのは私だけ。私達小人族は元々外界に住んでいる種族だもの。知らないのは当然よ。はい、説明終わり。時間が無いんだからこれ以上はダメよ」


(外界を知っている?)


「それじゃあ、話の続きよ。まあ、とある人物からの依頼でね。本当なら依頼は一切受けないんだけど、いろいろ事情がある訳よ……ふっ……」


「……」


 時間が無いかのように急かした割に、フローラは顔に暗い影を落とすと身の上話を始めた。


 どうしてこう、話したがる奴にばかり出会うのだろうか。

 レイヴンはウンザリした気持ちになったが、依頼の件を話して貰わない限りはどうしようもないと諦めて黙って聞くことにした。


「え? それじゃあ、この立派なお屋敷はフローラちゃんの物では無いんですか?」


「当然でしょ。見ての通り、私には大き過ぎるし、こんなに高そうな家具や調度品を買うお金なんて持って無いもの。この屋敷の管理をする代わりに部屋を借りてるだけ」


「借りてる?じゃあ、このお屋敷の持ち主は今何処に?」


「それは秘密。守秘義務ってやつがある訳よ。まあ……どうしても知りたいなら? 話してあげても良いけど?」


 フローラは小さな指に輪っかを作ってチラチラと此方の様子を伺っている。


「あ、私今お金無いんでその話は良いです」


「チッ……」


 如何にもな事を自分で言っておきながら金を要求して来るあたり、フローラの性格が朧げながら理解出来て来た気がする。しかし、これだけ立派な屋敷の所有者には少々興味がある。

 レイヴンは懐から金貨を一枚取り出すと、フローラの前に置いた。


「これで知っている事を話せ」


「わお! あんたって無愛想な顔している割に話が分かるじゃないの! 気に入ったわ!」


「……」


 無愛想は余計だと思ったが、グッと堪える。


「じゃあ、此処が何処かって話からしようかしら。ここは集落から少し離れた場所にある『風車の街ウィンドーミル』よ。屋敷はその一画にあるの。どうやって移動したのかは秘密。転移魔法とは少し違うとだけ言っておくわ」


 風車の街ウィンドーミルとは、風鳴のダンジョンを中心に作られた街だ。


 あの小屋から屋敷までは魔法で移動したのは気付いていたが、マクスヴェルトの使う転移魔法とは違う種類の魔法だと言う。

 魔法研究に熱心なマクスヴェルトが知ったら放っておかないだろう。


(いや、マクスヴェルトの事だ、既に知っているかもしれないな……)


「察しがついているとは思うけれど、この屋敷の持ち主と今回の依頼主は同一人物よ。屋敷を見て分かるように結構な富豪なんだけど、名前はいくらお金を積まれても私からは教えられ無いわ。バレたらこの部屋を追い出されてしまうもの」


「その人物は今何処に?」


「中央よ。直接会ったことは無いって言っていたから探しても会えないでしょうね。貴方の事は良く知っているみたいな口振りだったから、もしかしたら心当たりがあるんじゃない?」


(中央に居る人物で富豪……)


 レイヴンは該当する人物がいないか記憶を探ってみたが、生憎人間関係に乏しいレイヴンの頭に思い浮かぶのは冒険者ばかりだ。

 だが、決まった住居を構える冒険者など聞いた事が無い。

 街から街へ転々としている彼等が、管理の必要な家を持つとは思えない。


 仮に冒険者だったとしてもだ。これだけの屋敷を構える事が出来る人物となるとごく一部に限られる。

 報酬の額から考えても最低SSランク以上の冒険者である可能性が高い。

 そうなると有力なのはリヴェリアの部下達だが、それは考え難い事だ。彼らは常に忙しくしているし、リヴェリアの側にいる事を自ら選んだ連中も多くいる。


(冒険者では無い、か……)


 冒険者以外となると、商人や一部の特権階級を持つ貴族の誰かだ。

 しかし、中央に留まる事を拒否したレイヴンには、そういった人脈は無い。いくら考えても思い当たる人物は一人もいなかった。


「それと、今回の依頼内容だけど。依頼自体は難しいものじゃないの。討伐隊と言っても、決められた期間ダンジョンの中で生き抜く事が目的。貴方にはそれまで、あくまでも初心者のフリをして彼等に同行してもらうわ。その為に、これから私の魔法で姿を変えてもらう。気付かれない為にね」


(指名して来た人物なら、俺がどういう外見なのか知っている筈だが……)


「気付かれない為とはどういう事だ? 手紙には本名と身分さえ明かさなければ良いと書いてあったぞ? 姿まで変えるのは、俺に討伐隊の内偵をしろと言う事か?」


 レイヴンにはパーティーを組んで戦った経験は殆ど無いし、密偵、内偵の類いの依頼も受けた事が無い。

 そんな事は組合の記録を少し調べれば分かる事だ。

 わざわざ姿を変えてまで討伐隊に参加する意味が分からない。


「具体的に何をどうしろとは聞かされていないの。まあ、予定では十日程の日程だし、見守ってあげれば良いんじゃないかしら? 」


「見守る? 魔物と遭遇したらどうする? 何もせずに突っ立っていろと?」


「依頼を受けている間の貴方は、あくまでも初心者。駆け出しの冒険者を演じる必要があるの。足手まといにならない程度に討伐隊のメンバーに合わせてあげれば良いのよ」


「……」


「その討伐隊って、皆んな駆け出しの冒険者なんですか? だとしたら、レイヴンさんには……」


 ミーシャの疑念を察したフローラは首を傾げて言った。


「問題無いと思うけれど?駆け出しの冒険者の実力に合わせて加減するくらい簡単でしょう? 」


「……簡単なものか。加減が一番難しい」


 フルレイドランクの魔物を単騎で倒してしまう程の圧倒的な力を持つレイヴンにとって、戦闘中の手加減程難しく、気を使うものは無い。

 ある程度実力のある者や、高ランクの魔物が相手なら加減の一つも出来るだろう。

 けれど、一般的な人間の駆け出しの冒険者となると、ランクはCか、高くてもB。

 何気無い剣の一振りで高ランクの魔物を斬り伏せてしまうレイヴンに、駆け出しの彼等と同じ様な力で魔物と戦えと言うのは無茶だ。

 例えば象に “蟻を踏み潰さない様に踏め” と言っている様なものだとでも言えば、それがどれだけ困難な事か分かるだろうか。


 大き過ぎる力の制御は、周りが考えているよりもずっと難しいのだ。

 これはレイヴンが抱える悩みの一つでもある。


「どうして? ベテランの冒険者なら加減するくらい簡単でしょう? 」


「だから……そんなに簡単な話では無いと言っている」


 レイヴンとフローラの会話が噛み合っていない事に気付いたミーシャが問いかける。


「あの、もしかしてフローラちゃんはレイヴンさんがどういう人か聞いていないんですか?」


「聞いてるわよ? ずっとCランク冒険者やってるんでしょ? 実力はともかくベテランには間違いないじゃない」


「……え?」


「え? 違うの?」


 やはりそうだ。

 フローラはレイヴンが王家直轄冒険者の肩書きを持つ最強の冒険者だという事を知らないのだ。

 ミーシャには、レイヴンが言うように手加減が出来るとは到底思えない。

 これまでミーシャが見て来たレイヴンの戦いは、どれも桁外れに大規模なものばかりだ。

 圧倒的な力でもって魔物の群れを薙ぎ払っていく様は今でも目に焼き付いている。

 採取系の依頼ならばともかく、討伐となるとレイヴン一人で片付いてしまうのは想像に難く無い。


 事情が伝わっていないのでは依頼に支障があるかもしれない。

 そう思ったミーシャは、フローラにレイヴンの事を説明する事にした。


 しかし、説明を聞いたフローラは、ミーシャの話を笑って一蹴してしまった。


「あははは! そんなまさか! 駆け出しの冒険者の依頼に、王家直轄冒険者が招集される訳ないじゃない。金持ちの道楽にしたって、そんなのある訳ないでしょ。なかなか面白い話だったわ。ま、そんな冗談は置いておいて……さっさと魔法で姿を変えてしまうわよ」


「だからッーーー」


「いや、もういい。それが依頼なら仕方ない。やれるだけやってみよう……」


「良いんですか? 魔物を見ても一瞬で倒したり、目に見えない様な速さで動いたりしちゃ駄目なんですよ? どうしようも無いからってダンジョンを壊しちゃ駄目なんですよ? ()()できますか?」


「……」


 ミーシャの中でレイヴンがどう映っているのかはよく分かった。


 手加減しろと言うのは難しい話だ。しかし、依頼人の正体も気になる上に、討伐隊のメンバーの事も気になる。

 滅多な事では探索の許可の降りない風鳴のダンジョンに入れるのなら、此処は大人しく引き受けておくのが良いだろう。

 面倒な事ばかりだが、訓練だとでも思えば良い。


(十日か……)


「じゃあ、魔法で姿を変えるけど、どんな姿が良い? いっそのこと女の子の姿にする? それとも筋骨隆々な感じ? 私としては女の子の姿がおススメなんだけど……」


「はい! はい! はい! 私は断然ッ! 女の子が良いと思います!!!」


「お、おい! 勝手に……!」


「了解! 」


 フローラが手を合わせる様に叩くと淡く暖かい光がレイヴンを包み込んだ。


「おい! ふざけるな! 今すぐ魔法を解除しろ!」


 時既に遅し。

 怒ったレイヴンの声は既に女性のそれへと変わっていた。


 光が収まり、レイヴンの姿を見たミーシャが感嘆の声を上げる。


「可愛い……可愛いですよレイヴンちゃん!!! 最高です!」


「ふっふっふ……どうよ? 私の魔法研究の成果は!」


「フローラちゃん、ぐっじょぶです! 」


「そうでしょう! そうでしょう! もっと私の魔法を讃えなさい!」


「天才魔法使いです! フローラちゃんは天才ですよ! 」


「いやあ……それ程でもあるけど? あはははははは!!!」


(コイツら……)


 怒りに震えるレイヴンを他所に、二人の会話は盛り上がるばかりだった。



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