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新たな冒険者の街

 突然この街に住むと言い出したリアム達。

 話を聞いてみると、どうやら彼等はこの街を拠点にして街を復興させるつもりの様だ。


「そういうわけで、この街で暮らそうと思うんだ」


「思うんだって……言うのは簡単だが、物資の調達はどうするのだ?見ての通り、この街は廃墟になってしまった」


 この街には何も無い。

 周囲の森が焼失した影響で魔物のが街の近くにやって来る事も無い。


 だが、逆に考えれば、今はそれだけだ。

 中央すらも管理を放棄したこの森で生きるのは並大抵の事では無い。冒険者組合員が無いという事は、あらゆる経済的な面で不利だ。

 その状況が今は物資の不足という問題だけになっている。


 中央の事情に詳しいリヴェリアは腕を組んだまま、リアム達がこの街で生活出来るか考える。

 本来ならそこまでする必要も無い話なのだが、此処まで巻き込んで置いて後は好きにしろとは言い難い。


「住むにしても組合が無いのでは冒険者のキャンプと大差無い。そこで提案だが、パーティーを二つに分ける気は無いか?」


「え? 二つに? それってどういう……」


「街の復興と言っても、家はある程度は残っている。少し手を加えれば住める様になるだろう。そこで、二つに分けたパーティーの内片方を冒険者の街パラダイムへと向かわせるのだ。リアム達冒険者が街を作るのなら、パラダイムで街の事を学ぶのだ。パラダイムで組合長をやっているモーガンという者がいる。紹介状を書いてやるから持って行くと良い」


「え? あ、いや、そこまで本格的にしなくても……」


 いつのまにか街を作る話を始めたリヴェリアは不敵な笑みを受けべてリアム達に向って言い放った。


「中央冒険者組合所属 “王家直轄冒険者” 剣聖リヴェリアの名において、この街の名を『追憶の街リアム』とし、冒険者組合を新たに設置するものとする! 反論は無しだ!!! むふふ……」


 ビシッ! っと、リアムに向って指を指したリヴェリアは満足そうな顔をしていた。


「ちょっと、ちょっと! 良いの? そういうのは君が一番嫌ってる事なんじゃないの? リアムには内緒にしてって言ってあるんだよ?」


「何、構わないさ。リアム達がこの街に住むのなら、私の名を使って組合を誘致するのも面白いと思ったのだ。それに、中央の頭の固い連中も私が主導で誘致するなら、重たい腰を上げるだろうさ」


 リヴェリアが主導している新たな街だと聞けば興味を抱く者もいる。そう言いたいらしい。


「さいで……」


 リヴェリアもレイヴンと同じく、肩書きにへり下る連中を好まない。

 しかし、その一方でリヴェリアは、しばしばカードとして肩書きを利用する事がある。


 これはリヴェリアの特殊な立ち位置故の事だが、今回はいろいろと都合が良い。今まで手を出せなかった南の大陸に拠点が出来るのだ。誰も否とは言わないだろう。


「腕に覚えのある冒険者なら、この話に食い付くだろう。何しろ、既にこの街にはSランクの魔物に対処可能な冒険者が百名もいるのだ。安定した運営も直ぐに可能になる。後は物資の経路さえ確保してしまえば……そうだな、半年と言わず数ヶ月で他の事は何とかなるだろう。それに、レイヴンも反対では無いらしいからな。な? レイヴン」


「好きにしろ。今回の件で結果的にだが魔物の数が減った。暫くの間は以前よりは安全に旅が出来るだろう。冒険者が定期的に魔物の討伐を行えばある程度今の状況を維持出来る可能性もある。それに、この場所に組合があれば俺も都合が良い。ダンジョンに潜らなくても済むからな。それだけだ」


「マジ? レイヴンまで賛成するとは思わなかったよ」


「ストーーーーーーーーーーップ!!!」


「「「ん?」」」


 血相を変えたリアムが三人に詰め寄って来た。


「確かに俺達は、この街に住むって言ったし、冒険者組合の話も有難い。けど、街の名前もっと他に無いのか⁇ 」


「なッ⁈ 何が気に要らないのだ⁈ 私的には良いと思ったのだが……第一カッコイイではないか!」


「ダサい!」


「ダ……ダサい……良い響きだと思ったのに……」


 ショックで地面に突っぷしたリヴェリアはそのまま動かなくなった。

 案外打たれ弱いのかと思ったが、どうやら本気で気に入っていたらしい。


「え……て言うか、ツッコむ所ってそこなの?」


「くだらん……」



 街の名前は後日改めて考える事にした皆は、早速街の復興に向けて動き出した。

 まずはリアムのパーティーを二つに分ける所からだ。


「それで? 俺にメンバーを選べと言うのか?」


「ああ。狩の時も思ったんだが、レイヴンの教えてくれたパーティーは物凄く効率が良かったんだ」


 パーティーの編成を部外者がやるのはマナー違反だ。

 第一、口を出されて良い顔をする奴なんていない。

 試行錯誤もまたパーティー内の連携を強くしてくれる筈だ。


「自分で考えろ。リーダーはお前だろう」


「そうなんだけど、どうやってもレイヴンが考えてくれた時の様な編成にならないんだよ」


(あれは受け売りなんだがな……)


「一度魔物堕ちした魔物混じりは、身体能力が飛躍的に向上する傾向がある。だが、過信はするな。基本の役割さえ忠実に守っていれば、後は自然と連携出来る様になる。それとーーーーーー」


「それと、パーテイーの人数を最大限に活かすのだ。だろ?」


「リヴェリア。もう良いのか?」


「う……。もう良いのだ! それより、パーティー編成の話だ」


 リヴェリアは俺の言葉を補足する様に説明を始めた。


「これだけ人数が居るのだ。それを活かさない手は無い。パーティー編成はいくつも組み合わせを練っておく事だ。この様な平地でなら細かい編成はあまり意味を成さない。しかし、ダンジョンとなると、時には局所的に対応出来る編成をする必要がある。何故だか分かるか?」


「それは……」


「少人数での行動、目的に応じた探索を想定する必要があるからでしょ?」


「アンジュ。わ、分かってたさ!」


「うむ。その通りだ。そしてもう一つ、仲間の状態が常に万全であるとは限らない。これも基本的な事だ。そこで人数の多さを活かすのだ。特化した成果を求めるのでは無く、どんなメンバーとでも同じ成果を出せる様に備えておく事が肝心だ。初めから最善を目指していては小石に躓く事になると覚えておくのだ」


「おお……」


 感心する様に頷くのは構わないのだが、そんな事でよく今までやって来られたものだ。

 皆腕は良い。半数が魔物混じりである事もこれまで大事に至らなかった要因だろう。要は力づくで解決していたと言う事だ。


「盛り上がってる所、悪いんだけどさ。そろそろ、僕達は戻らないと」


「そうであったな。はあ……また自室に籠る毎日か……。予定より随分時間がかかってしまったのは不味い。また爺共に小言を言われてしまうな……」


 リヴェリアの表情から察するに、今回もまた勝手に中央を飛び出して来ていたのだろう。


「何言ってるのさ。クレアもルナも君が面倒を引き受けたんだから、のんびりしている暇は無いんじゃ無いかな?」


「おお! そうであった! レイヴンも一緒に帰らないか?支度も必要だろう?」


 レイヴンは一瞬戻っても良いかと考えたが、クレアの顔を見るのは戸惑いがある。


「俺はこのまま旅を続けるつもりだ。マクスヴェルト、此処から更に南の大陸にある国とやらの事を知っているか?」


「少しだけなら。でも、あまりオススメは出来ないかな」


「何故だ?」


「君がパーティーを組んで行くなら教えてあげるよ」


「……」


 難しい話だ。

 パーティーを組んでくれそうな奴は何人かいるが……。


「……また連絡してよ。()()()()()()()()


「ああ……」


「では、戻るとするか。リアム、近いうちに使いの者を寄越す。それまでに先ほど言った編成をよく考えておく事だ」


「ああ。本当にありがとう。何も礼が出来なくて申し訳ないけど……」


「構わない。その代わり、この街を立派な冒険者の街にしてくれ。期待している」


 そう言い残した二人は中央へと帰っていった。


 今回ばかりは二人には助けらた。

 特にマクスヴェルトがこんなに協力的な奴だとは思わなかった。いつも研究室に篭っている変な奴。その考えを改める必要がある。


(少し改めるか……。少しだけ、な)



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 中央へ戻る筈だったマクスヴェルトとリヴェリアは、何もない岩山の上に来ていた。

 見渡す限り高い山脈に囲まれた場所。


「何だ此処は? 寄り道している暇は無いぞ?」


「分かってる。少し確認しておきたい事があってね」


「?」


 マクスヴェルトが指し示した先。

 そこでは大規模な冒険者の一団がキャンプを張っている最中だった。

 よく見てみると、見覚えのある紋章を鎧に刻んだ者が数名いる。


「あれは確か、あやつが集めておった遠征パーティーではないか。何か用があるのか?」


「中央から出られて浮かれる気持ちは分かるけど、しっかりしてよね。この場所が何処にあるか当ててみなよ」


 場所と言われても殆ど中央から出ないリヴェリアには詳しい土地勘は無い。あるのは地図で得た地形の情報程度だ。だが、この見渡す限りの山脈の情報は無い。


「此処は外界。結界の外だよ」


「今、何と言った……?」


「外界だってば。彼等はどういう訳か僕の結界の向こう側に遠征に来てるんだよ」


「マクスヴェルト。私は疲れた……今日はもう帰ろう」


 遠い目をしたリヴェリアは、ガックリと肩を落としたまま背を向けて一団から距離を取り始めた。


「現実逃避してる場合じゃ無いでしょ。どうするのコレ?」


「明日だ明日! あやつに構っておると此方のペースが乱されて敵わんのだ……」


「まあ、直ぐに問題を起こすとは思えないけれど、対策は考えておいた方が良い」


「……明日な」


「因みに此処は、西の大国アルドラス帝国と氷の監獄二ヴルヘイムとの国境だからね?」


「……どうしてそんな事になるのだ」


「知らないよ……。だからわざわざ君を連れて来たんじゃないか。とにかく報告はしたからね。それからーーーーーー」


「まだあるのか……?」


 マクスヴェルトから告げられる容赦の無い報告はまだ終わらないという。

 ただでさえレイヴン絡みの事で手一杯だと言うのに、これ以上何があるというのか?


「そろそろ、外界についての情報遮断の暗示を解いた方が良いんじゃないかと思ってね」


「それはまだ駄目だ。まだ早い……」


「なるべく早い方が良い。レイヴンとの会話で、君も気付いていたでしょう? 世界に対する疑問が薄れてる。最早、外界が存在する事自体、おかしいとは思っていない様子だった」

「はあ……」


 リヴェリアは深い溜息を付くと、マクスヴェルトに中央への帰還魔法を促した。


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