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濡れ衣と異変

本日2話目の投稿です。

前話を読まれて居ない方はご注意ください。

 組合の建物の中に入った感想は特に無い。

 レイヴンを見るなり汚い物でも見る様に顔を歪める職員連中。

 何処へ行ってもきっと同じだ。


 だだっ広い空間と冒険者のランク別に分けられた受付。

 正面にある掲示板にはパーティーメンバーを募集する張り紙がびっしりとあった。

 やはり街中に張り出されている依頼とは質も報酬も違う。


(Cランクの依頼だけでも随分と内容が違うな……)


 地下室にでも連れて行かれるのかと思っていたら、モーガンは二階にある一際大きな扉の前で立ち止まった。


「君はこれからいくつか質問を受ける。自由に発言する事は出来ない。聞かれた事にだけ答えるんだ。私の言葉が理解出来たかね?」


 いちいち勘に触る男だ。何をそんなに心配しているのか。


「問題無い。人間の言葉ならちゃんと理解している」


「……よろしい。では、入りたまえ」


 部屋の中には頭の薄い、よく肥えた男が待っていた。

 高そうな生地の趣味の悪い真っ赤な服。太い指にいくつも指輪をはめている。

 似合いもしない髭をたくわえて葉巻を吸う姿はいかにも成金といった風だ。

 

 本物の金持ちは下品に着飾ったりしない。見えないところに金を使う。少なくとも今まで出会った本当の金持ちという人種はそういうものだった。

 そして、そういう人物は大抵、独特な空気を纏っている。駆け引きや打算もあるのだろう。だが、目の奥にはしたたかさと一緒に誠実さがあった。

 話がずれたが、他人から教えられなければ金持ちとは気付かない様な者こそ本物の金持ちだと思う。


 男はぎょろりとした目で縄に繋がれたレイヴンを観察した後、机の上の書類に視線を落とした。

 それからたっぷりともったいぶるように間を開けてからようやく顔を上げた。


「お前はCランク冒険者レイヴンで間違い無いな?」


「ああ」


「私はパラダイム冒険者組合の長をしているドルガだ。お前を此処へ呼んだのは換金に持ち込んだ魔核の件だ」


 ドルガがベルを鳴らすとモーガンが魔核を持って部屋に入って来た。


 時間が経つ程、魔核の鮮度は落ちるものだ。

 これは魔核に内包されている魔力が徐々に大気中に流れ出す為だと言われている。動力として使用する為には専用の保管装置に入れておく必要があるというのに、何の処置も施されていなかった。


「実に見事な魔核だ。大きさも鮮度も良い。こいつを捌けば大金が手に入る。それはもう一生遊んで暮らせるくらいの大金がな」


「何が言いたい?」


「勝手に喋るな。聞かれた事だけに答えろ!」


 モーガンの叱責を手で制したドルガが、腹を揺らしながら俺の周りをゆっくりと歩き始めた。

 葉巻の煙と臭いが鼻に付く。


「この魔核をどうやって手に入れた? 大方、他の冒険者が倒した獲物を横取りしたんだろう? でなければ、Cランク冒険者で魔物混じりのお前が、これ程の魔核を持つ魔物を倒せる筈が無い‼︎ ……そうだろう? 正直に白状するんだ」


「俺が一人で倒した。魔核は俺の物だーーー」


 左頬に痛みが走る。


 ドルガが吸っていた葉巻をレイヴンの頬に押し付けたのだ。

 葉巻の臭いに混じって皮膚の焼ける臭いが部屋に充満する。


(こいつ……)


「んん? お前が倒した? 見え透いた嘘を吐いたのはこの口か?」


「俺は嘘など吐いていない」


 再び押し付けられた葉巻が折れ、地面に落ちた。

 ドルガはもう二本目の葉巻に火を付けている。


(豚の割に素早い事だ)


「もう一度だけ聞くぞ。この魔核はお前が他の冒険者から盗んだ物だ。ちゃんと証人もいるんだ」


「証人だと?」


「そうだ。お前が魔核を持ち去るのを見た人間がいる。魔核を元の持ち主に返すように言ってくれと嘆願書まで組合に提出して来た。言い逃れは出来ないと知れ。クククク……」


(そういう事か)


 あの場には俺の他に三人居た。しかし、奴らは気を失っていて、レイヴンが魔核を持ち去る様子は見ていない筈だ。

 つまり、ドルガは証人が居たとでっち上げてまで魔核を自分の物にしたいだけなのだ。嘆願書とやらもどうせ偽物だろう。


 万が一、他所で騒いだ時の為の()()()()()を用意しようとしているのか。

 魔物混じりを相手に随分と手の込んだ事をする。


 このままレイヴンが認めるまで尋問は続けられるだろう。

 面倒だし、時間の無駄だ。魔核は自分の物では無いと言ってしまえばこの場は収まる。

 大金がドルガの肉に変わるくらいなら、いっそのこと魔核を壊してしまった方がマシだ。

 だが、あの魔核を手放すのは惜しい。


(さて、どうしたものか……)




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 レイヴンが組合で尋問を受けている間、ランスロットはまだ酒場でエールを飲んでいた。


「お客さん、もう止めときなって。流石に体に悪いぜ」


「良いんだよ! 追加のエールを早く持って来いって!」


 これ以上は飲み過ぎなのは分かっている。けれど、これが飲まずにいられるだろうか。

 今までの付き合いの中で、レイヴンが自分や中央にいる他の連中の事をどう思っているかなんて聞いた事は無かったし、確かめようともしなかった。

 アイツの性格を考えればどんな風に思っているかなんて分かり切っていた事だ。

 しかしだ! レイヴンと一番付き合いの長い自分が、『レイヴンを探す係』だなんて本気で思われていたなんて流石にショックだ。


「はいよ。追加のエールだ」


「へへっ、マスターありがとう」


「そいつぁ良いんだがよ。アンタの連れ、大丈夫なのかい? はぐれ者が丸腰でのこのこと組合に行くなんてどんな目に遭うか……」


「心配いらねぇよ」


「そんな無責任な。仲間なんだろう?」


 レイヴンの心配は、するだけ無駄だ。

 するなら相手の心配をするべきだ。


「仲間、か」


「違うのかい?」


 レイヴンが如何に周りの心無い声に晒される事に慣れていると言っても、我慢の限界はある。

 怒ったレイヴンは手が付けられないだろう。何せあの強さだ。

 

 もし、暴れ出したら、レイヴンの気が収まるまで誰にも止められはしない。

 下手に近付いて怪我をするのは御免だ。

 相手がレイヴンの中にある地雷を踏み抜かない事を祈るばかりだ。


「マスター、一つ良い事教えてやるよ。レイヴンは素手の時の方が強いんだぜ」


「そんな馬鹿な……だって、剣を持っていたじゃないか」


「まあな。確かに剣を使ってもレイヴンは強いんだけど、剣を使う最大の理由は、『魔物の素材を傷付けない為』なんだぜ? 素手で倒すとぐちゃぐちゃになっちまって素材の価値が下がるから嫌なんだとさ。笑っちまうだろ?」


「へぇ〜、そんな理由で……。でもCランク冒険者じゃあなぁ……。Aランク冒険者をのしちまったのには驚いたけど、組合にいるSランクの連中には手も足も出ないだろうな」


「…ぷっ! あははははははは!!!」


「な、何だい突然笑い出して」


「いや、悪い悪い。レイヴンがCランク冒険者って聞いたらおかしくてな。あいつが自分で言って無いみたいだから詳しい事は言えねぇけど、レイヴンとまともに戦えるのはーーー」


 ランスロットが上機嫌で酒場のマスターと話していると、店の窓が割れるほど巨大な咆哮が街に響き渡った。

 一気に酔いの冷めたランスロットは慌てて店の外へ出た。


 通りには街の人々が悲鳴を上げながら逃げまどっている。

 腰を抜かして動けない者、親とはぐれて泣き叫ぶ子供。街中とんでもない騒ぎになっている。


「一体何が起こりやがった⁈ 」


 先程の咆哮は間違いなく魔物の物だ。それも超大型の魔物。

 こんな街中に出現するなどあり得ない。

 

 訳も分からず立ち尽くしていると、遠くで建物が崩壊する音が聞こえて来た。


「なんてこった! ありゃあ、冒険者組合がある方角じゃないか⁈ 」


 店から飛び出して来たマスターが頭を抱えて叫ぶ。店の客もとっくに逃げ出していた。


「冒険者組合って…おいおい、勘弁しろよ。レイヴンが()()何かやらかしたってのか⁈ 短気過ぎるだろうが!」


 何処かの馬鹿がレイヴンの地雷を踏み抜いて暴れ出したのかとも思ったが、いくらなんでもレイヴンに魔物みたいに咆哮を上げるなんて真似は出来ない。

 レイヴンは “あくまでも人間” なのだから。


 一際大きな咆哮が放たれた後、空に巨大な火球が飛んで行くのが見えた。


 魔物が居るであろう地点からはかなり離れているというのに火球の熱が肌を焼く。


 ランスロットは素早く状況を整理すると、レイヴンの剣を取りに店内に戻った。

 もしも、というか十中八九、レイヴンは魔物と戦う。

 素手の方が強いとは言え、剣は必要だ。

 

 この剣はレイヴンにとって、謂わば枷だ。

 魔力を剣に集中する事で周囲への被害を抑える役割もある。

 ダンジョンならいざ知らず、街中でレイヴンに本気で暴れられてはさすがに困る。

 事後処理をするのはこっちなのだ。


「ぐうっ…! 相変わらず凄え量の魔力を喰いやがる! お前の持ち主のとこに持って行ってやるから、ちったぁ遠慮しやがれってんだ!」


 ランスロットは魔剣を握りしめ冒険者組合を目指して走り出した。

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