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ルナと魔剣

申し訳ございません。

登場人物の名前に誤りがありましたので、過去数話分を含め変更しました。

ルイズ → ルナ

 魔剣と呼ばれる物は往々にして常軌を逸した力を持っている。

 と言っても、その能力の効果は様々だ。


 魔剣は大まかに三つに分類出来る。

 魔剣と呼ばれる剣の前提条件として、『魔力を操る事が出来る剣を魔剣と呼称する』という物がある。

 そんなの当たり前じゃないかと言いたくなる所だが、故に三つの分類が存在する。


 例えば、魔力を内包してはいるものの、主に魔力を纏わせたり、属性を付与するタイプの魔剣は『魔法剣』と呼ばれる。

 これは、剣そのものが魔力を発生させるのでは無く、魔力を通し易い、或いは蓄積させ易い材料を使って作られた剣に多い。比較的安価で、Aランク冒険者程度の実力と収入があれば、入手するのはさほど難しくは無い。


 ドワーフの鍛治師ガザフが虹鉱石を使って作った魔剣。

 あれは魔法剣では無い。


 魔法剣と同じ様な素材を使ってはいるが、主な材料となるのは虹鉱石。

 この虹鉱石の入手と、それを扱う腕の良い職人。どちらも非常に揃えるのが難しい。


 “難しいだけなら、時間をかければ作れるのでは?”


 と、思うかもしれない。ところが、これがそう簡単にはいかないのだ。

 虹鉱石はほとんど市場に流通しない上に、剣一本分集める為には、冒険者に依頼したとしても半年から数年はかかる。しかも、腕の良い鍛冶師となると必然的に選ばれるのはドワーフの鍛冶師だ。

 ドワーフは気の良い種族ではあっても、仕事となると話は別。先ずは彼らドワーフの信頼を得て、そこから更に魔剣を作れるだけの腕を持った鍛冶師を探さなくてはならない。


 話がズレたが、ガザフの作った魔剣は『魔導剣』と呼ばれる。

 刀身、もしくは柄の部分に術式を刻み込む事で、虹鉱石が持つ性質が発動する様に調整された剣の事だ。

 魔法剣よりも貴重な素材を使っている分、剣単体としても一級品の価値がある。

 ただし、この魔剣が厄介なのは、作ってみないと素材に使った虹鉱石が持つ性質がどういう風に発現するのか分からない事があげられるだろう。

 有用な性質であれば良いが、中には重くなるだけなんて物もある。

 そういう点で、クレアに渡した魔導剣は最上級と言って良い品だ。


 そして最後に『魔剣』

 伝承には残っていても、実物は殆ど失われてしまっているとも、世界の何処かに封印されているとも言われる伝説の剣。

 現在確認されている魔剣は、剣聖リヴェリアの持つ『レーヴァテイン』と魔人レイヴンの持つ『魔神喰い』だけ。


「その力は今更言うまでも無いと思うけれど、“人知を超えた力を宿している” とでも言っておこうか。一度力を解放すれば有象無象を難なく斬り伏せられる。けれど、剣そのものに強大な力と魔力を秘めた魔剣は、誰でも扱える様な代物じゃあ無い。膨大な量の魔力を消耗する上、魔剣に認められなければ真の力を解放する事が出来ないんだ。とりあえず、魔剣の分類についてはこんな感じかな。じゃあ、ここから魔剣の話を始めようか」


「良く知っているな」


 ルナはスラスラと魔剣について話していく。

 大した知識だが、頭の中に直接声が響く感覚は慣れない。


「ん? ああ、どうしてガザフやクレアの事をそんなに詳しく知ってるのかって?」


「別に構わない。どうせそれも魔法なのだろう?」


「違うよ」


「?」


「僕はレイヴンが魔神喰いを手にした時からずっと一緒にいるんだ。知っていて当然さ」


「意味が分からない」


「鈍いなぁ。そんなだから周りの皆んなに呆れられるんだよ」


「……」


 ルナの言っている事はさっぱりだ。

 鈍いという話なら自覚はしている。どうにかして理解しようともしているのだ。

 それを改めて言われると気分が悪い。


「ま、仕方のない事か。とにかく説明を続けるよ。次に、“魔剣に認められる” とはどういう意味なのか?って事だけどーーー」


 魔剣に認められるとは、『資格があるかどうか』この一点のみ。

 リヴェリアの持つレーヴァテインは、清浄な魔力の持ち主であることと、使用するに値する実力の持ち主である事が必須条件となる。ただ、リヴェリアは条件を満たした上で、別の事に魔剣の力を使っている。


「封印か……」


「そうだね。リヴェリアは信じられない事に、魔剣を常時発動状態にしたまま普通に暮らしている。膨大な魔力を必要とする魔剣をだよ? あれは一種の化け物さ」


「……」


「これは僕の想像でしか無いけれど、おそらくリヴェリアは、自分の力を抑え込む為にあの魔剣を手にしたんじゃないかな。レイヴンと戦った時に見せた姿が本来の姿……と、言いたいところだけれど、アレはまだ何か隠している。レイヴンも薄々は気付いているんでしょう?」


「ああ……」


 リヴェリアの金色の目は、何処か他の場所を見ている。

 ユキノ達と上手くやっている様だが、あれが全てとは思えない。


「ま、そのうち分かる事もあるだろうね。それじゃあ、魔神喰いについて話そう」


 そう言ったルナの雰囲気が変わった。

 怒りが滲んだ様な苦悶の表情は先程までのとは明らかに違う。


「胸糞悪い話だよ、ホント……。僕自身、まだ許した訳じゃ無いし、許せる訳が無い……けれど、レイヴンの力になろうって決めたから言うよ。魔神喰いは僕だよ」


 何を言っている?

 ルナが魔神喰い?


 ルナは魔神喰いをテーブルに置き、黒い刀身に刻まれた不気味な模様を指でなぞっていくと、魔剣の中心部で止めた。


「この部分……これは僕の心臓なんだ」


「……ッ⁈ 」


「黒い刀身は僕の憎悪。黒い鎧は僕の体。黒い翼は自由になりたいっていう僕の想い」


「何を言って……」


「ステラはね……僕を材料にして魔剣を作り直そうとしたんだよ」


 世界が一瞬止まってしまったかのような錯覚を覚える。


(ルナを、人間を魔剣の材料にした?そんな馬鹿な話が……)


「事実だよ。言ったでしょ? 胸糞悪い話だって」


「しかし……」


「この剣は元々聖剣に位置する魔剣だった……って、言ったら信じる?」


「……」


 無理だ。

 そんな話を信じられる訳が無い。


「だよね。あまり見せたく無いんだけど……」


 ルナが服をはだけると、胸の部分には小さな魔核が埋め込まれていた。


「まさか、クレアと同じ……」


「うん……僕は造られた人間。どういうつもりか知らないけれど、ステラは魔核を使って僕を生かそうとしたみたいだね。けど、結果は失敗。魔物堕ちしそうになった僕を氷漬けにして封印した……」


「……」


「レイヴンは違うよ? 普通の魔物混じり。普通って言い方も変だけどさ。それじゃあ続けるよ……」


 ルナの意識が魔剣を通じてレイヴンに流れ込んで来た。

 


 始まりの剣は、願いを叶える剣。

 使用者の想いや願いを糧にして発動する剣なんだ。


(願い……)


 この魔剣は危険過ぎる。願いを叶える力は世界の法則を歪めてしまう力と同義。

 悪意を持って使ったなら……どうなるか分かるよね?

 世界を二分して支配している悪魔と神にしてみれば、これ程都合の悪い力は他に無いんだよ。伝承ではこの魔剣を持った人物が悪魔と神の争いを止める為に戦いに身を投じた事になっているでしょ?


(ああ……)


 違うんだよ。

 僕が知る限り、悪魔と神は共闘して、この魔剣を封じ込めようとしたんだ。

 でも、悪魔と神から呪いを受けたのは本当さ。


(何故?封じ込めるだけでは無いのか)


 詳しい理由は分からないよ。ステラなら何か知っているかもしれないけれど、僕は顔も見たくない。ま、呪いを解いてくれたおかげで、こうしてレイヴンと話が出来る状態になったのは事実だけど……。とにかく、この魔剣の持ち主は、自らの願いと引き換えに悪魔と神の大半を滅ぼす事に成功した。


(伝承にあった内容と一致するな)


 でもね、僕は思うんだ。多分これも偽りの記憶。

 だけどさ、この魔剣の持ち主は “世界を愛していた” のは事実だと思うんだ。


(愛? 世界を歪めようとした者が愛だと? 何の冗談だ)


 その答えはレイヴン……君さ。


(俺が?)


 君はどうして人に優しく出来るの?


(俺は……別にそんなつもりは……)


 僕には理解出来ない。

 レイヴンは優し過ぎるよ……。


 僕はこんな姿にされてもまだ人間の意識が残ってる。それこそ気が狂いそうになるくらいに全てを憎んだ。聖剣とまで呼ばれた剣が魔剣になってしまうくらいにね。実際、レイヴンに出会っていなかったら、僕はまだ闇に囚われたままだっただろうから……。

 一緒に旅をする内に、君が苦しんでいる事も、何を望んでいるのかも知った。衝撃的だったよ。僕だけが辛い目に遭っているんだと思い込んでいたからね。


(……)


 本当は何度も君の体を奪おうとしたんだ。

 あのクレアって子を助けようとした時は、怒りで腹わたが煮え繰り返りそうだった。

 僕だって同じ目に遭っているのに、何でそんな会ったばかりの奴を助けるんだ! って。

 でも、気付いちゃった……。

 君は自分が人間である為に他者を救っているんだ。


(何故そう思う?)


 だって、そうでしょう?

 これまで散々辛い目にあって来たのに、何で他人の事を考えられるのさ?

 おかしいじゃないか! 君だって、世界や人間を恨んでいる筈なのに! どうして他人に優しく出来るんだよ!!!

 何でなんだよ……。君は僕と同じじゃないのかい?

 教えてよ……僕と君は何が違うの⁈


(俺の頭の中を覗けるのなら、もう答えは分かっているだろ……)


 ……君の言葉で聞きたいんだ。


(俺も多分、世界を憎んでいる。けれど、人を憎んでいる訳じゃ無い。俺の記憶は何も無い森の中から始まった。自分がどうして疎まれるのかも、どうして周りの人間とは違う存在なのかも分からなかった。

 何をどうすれば良いのか分からないまま、生きる事に必死だった。空を見上げる余裕も無かった。俺には世界の何もかもが歪んで見えていたんだ。ルナの言う闇に囚われていたんだろう。

 だが俺は出会った。手を差し伸べてくれる存在。何も無い闇の中、一筋の光を照らして手を差し伸べてくれる存在にな……)


 それが、オルド……?


(ああ。オルドは俺に知識をくれた。そして、エリス、リアーナとの出会いが、俺に心を教えてくれた。上手くいかない事ばかりだが、それでも俺はがむしゃらに前へ進む事を選んだ)


 どうして? 辛い思いをするだけなのに……。


(立ち止まっていても辛いのなら、前へ進んで探してみようと思ったんだ)


 ……何を?


(……光)


 光?


(無い物ねだりだと自分でも笑った。こんな事をしても意味なんか無いんじゃないか? 立ち止まってさえいれば、これ以上傷は増えないんじゃないか? 前へ進みながら、そんな事ばかり考えていた。

 そしてまた、俺は出会った。ルイスが俺に教えてくれた。『花を植える様に、周りを明るくしていけば、世界は暗闇では無くなる。きっとそのうち、足元が見える様になってくる。いつか光で溢れる』と。今でも意味がよく分かっていないし、そんな馬鹿な事があるかと思った。けれど、実際にやってみて分かって来た事がある)


 ……教えてよ。


(俺は、その……笑うなよ?)


 笑わないよ。


(誰かが嬉しそうにしていると、自分も嬉しいと感じている事に気付いたんだ。俺のやった事が全部受け入れられる訳じゃ無い。それでも、そんな風に繰り返していけば、少しはマシになると思ったんだ。この腐った世界で、俺の力が誰かの助けになるのなら……俺は人間でいられると。化け物では無いのだと思うことが出来たんだ)


 自分を救うのでは無く、他者を救って……損な役回りだね……。


(かもな……。これは俺の自己満足だ。それでも、化け物になるよりは良い。人間にはなれなくても、人間の側でいたい。だから俺は俺でいられる)


 ……良いなぁ。それがレイヴンの強さか。


(ああ。手を伸ばせルナ。俺がお前を救ってやる)


 良いの……?


(お前は俺に何度も力を貸してくれただろう? 今度は俺が救ってやる)


 僕は……。


(俺が願おう)


 ……じゃあ、僕が望むよ。


(ああ……)



 ルナの手を掴むと光が部屋を満たし、景色が変わった。


 そこは元いた遺跡。ルナの手を握った筈の俺の手には魔剣が握られていた。



 ーーーレイヴン……君は覚えていなかったけれど、一緒に過ごした日々はとても楽しかったよ。僕はその魔剣の力で生まれ変わる。でも、記憶は無くしてしまうだろうね。


「望みはある」


ーーーいいや。僕の意識は魔剣と共にあった。体が生まれ変わったら、魔剣の中にある僕の意識は消えてしまうよ。


「やってみる価値はある」


ーーー最後に大事な事を伝えておくよ。


「何だ?」


ーーー魔物堕ちは避けられない。これはどうしようも無いんだ。


「やはり、そうか……」


ーーーだけど怖れないで。君が君である限り、魔剣はきっと応えてくれる。


「ああ、分かった」


 氷に巻き付いていた鎖が音を立てて外れていく。

 表面に亀裂が入り、中にいたルナの体が膨張を始めた。


ーーー部屋の封印を解いたから、魔核が活動を再開したみたいだ。


「ルナ……」


ーーーごめんね、レイヴン。酷い事言って……。


「もう良いんだ……」


ーーー嬉しいな。僕なんかの為に泣いてくれるの?レイヴン、僕が言った事は僕が知る事でしかない。これから先、どうするのかはレイヴン次第だよ。またね、レイヴン……。


「またな、ルナ……」


 魔剣から漏れ聞こえていたルナの意識が小さくなり、やがて完全に消えてしまった。


(願いを叶える剣……)


 ルナの意識は氷の中の本体に戻った様だ。


 魔物堕ちしたルナの体が砕けた氷を浴びて光を反射する。


ーーードクンッ!!!


 放たれた咆哮に合わせて、心臓の鼓動が部屋に響いた。


 黒い鎧と黒い翼。

 けれどもう、禍々しさは無い。

 鎧は美しく光沢を放ち、広げた翼は心地良い風を纏っている。


 レイヴンは体を沈め、願いを込めた一歩を踏み出すと、ルナへ向かって剣を突き立てて叫んだ。


「お前が願いを叶える剣だというのなら!ルナの体を蝕む魔を喰らい!願いを叶えてみせろ!!!」


 黒い霧がルナの体を包んで行く。


 “ありがとう”


 霧の中、微かにルナの声が聞こえた気がしたーーーーーー


 やがて霧が晴れ、生まれ変わったルナが姿を現す。

 そこに居たのは、まだ言葉も話せない幼い赤ん坊。

 ルナは新しい命として生まれ変わったのだ。


「……ありがとう」


 魔物堕ちを防ぐ方法は見つからなかった。しかし、ルナの見せた光景は俺に多くの情報をもたらしてくれた。

 リヴェリアとステラ。あの二人がレイヴンの過去について何か知っているのは間違いない。


 ルナは自分の事を造られた人間だと言った。

 だとすれば、クレアを作ったのは……


「ルナをどうするか……。リアーナの元へ連れて行くのが良いか」


 レイヴンは無邪気に笑うルナを抱き抱えて遺跡の出口へと歩き出した。


「大丈夫。今度はきっと、笑って暮らせるさ」



次回の投稿は8月21日を予定しています。


ブクマ、評価がじわじわと増えて来て、私のやる気も上昇中です。

応援して頂けると本当に書いて良かったと、嬉しい気持ちが湧いて来ますね。

読んで下さる皆様には心から感謝しております。

これからもよろしくお願い致します。

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