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記憶の迷路 後編


 どうしてステラが現れる?

 レイヴンの知っているステラとは雰囲気が違う。


(俺の願望を元に世界を作ったと言っていたが、その事が影響しているのか?)


「どうしたの? 急に私の名前なんか呼んで」


「え? あ……」


(何だ? 声が……子供?)


 声を発しようとしたレイヴンは違和感に気付いた。

 幼い声と低い視点。どちらも子供の物だ。


()()()、そろそろご日が暮れるから家に戻りましょう」


(ルーク? 俺の事か?)


 その名前には覚えが無い。

 オルドに名付けてもらう以前の名前だとしても、レイヴン本人が全く覚えが無いのはおかしな話だ。


「ああ……」


「ふふふ。なぁに? その返事。変なの」


「……」


 家に入るとそこは、俺が鉱山の地下で見たステラの家と同じだった。


 慌てて窓の外を確認する。


 窓ガラスに映った自分の顔を見てハッとした。

 幼い頃の自分。奴隷商人に拾われる前の自分の顔だ。


 改めて外の様子を見る。しかし、窓は開かず、そこには何も映ってはいなかった。

 光の靄がかかった様な景色が広がっていて景色は見えない。


(あの少女の仕業? それとも空間転移か?)


「ルーク! 何度も言ってるでしょう。家の外は魔法で隔離してあるから、窓に近付いちゃ駄目だって」


 ステラは窓に近付いただけで怒り出した。


(これはステラが……。という事は、あの地下の家も何処かに繋がっている?何だ、また……)


 唐突に景色が変わる。

 今度は食事を終えた後の様だ。


「ルナ! もうお風呂から上がりなさい! 寝る時間よ」


「えー、もう?」


「我儘言わないの。ルークと一緒に部屋に戻りなさい!」


「ちぇ。行こ、ルーク」


 ルナと呼ばれた少女は俺の記憶に無い筈なのに。


(どうしてだ。俺はこの少女の事をよく知っている様な……)


 再び景色が変わると、今度は丘の上だった。

 レイヴンとルナは並んで座って空を眺めていた。


(あの少女が一体どういうつもりで俺にこんな物を見せているのか知らないが、俺にはこんな記憶は無い)


 何か狙いがあるのだとしても、この胸に湧き上がる殺意が思考の邪魔をする。


(……こいつのペースに惑わされては駄目だ)



「今日はお客さんが来るから外で遊んでなさいってさ」


「……客?」


「ほら、たまに来るじゃない。ステラと同じ赤い髪の女の人」


「……?」


「金色の目をした人だよ。覚えていないの?」


(金色の目だと?)


 赤い髪と金色の目を持つ女。

 そんな人物は、レイヴンの知る中で一人しかいない。


「リヴェリア……?」


「そう! 確かそんな名前だった! 何だ、覚えてるじゃない」


(リヴェリアがステラと? 何故?)


「あ、来たみたい」


 ルイズが空を指差し立ち上がる。

 見上げると、騎竜が一騎降りてくるのが見えた。


「おお、ルナにルークではないか。久方ぶりだな。元気にしていたか?」


「お土産!」


「あははは! ルナは相変わらずちゃっかりしているな。ちゃんと持って来ているぞ?」


「お菓子? おもちゃ?」


「新作のお菓子だ。朝から店に並んで買ったのだ」


「やったー! ありがとう!」


「別に構わないとも。喜んでくれて私も嬉しいぞ」


「……」


「ん? どうしたルーク。私の顔に何か付いているか? ちゃんとルークの分もあるぞ?」


 どうしたもこうしたもあるものか。

 目の前にいるのは間違い無くリヴェリア本人だ。

 腰には愛用の剣が下げられている。


 リヴェリアまでレイヴンの事をルークと呼んだ。それでも、レイヴンにはその名が本名であるとは思えなかった。


「あ、いや……」


「おかしな奴だな。まあ良い。ステラは中にいるか?」


「うん。いつもの場所で待ってるって言ってた」


「そうか。ありがとう」


 家の中に入って行ったリヴェリアの背を見送った所で再び景色が変わる。


(何だ? また視点が変わった……)


 宙に浮いている様な感覚。

 下を見下ろすと、ステラが俺を抱きしめて泣いていた。


(分からない。何故泣いている? 何故、俺は子供の姿なのにステラは今と何も変わっていない?魔法だからか?くそ……いつまで続くんだ)


「ルナは……?」


「ごめん……ごめんね。ごめんね……」


 ステラの感情が流れ込んでくる。

 これは、この感情はーーーーーーーー


 三度景色が変わる。


 ステラの家の中でレイヴンとルナが向かい合って座っていた。

 ふてぶてしい顔をしてこちらを睨んでいる。


「まだ思い出せないかい?」


 ルナがテーブルに肘をつき、怠そうに問いかけて来た。

 未だ幻術の中らしいが、目の前の少女は氷の中にいた少女で間違いない。


「俺の怒りはまだ収まった訳では無いというのにどういうつもりだ?」


 オーガスタでの一件は誰にも話していない。

 誰にも触れて欲しく無い過去。

 顛末を知るのは俺とリアーナだけだ。


「怒ってはいても、もう頭の方は随分と冷静になって来たんだね。凄いね」


「……」


「もういいや。改めて自己紹介するよ。僕はルナ。もう気付いているみたいだけど、氷の中に居たのは僕さ」


 記憶の中の少女と氷漬けの少女が同一人物なのは理解出来た。だが、ステラやリヴェリアが出て来た意味が分からない。あの家での記憶は全く無いのだ。


「全然駄目か。レイヴン、君は今こうして話している間も疑っているんだろう? 今見せたのも全部作り物だって。当然と言えば当然なんだけど、良い加減何か思い出して欲しいんだよね」


(本当にふざけた奴だ。俺を怒らせたかと思えば、今度は対話を求めてくるだと?)


 だが、話してみないことには何も前へ進まない。


 レイヴンは一先ず、情報を整理しながらルナの話を聞いてみる事にした。


「お前は何者なんだ? 何故こんな事をする?」


「いやいや、それも含めて思い出して欲しいんだけど……」


「俺はお前など知らない。今すぐこのふざけた魔法を止めろ」


「心配しなくてもこれ以上何か見せたりしない。レイヴンの感情を強く揺さぶれば何か思い出すかと思ったんだけど、これは悪手だった。ごめんよ」


(感情を揺さぶる、だと?)


「……説明しろ」


 ルナは手を頭の後ろへやると、天井を見上げながら話し始めた。


「理想の世界を作ったのは本当だよ。流石に現実じゃ無いのだけれどね。レイヴンには記憶が欠落している部分がある。というか、消された?って言った方が正しいのかな? それと、最後に見せたのは不完全なんだ。君の名前も適当だしね。ただ、此処から先は僕にも()()()()()()()()


 不完全だというのは、レイヴンの記憶では無く、ルナの記憶の方なのだろうか?

 だとしたら、レイヴンもルナも何者かによって記憶の操作をされている可能性がある事になる。


「今のは全て記憶を元に魔法で作った物では無いのか?」


「そうだよ。此処から先の記憶は僕には無い。あるのはレイヴンと再会した時からの記憶だけ」


「俺と再会した? この場所へ来たのは今回が初めてだ」


「何言っているのさ。この剣を手にした時からずっと一緒にいたじゃない」


「……剣?」


 ルナの手には見た事の無い美しい剣が握られていた。

 刀身を一目見ただけて名のある鍛治師によって作られた特別な物だと分かる。


「よく見て。何か思い出さない?」


 よく見るとガザフの作る剣に似ているような気もする。

 ドワーフの鍛治師によって鍛えらた剣だろうか?


「見事な剣だが、俺には覚えが無い。その剣が一体何だというんだ」


「“始まりの剣” だよ。何もかも、この剣から始まった。今は魔神喰いだなんて呼ばれてるけど。しかも、作ったのはステラ。ドワーフじゃあ無い」


「……ステラが? 」


 ルナが指を鳴らすと、美しかった剣は俺のよく知る魔剣『魔神喰い』へと姿を変えた。

 黒い刀身。心臓の様な不気味な装飾に血管のように伸びる赤い筋の様な模様。

 まさしく魔剣といった風な見た目だ。


「そんなの関係無いよ。リヴェリアの魔剣はもっと綺麗でしょ……」


 ルナが不機嫌そうな声で抗議をしてくる。


 確かにリヴェリアの持つ剣も魔剣に分類されるが、どちらかと言うと聖剣とでも呼ぶべき代物だ。

 

(聖剣と魔剣では魔力の質が違い過ぎる)


「だから!さっきの綺麗な剣も!この黒い剣も同じなの!って、まあ……厳密には違うけど」


「……」


「この魔剣について知りたいんでしょう? 教えてあげるよ。この剣が何の為に作られたのか。どうしてこんな姿になってしまったのか……」


「お前はこの魔剣と関わりがあるのか?」


「何寝惚けた事言ってるの……。じゃなきゃ、レイヴンにこんな事する必要無いじゃん」


 成る程。

 腑に落ちないし納得も出来ないが、知っているなら話して貰おうではないか。



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