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目覚めないレイヴンと別件で来た二人

 レイヴンが意識を失ってから既に三日目。

 ダンジョンで捕らえた三人は依然として口を割らず、ドワーフ達への説明も難航していた。

 ガザフという名のドワーフのお陰でランスロット達は捕らえられずに済んでいるが、街での行動には常に何名かの監視が付けられている状況だ。

 ドワーフという種族は基本的に気の良い連中が多い。けれど、今回の様に相手の話を信じるか否かを判断する場合、ドワーフ達に認められているかどうかか鍵となる。

 つまり、完全に疑いを晴らす為にはレイヴンが目覚めるのを待つか、三人組の口から事情を吐かせるしかない。


「だから! 何度も説明してるだろ! 鉱山を吹っ飛ばしたのは俺達だけど、その前にダンジョンが暴走しちまってどうしようも無かったんだ!」


「そうだとしても、レイヴンの口から直接聞くか、あの三人組が吐くまでは信用出来ねえって、俺も何度も言っているだろうが!」


 ずっとこの調子だ。どんなに説明してもドワーフ達は全く聞き入れる気が無い。


「私達、レイヴンさんの仲間なんですけど、それでも信じてくれないんですか?」


「あんた達の事は信じてるさ。俺だってレイヴンとは長い付き合いだ。あいつの性格は分かっているつもりだぜ? そんなレイヴンがあんたらと一緒に行動してるくらいだ、本当に仲間なんだろうよ」


「だったら!」


「けど、それとこれは別だ。牢屋にぶち込まれないだけマシだと思うがな」


「そんなぁ……」


「悪いな、お嬢ちゃん。俺もどうにかしてやりたいが、こればかりは諦めてくれ」


 ドワーフ達が信用しているのはあくまでもレイヴン個人。そういう事の様だ。



 ガザフの説得を断念したランスロットとミーシャは、診療所で未だに眠っているレイヴンの元へ向かう事にした。


 医者の診断では極度の疲労という事だが、それにしたって三日もレイヴンが目を覚まさないのはおかしい。

 もしかしたら魔剣が何か関係あるのではないかと思って調べようとしたが、相変わらずこの魔剣はレイヴン以外の人間を拒む様に魔力を奪おうとして来た。

 体には異常が無い、魔剣も調べられないではどうしようも無い。


「クレア、飯食いに行くぞー……って、なんつう寝方してるんだよ」


「レイヴンさん苦しく無いんですかね?」


 クレアはレイヴンの体の上で猫の様に丸くなって眠っていた。


「どうします? なんだか起こしちゃうのも可哀想ですし……」


「つってもなぁ、何も食べない訳にはいかないだろ」


「ですよね」


 クレアはずっとレイヴンの側に付きっきりで離れようとはしない。

 何度か強引に連れ出そうとしたのだが、泣きそうな顔で首を振るばかりでお手上げ状態だった。


「仕方ない。何か買って来るか」


「あ、私買って来ますよ」


「その必要は無いわよ」


 病室を出ようとした時、聞き覚えのある声がかけられた。


「ユキノさん! フィオナさんも! どうしてこの街に⁈ 」


「お前ら……中央に居る筈じゃあ」


 病室の入り口に立っていたのは中央でリヴェリアの世話をしている筈のユキノとフィオナだった。


「久しぶりね。私達は別件で近くに来ていたのだけれど、ドワーフの街で食料の補充をしようと思って立ち寄ったの。そうしたら随分と騒がしいじゃない? はい、これ差し入れ」


「レイヴン達が西へ向かったのは知っていたからもしかしてってね。まあ、アタリだったけど」


 何かの依頼なのだろうか?

 リヴェリア専属の冒険者である二人がこんな辺境に来ている理由は一体?


「言っておくけど、組合の依頼じゃあ無いから」


「私達はお嬢の命令以外で仕事はしない主義」


(だよな……)


 二人がリヴェリアの指示以外では動かない事は冒険者達の間でも有名な話だ。


「と、言いたいところだけど、今回は組合の仕事」


「そうなのか? 」


 二人は露骨に不快感を露わにしながら事情を話した。


 リヴェリア直属の部下であるSSランク冒険者は、冒険者組合からの依頼要請を断る事が出来る。

 しかし、今回はリヴェリア自身が冒険者の街パラダイムへ魔物討伐に向かった事が問題視されていて断れ無かったのだと言う。

 本来、リヴェリアは許可無く中央から出られない事になっている。

 おかしな話だが、その辺りの事情は機密事項扱いで、元老院とリヴェリアの間で何らかの約定が交わされているらしい。


 そして今回、パラダイムの一件でリヴェリアは元老院との約定を破った。

 伝言だけ残して魔物の討伐へ赴いたのが問題となった。当然、元老院ではリヴェリアの行動を厳しく追及する動きが起こり、後始末に追われる羽目になったらしい。


 確かにリヴェリアの行動には問題があったのかもしれない。けれど、そのおかげで冒険者の街パラダイムは救われたのだ。実際、リヴェリアが動いていなかったらパラダイムはレイヴンが戻る前に壊滅していただろう。だが、そう言った事情を鑑みても、約定を破った事へのペナルティは避けられない状況になってしまったそうだ。


 リヴェリアは大層怒って元老院へ直接乗り込んだのだが聞き入れられず、今後いくつかの依頼でリヴェリアの部下を貸し出す事になったらしい。

 だが、そこはリヴェリア。転んでもタダでは起きない。

 元老院からの要請を逆手にとって、組合でも一部の人間にしか知らされていない情報の開示を条件に一年間、部下への依頼を承諾したのだ。


「なるほどね。流石リヴェリア……相変わらず交渉ごとは得意なんだな」


「ええ、お嬢はそう言う事に一番時間と労力を使うから。お嬢の頼みだと思ってやるしか無いわ」


「力だけの冒険者が中央で生きていけるほど甘くは無いもの。その上、お嬢が実力行使に出たら止められる人間は限られてる。レイヴンかマクスヴェルト様しかいない訳だけど、二人共連絡を取るのも難しいし、言う事を素直に聞くタイプじゃないもの。元老院もその辺りは心得ているって事ね」


「それって脅しなんじゃあ……」


 情報の重要性を理解し、誰よりも多くの策を講じた者だけが生き残れる。

 手札に自分の武力でさえも加えてでも優位な立場に立とうとするのは間違ってはいない。


「脅しとは少し違うかしら」


「え? 違うんですか? 剣聖と呼ばれる王家直轄冒険者が『実力行使に出るぞ〜』だなんて、やっぱり脅しじゃないですか? 」


「そうね。でも、それが本当に全て通用するなら、そもそもお嬢が元老院に従う必要なんてないんじゃないかしら? 」


「あ、なるほど……」


「そう言う事。力だけじゃ足りないのよ。その点、お嬢は抜かりないから安心よ」


 リヴェリアは情報を集め、精査する事で中央での地位を確保している。

 元老院としても扱いづらい存在だろう。

 今回二人が動いている件にしても、リヴェリアの想定の内という事は十分に有り得る話だ。


「で? こっちに来た別件ってのは? この辺りにはドワーフの街くらいしか無いだろ?」


「それについてはお嬢からレイヴン宛てに手紙を預かっているの。もしも会うことがあったらで良いって言われてたんだけど、多分お嬢は私達がレイヴンに会うのが分かっていたんでしょうね」


「私達も手紙の内容までは知らされていないわ。ただ……」


「ただ?」


 ユキノは眠ったままのレイヴンへと視線を向けて頭を抱えていた。


「レイヴンが倒れてるのは想定外。医者の診断は?」


「極度の疲労らしい。もう三日も眠ったままだ」


 三日と聞いた途端、ユキノとフィオナの表情が曇る。


「疲労で三日? 医者は本当に疲労だけだと言ったの? 」


「あ、ああ……」


「ちょっと診せてもらうわよ」


 ユキノが魔法でレイヴンの状態確認を始めた。

 体には何の異常もないと診断されていたし、その内目を覚ますだろうと思っていたのだが、ユキノの表情は妙に真剣なままだ。


「ユキノさん、どうですか?」


「これは只の疲労じゃ無い。体内の魔力循環が止まってる……」


「止まって? って、え⁈ 大丈夫なんですかそれ⁈ 」


「落ち着きなさい。その子が起きちゃうでしょう?」


「クレアちゃんです……。それでレイヴンさんは?」


「命に別状は無いわよ。心臓はちゃんと動いているし。脈も呼吸も安定してる」


「じゃあ一体……」


 ユキノはフィオナの居る場所まで戻ると深いため息を吐いた。

 こういう態度をするのは珍しい。


「医者の診たては半分正解。魔力欠乏症とでも言うのかしら」


「どう言う事なんだ?」


「ランスロット。レイヴンが何をしたのか知らないけれど、体の中の魔力がほぼ空っぽよ。急激に魔力を消耗した事で体が生命維持の為に魔力の放出を止めているのよ。もう数日したら動ける様になるから安心して」


「因みに何があったの?」


「あー……」


「?」



 ランスロットは言葉で説明するよりも見せた方が早いと考え、鉱山があった場所へ二人を案内する事にした。

 ミーシャは二人が差し入れしてくれた食べ物をクレアに食べさせる為に病室に残ってもらっている。


「穴? 何でこんな所に? しかも下はダンジョンだったのかしら?完全に潰れてるわね、って!ランスロット、まさか……」


「詳しい事情は省くけど、ダンジョンに閉じ込められちまってな。レイヴンが穴を開けて出る予定だったんだけど……」


「呆れたわね。まさかこんな巨大な穴を?」


「魔力が無くなるのも頷ける」


 多分二人が想像しているのは爆発を引き起こす魔具を用いた破壊だろう。大量の魔具へ魔力を注ぎ込んで倒れた。そんな所を想像しているに違いない。

 二人が呆れたような感嘆した様な微妙な顔をしているので言い難い。


「あれ? そう言えば、ドワーフの街のダンジョンって鉱山じゃなかったかしら?」


「まさか……」


「そのまさかだ。この大穴の上には鉱山があった。魔剣の力を使って、下から全部吹き飛ばしたんだ」


「「……」」


 二人が黙ってしまうのはよく分かる。

 俺だって実際にこの目で見ていなかったら信じられなかったと思う。

 わざわざ此処へ連れて来たのだって、見せた方が早いと思ったからだ。話したって信じられる訳が無い。


「ランスロット。レイヴンが目を覚ましたら言っておいて。こんな無茶な力を使っていたら……この先は言わないでも分かっているでしょう?」


(魔物堕ちか……)


「それと、コレをレイヴンに飲ませてあげて。魔力の回復に良い薬草を煎じたポーションよ」


「ああ。助かるぜ」


「数日経ったらまたこの街に来るから。手紙の件はその時に」


 二人はそう言い残して去って行った。


 どうしてこういつもレイヴンに関わると面倒ごとに巻き込まれるのだろう。

 二人が依頼を受けた内容はおそらく大昔、西の大陸にあったという国の事ではないかと思う。というより、他に思い当たる事が無い。

 おまけにリヴェリアからの手紙と来たら、間違いなく厄介後事に決まっている。


「またかよ……」



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