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レイヴンの異変

 レイヴンのバツの悪そうな謝罪の後もランスロット達は頭上に開いた大穴を見上げていた。

 最早、ダンジョンから脱出するだのはどうでも良くなる程に呆れていたのだ。


「いや、穴っていうか……」


「……」


 ここまでやるつもりは無かった。

 嘘じゃない。


「クレアちゃん、お空が青いですねー……」


「あい……」


「くるっぽ……」


「……」


 一つだけ弁解させて貰えるなら。

 地上までどの程度の距離があるか分からない状況では下手に手加減するののは危険かもしれないと思ったのだ。本当だ。

 だが、地下で出会った謎の女ステラによって解呪された魔剣の力は想像以上だった。あれはレイヴン自身の力というより、今まで魔剣の中に蓄えられた膨大な量の魔力を一気に放出したものだ。

 魔剣を振り抜いた瞬間、自分の意思とは別に魔力が流れて行くのを微かに感じた。これ程の破壊行為は今のレイヴンの力だけでは不可能だ。


 それにしても魔剣がやけに大人しい。

 魔剣が意思を持っているだなんて馬鹿馬鹿しい話だと思うし、信じてなどいない。リヴェリアの持つレーヴァテインが特殊なだけだ。

 しかし、今なら何となくだが、魔剣が考えている事が分かる気がする。例えて言うなら……。


『久しぶりに全力出してスッキリした!』


 きっとそんな感じだ。

 いつも不気味な心臓の鼓動を響かせていた魔剣が、今は小気味良いリズムを刻んでいる。

 ステラによって呪いを解かれた事で本来の力を取り戻し、数百年だか数千年来の鬱憤を晴らした…という事だと思われる。実際、解呪された直後よりも魔剣と自分のだろうか魔力が馴染んでいるような感覚があるのだ。


「にしても、その魔剣凄えな……無茶苦茶だろ」


「確か、魔神喰い、でしたよね?最初に見た時の形は正にって感じでしたけど、今は少し違うというか……」


 この魔剣は元々『魔神喰い』だなんて物騒な名前では無かったとも聞く。この魔剣を手に入れた時も詳しい事は分からなかった。

 いつだったか、この魔剣を見た学者が『せめて本来の名が判れば』と言っていたが、そもそもこの魔剣に名前はあったのだろうか?

 どんな奴が使っていたのか知らないし、興味も無い。けれど、神と悪魔の呪いを受けてまで戦ったのが真実なら、その理由については少しだけ興味がある。


 これは勘だ。

 おそらくこの魔剣は魔剣と呼ばれる前、ただの名も無い剣だった。そんな気がする。


 ともあれ、“俺が使っても折れないし、よく切れるから便利だ” などという考えは改めた方が良さそうだ。

 この魔剣の力は危険過ぎる。今後、全力での使用は禁じようと思う。

 というよりも、それが良い。そうするべきだ。


 大き過ぎる力は、必ずしも人を救うとは限らない。

 魔物を倒すにしてもそうだ。こんな力は必要無い。


(俺には、俺が自分で得た力がある)


 魔剣は今まで通り折れない剣として使うことにしよう。無理に力を制御しようとするのは危険かもしれない。

 別れ際にステラが言ってたように巨大な力を使えば魔物堕ちのリスクが高まる。それだけは避けなければーーー


「おーい、レイヴンどうした?」


「あーうー!」


「なんでもない……脱出するぞ」


 なんとも言えない空気に耐えかねたレイヴンは、気絶している三人組をぶら下げて穴の外へと降り立った。


 改めて穴を見ると魔剣の力が如何に凄まじいものだったのかよく分かる。

 だがまあ、これで一先ず安心だろう。残すはダンジョンの後始末だ。


 ステラの話ではダンジョンを潰せば揺れが止まるらしいが、既に揺れは収まっている。

 穴を開けた反動で魔物を倒した事が、結果的にダンジョンを潰すのに成功したという事らしい。

 けれども、穴は塞がなくてはならない。

 魔剣を使うのは危険過ぎる。下手に魔剣を使って、またさっきみたいな事になったらステラのいる場所まで潰してしまいそうだ。かと言って他に方法が思いつかない。

 大穴が開いたまま放置する訳にもいかないとなると困ったものだ。


(街へ戻ったらガザフに相談してみるか。参った。また借りを作ってしまうな)





「ふう…。一時はどうなることかと思ったけど、どうにか助かったな」


「助かったのになんなんでしょうこの気持ち……。あれだけ沢山いた魔物もレイヴンさんの一撃でほとんど全部吹き飛んじゃいましたし……」


「……」


「あっ! いえ、レイヴンさんを責めてるとかじゃないですよ? 助けて下さってありがとうございます!」


「あり、がとうっ! レイヴン!」


「ああ」


 どうにも引っかかる言い方だが、クレアもミーシャも怪我は無いようで良かった。

 クレアもだいぶ喋れる様になって来たし、怯えた様子も無いようで安心した。

 ただ、クレアのために選んだ初依頼が台無しになってしまったのは残念だ。後日改めて他のダンジョンでの依頼を受けるとしよう。ともかく、皆無事だったのだ。今はそれで良しとするしかないだろう。


(安心した、か……)




「そこのお前ら!!! 」


「この有様の元凶はお前達だな?」


 レイヴン達がやっと地上へ戻れた事を実感し合っていると、ドワーフの一団が怒声を上げながら近付いて来た。

 全員武装していて、かなり興奮した様子だ。

 一度頭に血の登ったドワーフを鎮めるには戦って勝つしか無い。言葉よりも拳。彼等はそういう種族でもある。

 どういうつもりか知らないが、戦うつもりなら相手をしてやる。


「何の用だ? やるならさっさとかかって来い」


「待て待て待て! 何で喧嘩腰なんだよ⁈ 何の用だって、どう考えてもお前が吹き飛ばした鉱山の件だろ。とにかく話をしてみようぜ。落ち着けよ」


「だがドワーフは……」


「俺だってそのくらい知ってる。それでも、だ!」


 ランスロットが慌ててレイヴンを止めた。

 ドワーフ達は武器を構えたまま包囲する様にして、此方の様子を伺っていた。好戦的な雰囲気ではあるが、直ぐに仕掛けて来るという事は無さそうだ。


「すまない……」


「どうしたんだよ。レイヴンらしく無いぜ?」


 確かに、彼等にしてみれば大事な飯の種を失った様なものだ。怒る気持ちも分からないではない。

 ランスロットの言う通り、この場は大人しく事情を説明した方が良さそうだ。

 ダンジョンの穴をどうするのかは、それからでも遅くは無いだろう。


 誰と話せば良いだろうかと見渡すと、武装したドワーフの一団の中に見知った人物を発見した。

 武器屋のガザフだ。

 ガザフならば、少しは話が出来るだろう。穴を塞ぐ方法にも何か知恵を貸してくれるかもしれない。


「ガザフ……」


「く、来るな!」


「動くんじゃねぇ!!!」


 レイヴンが一歩踏み出しただけでドワーフ達の間に緊張が走る。武器を突き出し、威嚇して叫び始める始末だ。

 だが、近付かなければ話が出来ない。

 更に一歩踏み出したところで、今度は弓矢が飛んで来た。しかし、軌道は出鱈目で威力も無い。威嚇のつもりだろう。剣で払い落とすまでも無い。


「今のは警告だ! 化け物め! それ以上近付いたら次は当てる!」


 イライラする。

 頭では安い挑発だと理解しているのに、ドワーフ達の言葉が一々鼻に付く。


「レイヴンさん! レイヴンさん!」


 ランスロットの後ろに隠れるようにしたミーシャが手招きしていた。ドワーフ達と話をしなければならない時に一体何の用だというのか。


「何だ? 今は忙しい」


「ちょっと待って下さいってば! レイヴンさんの格好に問題があるんですよ!」


「何だと?」


「そんな格好で、とてつもない魔力を放っている人が、話をしようだなんて言っても信じて貰える訳無いですよ!」


「ミーシャの言う通りだぜ。顔も見えないんじゃあな。鎧は無しだ」


「面倒な……」


 ドクンという音と共にレイヴンの体を覆っていた鎧が黒い霧へと変化し、いつもの無愛想なレイヴンが姿を現した。


「あ、あんたは……? 間違いねえ! レイヴンじゃねぇか!」


 ドワーフの一団にいたガザフが仲間達を押し退けて駆け寄って来た。

 一緒に来ていたドワーフ達はガザフの行動に戸惑っている様子だ。


「ガザフ、事情を説明ーーーー」


 さっさと説明してしまおうとしたレイヴンの体に異変が起きた。


(何だ⁈ 体が急に……不味い、意識が……)


 全身の魔力が急激に低下していく。

 魔剣が勝手に魔力を喰らっているわけでは無いようだ。


「お、おい!!! どうしたレイヴン⁈ しっかりしろ! レイヴン! レイヴン!」


「レイヴンさんしっかりして下さい! レイヴンさん!」


「レイヴン! レイヴン!」


 周りで皆が名前を呼んでいるのが聞こえる。

 けれど、その声は次第に遠のいていく。

 魔剣の力を解いたら急に体の自由が利かなくなってしまった。立ち上がろうにも指一本動かせない。


「くそ! どうなってるんだ⁈ 誰か医者を呼んで来てくれ!!!」


「運んだ方が速い!てめえら!この人は俺の認めた男だ!レイヴンだ!力を貸せ!」


「レイヴン?!」


「あの、レイヴンか!」


 ガザフが指示を出すと、遠巻きに様子を伺っていたドワーフ達が一斉に動き始めた。


「すまねえ。俺はランスロット。あんたは?」


「ガザフだ。レイヴンは俺のとこの上客でな。詳しい話は後だ。良し! 医者の所へ運べ!」



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