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第五話 天空の楽園

 

 光の中へ飛び立って少しすると、何かを突き抜けたような感覚の後、レイヴンの目の前に空に浮かぶ巨大な島が姿を現した。

 分厚い雲の上に浮かぶようにして静かに佇む島は、言葉では形容し難い神秘的な雰囲気を放っている。


「ようこそ。ここが私達竜人族の住処よ」


 レイヴンの中にこれまで体験した事の無い感情の渦は、竜人の島へ来た目的を忘却の彼方へと連れ去っていった。


「……凄い。なんて、なんて美しいんだ」


 それは自然と口から漏れ出た素直な言葉だった。

 ずっと憧れ続けた憧憬を目の当たりにしたレイヴンは、深い感嘆の吐息を漏らした後、四枚の白い羽を一層力強く羽ばたかせて島の全体を見渡せるように更に高く上昇した。


 眼前にあるのは正に天空の楽園。

 大地の一部がそのまま空に浮かび上がったような圧巻の光景だ。

 歓喜や羨望といった感情がさざ波となって広がり、押し寄せて来る波はやがて大きな畝りとなってレイヴンの心を満たして行く。


 最近は以前に比べて感情を言葉で表現出来るようになって来たと自分でも思っていたが、まだまだだ。凄い以外の言葉が浮かんで来ない。

 しかし、そうで無かったとしても無理のない事ではないだろうか。

 こればかりはお喋りの得意なマクスヴェルトでも、きっと形容する言葉を持たないに違いない。


「どう?……って、聞くまでもないみたいね。気に入ってくれたようで良かったわ」


 一面に広がる豊かな森と田畑の緑。

 山から吹き下ろす温かい風と緑の匂い。

 頬を照らす柔らかな陽差し。

 慎ましい小さな家と、草原で自由に遊ぶ子供達の賑やかな声が心地よく耳に響く。


 そこには地上に住む者達がこれから目指すべき日常、本来あるべき生活の全てがあるようだった。

 それはレイヴンが冒険者として歩き始めた時から焦がれ夢見た景色。

 血生臭い戦いとは無縁の場所。

 魔物の気配一つない、穏やかな時間の流れる理想の世界だ。


 レイヴンはジッと島を見つめた後、目を閉じて深呼吸してからようやく隣にいたミアへ視線を向けた。


「ああ、ここは本当に良い場所だな。魔物の気配も無いし、空気も澄んでる。花がたくさん咲いているのも良いな。ミア、俺はこの景色が好きだ」


 想像していたのとは随分違う。てっきり絢爛豪華な神殿があるとばかり思っていた。

 妖精の森も良かったが、世界樹が浄化の為に吸い上げた瘴気の影響で夜になると魔物が発生するのが問題だった。だが、不思議な事にこの島にはそういったことも無いように感じられた。

 生きている者全て、どんなに善良な人間でも大なり小なり他人には開かせない闇を抱えているものだ。それらは瘴気となって集まり魔物を生み出す原因になる。

 なのに、この島からはそういった瘴気や穢れを一切感じ取れないのだ。いくら竜人が聖の存在だとしてもそんな事があり得るのだろうか。


「ふふふ。ありがとう。そんな風に言ってくれたのはレイヴンで三人目よ」


「三人目?」


「そうよ。一人はーーー」


 ミアが説明しようとしたその時だった。

 せっかくの感動も束の間。巨大な魔力の砲弾がレイヴンとミアのいる空中へ向けて放たれた。

 その範囲は広く、かつてケルベロスが放った火球の数十倍はある。


(チッ)


 心の中で小さく舌打ちをしたレイヴンは、自身の背に庇うように素早くミアの前に出る。

 回避するのは簡単だ。しかし、二撃三撃目が来た場合、ミアを連れていては避け切れない可能性がある。

 ならばレイヴンの取る手段は単純だ。

 この場に留まり魔力弾を迎撃すれば良い。


 レイヴンは眼前にまで迫った魔力弾に向かって腕を振り抜き、素手で弾いて空の彼方へと吹き飛ばした。


「レイヴン大丈夫?!」


「ああ。どうやら俺を歓迎していない連中がいるらしいな」


「そんなはず……」


 ミアは否定しつつも、違和感を覚えて口籠もった。


 あれだけの規模の攻撃を放てる者は竜人族の中でも限られている。普段は山奥に籠っている最古の竜人達の仕業と見て間違い無いだろう。

 事前の話し合いではレイヴンに一切の手出しをしないと決まっていた筈なのに、ミアが地上へレイヴンを迎えに行っている僅かの間に何かあったとしか考えられなかった。


(だけど……)


 とりあえず誤魔化すだけなら出来るが得策では無いと即座に判断した。

 レイヴンに嘘は通じない。


「今のは最古の竜人達が放った魔力弾よ。だけど、レイヴンが天界へ来る事は事前に皆の了解を得ているのに変だわ」


 ミアの言葉が嘘では無いとレイヴンには直ぐに分かったが、魔力弾を放った連中は次の攻撃準備に入っているようだった。


「せっかく美しい景色を堪能していたのにとんだ邪魔が入ったものだ」


 レイヴンは白い鎧姿を解除していつもの黒い鎧に戻ると魔剣ミストルテインを抜いた。


 それを見たミアは目の前が真っ白になる。

 レイヴンが魔剣の力を使えば天界はたちまち火の海になってしまう。いや、それどころか天界ごと消し飛びかねない。

 冗談や比喩では無い。今のレイヴンはそれが出来る力を持っている。


「ちょ、ちょっと待って!レイヴンが怒るのは当然だわ。だけど少しだけ待って欲しいの!私が行って事情を説明してくるから魔剣の力は使わないで。だってこんなの絶対に変よ!」


「慌てるな。俺もこの景色が好きだと言った。壊したりしない。いつも通りの姿の方が楽なだけだ」


「楽って……」


 レイヴンはミアと話している間も、次から次へと休みなく放たれる魔力弾を枯葉でも振り払うように魔剣で切り裂いている。

 その姿はとても落ち着いた様子で、普段通りの無愛想な顔をしたレイヴンのままだった。


「前にも似たような経験があったからな。やる事は同じだ」


「……」


 それはミアからすればもう異常としか言えない光景だった。


 レイヴンに敵わないまでも、最古の竜人の力は疑いようが無く、リヴェリアに次ぐ実力者揃いだ。

 そんな猛者達の攻撃を何でもない顔をして易々と防ぐだなんて実に馬鹿げている。

 事実、魔剣の力を使っている訳でも無いのに、まるで吸い込まれるように的確に魔力の綻びがある場所へと剣閃が走る様は異様としか言い様がなかった。


 リヴェリアのような「先の先」と呼ばれる未来視と錯覚してしまいそうな次元の先読みとは違う。

 レイヴンは鍛え上げられた超人的な五感と積み重ねてきた経験だけで、魔力弾の最も脆い箇所を瞬時に見抜いて対応しているのだ。


「そうだった……レイヴンだものね」


 こと戦闘においてレイヴンの右に出る者はこの世界に存在しない。

 かつて魔界随一の実力者と謳われた魔人アラストルや本来の力を解放したリヴェリアが暴走したレイヴンを抑え切れなかった時点で分かりきっていたことだ。


「とにかく、事情は分からないけど、どうにかしてお祖父様と連絡を取る手段を考えないと駄目ね。レイヴン、悪いんだけどもう少し時間稼げる?」


「問題無い」


「即答……流石ね」




 ミアが魔法を使って連絡をとっている間、レイヴンは浮かんだ疑問をミストルテインに話していた。


(ミストルテイン、何か変だと思わないか?)


 ーーーああ。あまりに単調過ぎる。一発ごとの魔力弾の威力は高く、殺傷能力も非常に高い。しかし、殺意を感じないな。不明瞭な点が多過ぎるのも気がかりと言えばそうなのだが……私にはあの結界を維持してみせた最古の竜人の力がこの程度とは思えない。


(お前もそう感じるか。さて、どうしたものか……)


 魔力弾の威力も範囲も同族のミアが一緒にいるのを無視したものだ。単調な攻撃を繰り返すばかりで何がしたいのか分からない。

 この程度の攻撃ではいくら続けても意味が無い事くらい分かっているだろうと思ってしまう。

 あの結界を維持してみせた最古の竜人の力が本当にこの程度なのだろうか?

 何か裏があるような気がしてならない。




 暫く魔力弾を切り裂いて様子見していると、レイヴンの背後で空間が揺らぐ気配がした。


「はい、到着。って、えええ……これは一体どういう状況なのさ……」


「来たか。説明してやりたいんだがな。俺が聞きたいくらいだ」


「はぁ……。ホント君ってつくづくトラブルに縁があるよね。何で天界に来ただけてこんな事になるかなぁ……」


 空間の裂け目から顔を出したマクスヴェルトは、こちらを見ながら片手で特大の魔力弾を切り裂くレイヴンを見てあからさまに脱力して肩を落とした。


 どうやらレイヴンがトラブルを引き寄せるのは魔物混じりとしての力が強すぎるからだと思っていたのは間違いらしい。


「ちょっとマクスヴェルトさん!後ろがつっかえてるんで早く出て下さいよ!」


「え?ああ、ごめんごめん」


「あ!今二回言いましたね?!」


「はいはい。今ちゃんと扉を開くからさ」


「あー!また二回言いましたね?!」


「ミーシャお姉ちゃんそれはもういいから……」


「ミーシャも大概しつこいよね」


「はうあっ!!!それでも私は負けません!二人共大好きですぅ!」


「もう!いちいち抱き付いて来なくていいってば!」


 マクスヴェルトが出口を広げると、ツバメちゃんに乗ったミーシャ、クレア、ルナの三人がいつもの騒がしさで出て来た。


 ミーシャにはマクスヴェルトを連れて来るようにしか言っていないのに、どうしてクレアとルナまでいるのだろう。

 暫くリアーナの家には帰れないと言っていたし、今頃二人は依頼をこなしているはずだが……。


「うわぁ〜!見てルナちゃん!すっごい綺麗な所だね!」


「ほんとだ!何あれ?!うはぁ、川まである!何処から水が流れてるんだろ?不思議〜」


「「ね〜」」


 二人はレイヴンが魔力弾を切り裂いていることなどまるで気にしない様子で口々に天空に浮かぶ島の感想を言い合っていた。


「す、凄いわね。この状況を気にも留めないだなんて……」


「美しい景色だからな」


「え……?」


「ん?何か変なことを言ったか?」


「あ、いえ、いいの。そうよね。気にしないで」


 ミアは何と言えばいいのか分からず頭に手をやった。


(いけない。私ったらレイヴンのペースに振り回されてばかりね)


 見たところレイヴンには本気で何も変だと思っている様子が無い。

 レイヴンの尋常ではない強さを知っていても、そうなるだろうと分かっていても。それでもいつの間にかレイヴンを普通の人間と同じ基準で見てしまう。というか、それで良い筈だ。

 ミア自身、自分でも何を言っているのか分からないのだが、とにかくそうなのだ。


 レイヴンは地上の人間達と同じ人間だ。

 頭と感情と理性ではそれが正解だと理解しているのに、あまりに場違いな態度を見せられては感覚の違いに戸惑ってしまう。


 ただこの感覚に思い当たる節が無い訳でもない。

 自分達竜人が地上で生きる人間達に対して感じていた事をそのまま返されているとでも言えばいいのだろうか。

 圧倒的上位者と自分との間にある力の差、存在感の差は歴然としていて、これまで感じたことも、考えることすらも無かった違和感が上位者の立場にある筈の竜人ミアの本能を刺激しているのだ。


(同じ世界で生きて行くにはレイヴンの力はあまりにも逸脱している。だけど私には分からない……。リヴェリア、貴女ならきっとこれも予想していたのでしょうね……)


 竜人ですらこれだけの違和感を感るという事は神族と魔族であればより一層強い危機感を感じている事だろう。

 現妖精王にして元魔王の懐刀であるアルフレッドの話では、神と悪魔はレイヴンの件には不干渉という約束を取り付けているそうだ。けれども、本当に彼等がこのままレイヴンを放置しておく筈が無いと思う。


 ミアは竜人族の態度が一変した理由や、魔法での連絡がつかない理由が正にそれなのではないだろうかと感じ始めていた。




(もしかして攻撃されていることを言ったのか。あの二人ならこのくらい普通だと思うんだが……。うーん……)


 二人共毎日依頼をこなしているおかげで知識も実戦経験も戦闘そのものの質も、同じ年代の冒険者と比べて群を抜いている。

 リヴェリア等の格上の実力者達と剣を交えた経験があるのも大きいだろう。

 そんな二人の今の実力を考えれば、この程度の事態は驚くに値しないと捉えてしまうのも仕方がない。

 当然、クレアにも同じ事が出来るだろうし、例えばルナなら魔法そのものの発動を阻害して無力化してしまったとしても不思議だとは思わないからだ。

 むしろその程度の事であれば容易くやってしまうと思っている。


 ーーー主殿。その感覚のズレも学習が必要なようだ。あの二人はある種の例外だ。一体どれだけ主殿の非常識に付き合って来たと思っている?ミアの反応が普通なのだ。


(それならミーシャも驚いていないだろ)


 ーーーミーシャはもう割り切って開き直っているだけだ。やれやれ、そんな事にも思い至らないとはな。リヴェリアに報告して学習項目を一つ追加だな。


(……むう)


 ミストルテインの言葉を聞いて途端に気分が重たくなる。

 つい最近もリヴェリアの講義で失敗したばかりだ。



 ーーーーーー



『いいかレイヴン。お前の中にある当たり前だという考えは一旦忘れろ。レイヴンの場合はそうだな……。先ずは物事を俯瞰して見てみることから始めるといい』


『ふかん?俯瞰とはなんだ?どうすれば良い?』


『第三者の視点に立ち、周囲をよく観察すること、話をよく聞く事。所謂、普通の交流がどういう基準で行われているのかを先ず観察し、よく知るのだ。

 言っておくが、今知らないことは恥では無い。知る機会があるにも関わらず、いつまでも放置していることが恥なのだ。だから先ずは知る事からというわけだな』


『なるほど。そのくらいなら俺にも分かるぞ。知識は重要だからな。今は必要無かったとしても知っている事に意味がある。セス達にも教えた事があるぞ』


『ほほう。大層な自信ではないか。なら、試しにレイヴンはどのようにするのか聞かせて貰おうではないか』


『なに、簡単な事だ。要はダンジョンで魔物を観察する時の様に振る舞えば良いだけの話だろ』


『は?』


『だから、街中での隠密行動と偵察行動だ。一般人が相手なら殺傷能力の低い装備が必要になるかもしれないな。尋問の必要もある、か。そうなると俺の持っている装備では心配だ。捕獲用の罠ならいくつか持っているんだが、生憎どれも大型の魔物用だ』


『捕獲?』


『コレだ。こいつは少し特殊でレイドランクの魔物が相手でも僅かな時間であれば動きを封じられる』


『……レイドランク』


『ああ、そうだ。フローラの工房でヒントを貰ってな。どれも俺が自分で作った。素材が希少でかなりの出費になってしまったが、その甲斐あってなかなか良い出来だぞ?使用方法についても普通の冒険者が罠を戦術の要として戦っているのを見て参考にしてみたんだ』


『参考……』


『しかし、困ったな……。これを普通の人間相手に使うのは流石に不味い。リヴェリア。普通はどんな装備を使うんだ?俺にはそういう装備を作る知識は無いんだ。何処で買える?ガザフに頼めば何とかなりそうか?』


『何とかって……。名匠ガザフに頼んだら一体いくらかかると思っておるのだ……。一つ作るのにも私のおやつ代数十年分は軽く……じゃなくて!』


『……何だ急に。それよりどうだ?俺も随分と普通の生活に馴染んで来たと思うだろ?これもお前達の講義のおかげだな』


『はあ……。思っていたより重症だな。リアーナには悪いが、夕食に頼んでおいたミートボールパスタの予約はキャンセルだ。レイヴン!今日は一日補習だ。私の話をきちんと理解するまで帰さんからな!

 ユキノ、フィオナ!レイヴンが逃げないようにコレを使って椅子に縛り付けるのだ!」


『な、ま、待ってくれ!くそっ!これは俺が作った罠?!いつの間に?!ミートボールパスタの日は絶対に早く帰るとリアーナに約束しているんだ!そもそも、一体俺が何を間違えたと言うんだ?!』


『うるさい!何もかもだッ!!!』



 ーーーーーー

 ーーー

 ー



 教壇に立ったリヴェリアが鳴らす靴の音と、何の為に着けているのか分からないよくズレ落ちるレンズの無い眼鏡を頻繁に上げる姿が脳裏に浮かぶ。

 反論しようものならいちいち机を叩いて威嚇してくるので黙って大人しく話を聞いている。

 ユキノやフィオナ達が毎回講師役を交代しながら一般常識を教えてくれるのは有り難いことだと思っている。けれど、その成果が身に付いているかと問われると正直微妙だ。



 そうこう考え事をしていると、ミーシャが申し訳なさそうに近付いて来た。


「何故二人を連れて来たんだ?」


「あー……それがですねぇ……」


 ミーシャの話によると、てっきりダンジョンへ潜っているものとばかり思っていた二人は、マクスヴェルトが代表を務める学園を見学しに行っていたそうだ。

 とは言え、今更二人が学園で学べる

 マクスヴェルトがマリエに魔法の指導をしている間、早々に暇を持て余した二人は昼食を条件にキッドやセス達といった学園に席を置く新米冒険者達の指導を引き受けていたらしい事が分かった。


「昼飯の対価に指導か。最高位冒険者の依頼料としては破格だな。あまり勝手に報酬額を下げて組合や他の冒険者から小言を言われたり目を付けられなければいいが……」


「はい?」


 冒険者の新しい仕組みがどうこう以前に報酬額を勝手に決めてしまうのは良くない事だ。

 最高位冒険者が組合の規定よりも遥かに安い報酬で依頼を受けることが広まりでもしたら他の冒険者の報酬にも影響が出てしまう。

 せっかく二人が頑張っているのに、余計な恨みを買うような真似をしては台無しだ。

 その程度でどうにかなるような柔な二人では無いことくらい百も承知しているのだが、どうにも心配でならない。


「もしかしてもう既に冒険者の誰かに目をつけられているだなんて事は……。いや、最悪の事態は想定しておいた方がいい。だとしたらその依頼は全部俺が受けたことにして……。リヴェリアと、それからユキノとフィオナにも話をしておく必要があるな。いや待てよ?あまり露骨にやると怪しまれるか……。ガハルド……は駄目だな。ライオネット辺りに頼んでみるか」


 ブツブツ訳の分からないことを言い始めたレイヴンを見たミーシャの表情から次第に二人を連れて来てしまった申し訳なさが消え去っていった。


 レイヴンがクレアとルナの二人を大切に想っているのを知っているミーシャとしては、人が変わったようにあれこれ心配するレイヴンの姿を羨ましいと思う反面、この反応は過剰過ぎて呆れてしまう。


 気付けばミーシャは半分閉じたような冷めた目でレイヴンを凝視していた。


「何真面目な顔して親馬鹿みたいな事言っちゃってるんですか」


「な!?お、親……ば……か……」


「だいたいですよ?ご飯一回でサラちゃんとニブルヘイムを救ったレイヴンさんがそれ言います?二人共レイヴンさんのやり方を見習ってるだけじゃないですか。正式な依頼じゃないんですから何も心配いりませんよ」


「い、いやしかしだな……」


 ーーー口ではミーシャには勝てない。そうだろう?諦めろ。過保護も大概にしておけ。


(……ッ)


 最高峰の冒険者として名を馳せる二人の指導を直接受けられるとあって、学園は生徒以外の冒険者達で溢れかえっていたそうだ。

 そこへミーシャがマクスヴェルトを呼びに現れたものだから、耳の良い二人は依頼を早々に切り上げて無理矢理ミーシャについて来たというのが経緯らしい。

 確かに正式な依頼では無いのだからそこまで心配しなくても良い気がする。


「レイヴン一人で何処かへ行こうだなんて駄目駄目。僕達が放っておく訳無いじゃん」


「私達も一緒に行きたい!」


「うっ……」


「「一緒に行っちゃ駄目?」」


 一人前の冒険者として一人立ちしたとは言え、リアーナ同様家族だと思っている二人にせがまれては、さしものレイヴンも嫌とは言いにくかった。


「仕方ない……か。後でちゃんとセス達に指導の続きをしてやるんだぞ?」


「「はーい!」」


 後ろでマクスヴェルトが「相変わらず二人には甘いんだから」とボヤいていたのが見えたが、それは見なかった事にする。

 守らなくて良いからと言って大切な存在であることに変わりない。



 ーーー主殿。


(ああ、そろそろ備えるとしよう。もう終わったんだろうな?)


 ーーーなんだ。気付いていたのか。


 何故かがっかりした様子のミストルティンを無視して素早く魔力を刀身に纏わせ魔剣を構える。


 シェリルが制御出来ない技だと言った技。

 あのリヴェリアにすら完璧に制御するのは難しいと言わせた技。


(一瞬だけ攻撃の間隔が空けば十分だ)


 ーーー問題無い。


(お前が言うな)


 確かな手応えを感じたレイヴンは、魔力弾を切り裂く動作のまま最古の竜人の直ぐ足元に狙いを定めてミストルティンを振り抜いた。


「一閃」

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