第四話 光の中で
レイヴンの手を掴んだミアは、聞き慣れない言葉を使って呪文を唱えると、最初にレイヴンとミーシャが入って来たドアを静かに開けた。
すると、廊下がある筈の場所には眩い光に包まれた真っ白な空間が広がっていた。
果たしてこれが竜人族の住む場所へと繋がる入り口なのだろうか?
あまりの白さにどのくらいの広さなのかも壁が何処にあるのかさえ分からない。
ーーーなるほどなるほど。そうか、あの感覚はもしかして……。
ミストルテインが何か始めたようだが、レイヴンにはよく分からないので放置する事にした。
それよりも今は全身を襲う違和感の方が気になる。
「さあ、行きましょうレイヴン。こっちよ」
「ああ」
不思議な感覚のまま光で満たされた空間に足を踏み入れた瞬間、入り口の扉が消えて真っ白な空間にレイヴンとミアだけが取り残された。
はっきり言って落ち着かない。
辺り一帯に精霊であるツバメちゃんとよく似た気配が充満している。
(リヴェリアが纏っていた魔力と同質の物だ。だがこれは何か少し違う気がする)
ーーー神聖魔法だ。この空間は竜人族が持つ聖の魔力で満たされている。
(これが?妖精の森で世界樹の結界に使われていたのとは違うな)
ーーーその通りだ。妖精種の使う魔法は純粋な神聖魔法とは決定的に異なる点が一つある。説明が必要か?
(いいや。それならルナがいる時に頼む。俺には魔法の説明をされても上手く活かせない)
ーーーそうか、了解した。
白い空間に満ちた聖の魔力は全てを包み込むようにレイヴンの体に纏わりついてくる。
不快という程ではないものの、体中の血液がムズムズと蠢いているような気がして気持ち悪い。
試しにツバメちゃんの時と同じように集中してみても、レイヴンには神聖魔法の魔力の流れがまるで感知出来なかった。
あのマクスヴェルトに再現が難しいとまで言わせた魔法だ。神聖魔法というだけあって通常の魔法や魔術とは発動原理が根本的に違うのだろう。
(精霊や妖精と同一の気配。なのに力の流れが上手く掴めないな)
そんな事を考えていると、不意にミアがレイヴンの顔を覗き込んで来た。
「どうかした?」
「神聖魔法は初めてだからなんだか落ち着かなくてな。少し観察していた」
「ううん、良いのよ。ここは聖なる魔力で満ちた空間だから魔族の血を引くレイヴンがそう感じるのも無理もない事だわ。向こうへ着けばそんな事なくなると思うから少しの間我慢してね」
「分かった」
「それより慌ただしくてごめんなさい。改めて自己紹介させてもらうわね。初めましてレイヴン。私はミア。もう何となく気付いているとは思うのだけど、リヴェリアとは腹違いの姉妹なの。よろしくね」
(姉妹……)
いつだったかリヴェリアは魔物では無い他の存在との混血だと言っていた。
腹違いというのはその事に何か関係しているのだろうか。
ーーー主殿。余計な詮索は無粋というものだ。
(そのくらい分かっている)
「なら俺も。レイヴンだ。しかし、良かったのか?ガレスはまだ何か言っていたようだったが……」
「気にしないで。ガレスはきっとレイヴンに謝りたかっただけだから」
「なら……」
喋りかけたレイヴンの口をミアの指が塞いだ。
「レイヴン。突然貴方にこんな事を言うのもどうかと思うけど言わせて頂戴」
「……」
悲しいような申し訳ないような表情をしたミアは、一つ一つの言葉を絞り出すようにレイヴンに語りかけた。
「永遠にも近い時間、何度も繰り返される世界で、たった一つの願いを信じ続けるなんて誰にでも出来ることじゃないわ。
ガレスはリヴェリアのことを実の娘のように可愛がっているけれど、それでもリヴェリアの願いを最後まで信じ切る事は出来なかった。そのことを悔いる気持ちも、謝りたいと思う気持ちも痛いくらいに理解出来る。私だって最初は無理だと思っていたもの。それでもガレスは自分の役割を立派に果たしたわ。だからもうそれ以上の言葉は必要無いと私は思っているの」
思い詰めた様子のミアを見てレイヴンは「ああ……」と何かが腑に落ちたような気がしていた。
ガレスが感じていた後悔はガレス一人だけのものではない。ミアもまたリヴェリアの姉として何もしてやれなかった自分に後悔しているのだ。
どんなに便利な魔法でも、過去を無かったことにするなんて真似は出来はしない。
暗闇しかなくても、後悔を背負ってでも、手を伸ばして抗い願い続け、ひたすらに歩き続けて来た。
それが正しいのだ。自分にはそれしか出来ないのだと言い聞かせて来た。
けれどそれは実際には誰かの願いを背負うことで、幼かった頃のレイヴンがまだ暗闇に怯えていた時でさえ、ずっと願い続けてくれていた人がいた。
ミアの言うように一つの願いを信じ続けるのはとても難しく、苦しいことだ。
叶うかどうか分からない願いならまだ希望があるかもしれない。時間はかかっても何度でも立ち向かう気持ちを持てるようになるかもしれない。
しかし、そうやって進んだ果てに絶望しか無いと知っても尚、希望を抱き、より良い未来を信じ続けて同じ時間を繰り返し生きるのは途轍も無く苦しく孤独だ。
願った本人ですら何度も挫けそうになりながら進み続けた道を、信じたい想いだけで共に歩き続けるのは想像以上に辛く厳しい事だと思う。
途中で信じ続ける事が出来なくなったのだとしても、それをどうして責められるだろうか。
そんな永い時間をガレスはガレスにしか出来ない事をしてリヴェリアを影から支えて来た。リヴェリアが自分の願いを貫き続けられるように、進むべき道だけを真っ直ぐに見据えていられるようにだ。
だからその事でこれ以上ガレスが負い目を感じる必要は無いとミアは言った。
(そうだ。俺も皆も自分に出来る事を必死にやったんだ。俺は俺だ。だけどそれは独りよがりなんかじゃない)
レイヴンが歩みを止めずにここまで来られたのにはガレスやミアのように、未来を願ってくれていた人がいたおかげだ。
その想いを無駄にしない為にも、レイヴンは正直な気持ちをミアに伝えることにした。
「そうかもしれない……。ミアの言ったこと……俺にもよく分かるんだ。皆には心配も迷惑も散々かけた。暗闇が怖くて道を見失なうことも、迷うことも沢山あった。差し伸べてくれた手にも気付けないくらい周りが見えていなかったよ。
当時の俺は本当に何も分からなくて……。ただがむしゃらに歩き続けるくらいしか他に方法が思い付かなかったんだ。
でも今はもう違う。リヴェリアやマクスヴェルト、そして皆の、ガレスやミアもそうだ。本当に多くの人が協力し合ってくれたおかげで俺は自分が進むべき道を見つける事が出来た。
俺はもう独りじゃない。普通の人みたいに生活出来たり、一人で何でも出来るだなんてまだとても言えないけれど。叶わなかった、信じ切れなかった想いも全部、俺が無駄になんてさせない。させるものか。
もう誰も過去の事で後悔を抱える必要なんて無い。ミアも俺も。俺という存在に関わった全ての人も。
俺達はもう本当の意味で光のある世界を歩いて行けるんだ。
だから俺は願い続ける。誰が何と言おうとも。未来を掴んだこの手は絶対に離さない。
これが俺の出した答えだ」
真っ直ぐにミアを見つめるレイヴンの赤い瞳に迷いは無い。
多くの出会いと助けを得て希望の光をついに掴み取った。ガレスのように直接では無くても協力してくれた人も大勢いる。
その想いを無駄にしてしまわないように、光の射す世界を胸を張って生きて行く。
そうすることが彼等への感謝に、恩返しになると信じている。
珍しく長く喋るレイヴンの話を黙って聞いていたミアは目を閉じ、これまで天界から見ていたレイヴンの姿を思い浮かべる。
リヴェリアの一件以降、下界との関わりを絶った竜人族はレイヴンの同行を注視し監視を続けてはいても、決して救いの手を差し伸べることをしなかった。
幼い少年が必死に、それこそ命懸けで一日一日を越えていくのを見る内に芽生えた「せめてリヴェリアの願いを」と信じて願ったあの気持ちも、幾度も繰り返しされる望みの無い世界に歯噛みして次こそはと重ねた願いも、一向に光の見えない状況を前にいつしか薄れて消え去ってしまった。
なのにレイヴンは、そんな途絶えた想いも全部拾って受け止めてくれると言う。
「レイヴン……貴方は本当に優しくて面白い人ね。あれだけのことがあったのに、レイヴンの心は生まれたばかりの赤ん坊のように真っ白なんですもの」
「し、長く喋るのはまだ苦手なんだ。上手く言えなかったが、俺はただ自分の気持ちをだなーーー」
「ごめんなさい。気を悪くしないでね。今のレイヴンがそんな風に思ってくれているのが私も嬉しいのよ。本当にありがとう」
「……」
「さあ、そろそろ行きましょうか」
ミアはそう言って口元に笑みを作ると、リヴェリアと同じ真っ白な羽を羽ばたかせた。
光に包まれた空間にあっても、ミアの翼は美しく輝いて見える。
「翼?竜人達のいる場所へはこの空間の中を飛んで行くのか?」
「ええ、そうよ。私が先導するからついて来て……って、あー、やっぱり待って。この中だと聖の魔力の力が強くて竜人族以外には力が上手く使えないのよ。私の手を握って」
「いや、その必要は無い。そういうことなら一つ試してみたい事がある」
「試したいこと?」
「起きろ、ミストルテイン」
ーーードクン
レイヴンが腰に下げたミストルテインの柄に軽く触れて魔力を流すと、瞬時に“白い” 鎧姿へと変貌した。
背中にはためく白い四枚の翼はミアと同じく光を纏っていて、赤い血管の浮き出たような不気味な模様だった漆黒の鎧の装飾は、形状こそ変わりないもののリヴェリアが纏っていたような気品のある美しい純白に染まっていた。
「ふむ……こんなところか。待たせたな」
「え?あ、ええ……大丈夫よ」
レイヴンは魔剣の力を発動出来たことに満足したらしかったが、その様子を初めて間近で見ていたミアは驚きを隠せないでいた。
剣を抜かなくても魔剣ミストルテインとの魔力のやり取りが驚くほど自然に行われている事は勿論。聖と魔、二つの魔力を持つレイヴンと、聖剣と魔剣の融合した正式名称『聖魔剣ミストルテイン』が完全に一体となっている事が分かる。
しかも、ここは竜人の住まう島へと続く特殊な結界の中。清浄な魔力以外を拒む神聖魔法の影響下にあるというのに、魔の力が少しも反発を起こしていないのも驚きだ。それどころか今のレイヴンからは全く魔の気配を感じないのである。
白い鎧を纏う姿からは神や竜人と同じ聖の魔力だけを感じる。レイヴンの立ち姿はミアの記憶にある神に近い。
(こんなの異常だわ。一体レイヴンに何が起きたというの?!)
ミアは背筋に冷たいものが流れるのを感じて戦慄する。
まだ記憶に新しい選定試合の時も感じた。
レイヴンの放つ途方もない巨大な魔力は洗練され、非常に高い次元で緻密に制御されていた。魔剣からの補助があるにしても、あれだけの巨大な魔力を制御して平然としているレイヴンを見て思わず感嘆の溜め息を漏らしたのを覚えている。
しかも、明らかに魔物堕ちした時以上の力を内包しているのに、昔感じたような禍々しさは殆ど感じられなかった。
一度レイヴンが魔剣ミストルテインを抜き放てば、抗いようの無い超常の力が相対する者に争う事の無意味さを否応無しに分からせる。
その対象は神や悪魔、魔物と人間の脅威となり得る存在は勿論、人間とて例外では無い。
立ち塞がる存在に容赦はしない。
しかし、逆に本心から真に救いを求める者には、種族、対価を問わず必ず手を差し伸べる。
それがレイヴンだ。
(でもこれって自分の心をちゃんと制御している証拠よね。それにしても……)
戦闘を行わない普段のレイヴンは何処にでもいる普通の冒険者と何ら変わらない。
他の人より少し不器用なごく普通の青年でしかないのだ。
不器用なりにも純粋で誠実な姿勢がレイヴンの魅力である事はミアも十二分に理解している。
けれども実際にレイヴンの異常さを肌で感じると、未だに危うくすら感じてしまう。
人間になってもレイヴンは未だ多くの事を知らない。呪いにも似た優しさと苛烈な怒りを併せ持つ真っ白な心の天秤は、絶妙なバランスで保たれているだけなのだと。
ミアは次から次へと頭の中を巡る思考を止めて、レイヴンに何が起きたのか素直に聞いてみることにした。
「ねぇレイヴン。今、何をしたの?」
「これか?もう魔物堕ちを心配する必要が無くなったからな。二つの性質の魔力が俺の中にあるなら、どちらか片方だけを使うことも出来るんじゃないかと思っていたんだ。これなら自分で飛べるだろう?」
「……そ、そんな事が」
開いた口が塞がらないとは正にこの事だ。
あっけらかんと事もなげに言うレイヴンを見てミアは飛び立とうとしていたのを忘れて唖然としていた。
レイヴンが言った通り理屈では確かにそうかもしれない。しかし、二つの魔力は血液と同じでレイヴンの体内で一つに溶けて混ざり合っている。
いくら二つの性質の魔力があるからと言って、本来ならどちらか片方だけの魔力を使うだなんて芸当は絶対に不可能なのだ。
「ああ、上手くいって良かった。初めてだったから少し不安はあったんだが。まあ、なんとかなるものだな」
「は、初めて?!」
「さっきから何を驚いているんだ?魔力のコントロールならミアだって凄いじゃないか。それにクレアとルナの二人を知っているだろう?あの二人が思い付きで色々試しているのを見ていて俺もそれを真似してみようと思ったんだ」
「そ、そう……真似、はは……」
魔物堕ちする原因には諸説あるが、魔物堕ちはあくまでも体内を流れる魔物の血が人間の魂を汚し尽くし暴走した結果だ。
天界から見ていたレイヴンの魔物堕ちは正に異常。通常どんなに力が膨れ上がっても限界はあるものだが、あの時のレイヴンには限界など無かった。
際限無く膨れ上がる力にされるがまま暴走したレイヴンが世界を滅ぼすのを何度も見て来たミアでさえ、あまりの次元の違いに恐怖したのを覚えている。
レイヴンの魔物堕ちの力を抑える為の様々な要素が揃っていてアレなのだから、レイヴンが無事に人間に戻れたのは奇跡以上の幸運も味方したに違いない。
しかも、今のレイヴンはそれすらも軽く上回る途方もない力を内包している。そんな出鱈目で巨大な力を持ちながら竜人族最強のリヴェリアと同じ次元で制御し、尚且つ混ざり合った二つの魔力を別々に操れるだなんて異常だ。簡単そうに言っているのだって、そんな事は竜人はおろか、神や悪魔にだって出来やしない。
今見せた魔力のコントロールだけでレイヴンが如何に規格外な存在なのかが分かるというものだ。
(驚いたわ。リヴェリアからレイヴンの成長についてはいくらか聞いていたけれど、それにしたってこんなに急激に成長するものなの?
……いいえ、違うわね。今の姿こそが神々や悪魔達が恐れていた姿なんだわ)
禁断の子供。神と悪魔の混血という事だけで、世界の平穏を天秤にかけてまでの戦争は起きなかったというリヴェリアの考えにはミアも賛同している。
魔剣「魔神喰い」がそうであったように、聖と魔は激しい拒絶反応を引き起こす。
産まれてくる赤子が彼等にとって汚点であったとしても、放っておいてもそう長くは生きられなかったであろう事くらい分かっていた筈なのだ。
しかし、彼等はレイヴンの誕生を無視出来なかった。
とすれば、やはり原因はシェリルの持っていた『願いの力』だ。
世界の管理者達は神とは言え末席にあたるシェリルでは本来の力を引き出せないと判断し、放っておいた。けれど、その子供が同じとは限らない。そういう判断だろう。
万が一にも生き延びて世界の理すら書き換える願いの力を制御してしまう事があれば、世界の仕組みを根底から壊されかねない。そういう可能性を恐れたと見て間違い無い。
産まれる命に罪は無くとも、受け継がれた力が正しく使われる保証など無いのだから。
(でもその心配は無さそうよね)
以前リヴェリアが、『世界の特異点』という言葉でレイヴンを言い表した事があったが、その通りだと思う。
そう、レイヴンという存在は理屈では無い。
神と悪魔。相容れない二つの種族の血を引きながら、人間として成立しているだけでもあり得ないのに、そんなレイヴンが誰よりも人間らしく生きることを望んでいるのだから本当に面白い。
誰よりも大きな力を持ちながら、人並みの小さな幸せを願う者。
幾千幾万の魔物を打倒することよりも、野に咲く一輪の花に心を傾ける者。
レイヴンはいつだって、ありふれたささやかな景色を求めて歩いて来た。
「本当に不思議な人。リヴェリアがあんなに拘ったのも頷けるわね。ちょっと妬いちゃうかも」
「どういう意味だ?」
「そうねぇ……」
姉であるミアから見てもリヴェリアは自由を絵に描いたような奔放な人間だ。
そんな彼女が竜人族の掟に縛られるのを嫌って地上へ降りたのも自然な事だったのだろう。
シェリル達と出会い、他人と協調することを覚えたリヴェリアが不幸な体験をした後、滅びの運命にあるレイヴンを救う為に再び天界へ戻って来た時の変わり様は、活発でお天馬なリヴェリアをよく知る者達から言葉を奪った。
天真爛漫だった頃の面影はなりを潜め、決意と狂気の宿った金色の瞳は、同じ竜人ですら見通せない程、遥か先を見据えていたからだ。
そして全ての始まりとなる禁忌を口にした。リヴェリアを溺愛して止まなかったダンが初めて強い拒絶を口にした日だ。
無謀としか思えない時間の巻き戻しを、たった一人の少年を救うためだけに懇願して来てのだから無理もない。
あれ程までに怒りと困惑に顔を歪めたダンを見たのはミアの知る限りあの一度きりだ。
リヴェリアらしくない行動と言葉の数々に多くの同胞達が目を逸らし耳を閉ざした。
それでもリヴェリアは一歩も引かず、決して諦めなかった。
来る日も来る日もダンを説得し続け、思いの丈を荒々しい言葉のままに訴え続けた。
今思えばあれも全て自由を求めての事だったのではないだろうかとミアは想う。
親友であったシェリルの忘れ形見を正しく導く事で、もう一度真の自由を取り戻そうとしていた気がするのだ。
そして、全ての願いは繋がった。
レイヴンはリヴェリアの願いすらも叶え、ミアの大好きなリヴェリアを取り戻してくれた。自由を取り戻し、もう一度天真爛漫な笑顔を見せてくれた。
こんなに嬉しいことは無い。
「ううん、やっぱり何でもないわ」
「おかしな奴だな。言いたいことがあるならはっきり言った方が良いぞ?俺もよくその事でリアーナに怒られるんだ」
そう言い放ったレイヴンの顔は真剣で、母親に怒られるのを怖がる幼い少年のように見えた。
ミアは呆れを通り越して笑いが込み上げてくるのを必死に堪える。
リヴェリアやマクスヴェルト以外にこんなに楽しい気持ちにさせてくれるだなんて久しくなかったことだ。
(お爺ちゃんに我儘を言って直接迎えに来た甲斐があったわね)
ミアは荒くなった呼吸を整え、もう一度羽を広げた。
「じゃあ、今度こそ行きましょうか。皆んなレイヴンに会いたがっているわ」