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最強の冒険者と呼ばれた俺が最高の冒険者を目指した訳

 

 レイヴンが眠っていた三年の間、リヴェリアは中央から離れる事が出来ずにいた。

 シェリル達との約束も大事だが、結末を見届けない事には安心して旅に出掛ける事も出来無い。


 シェリルとステラは皇帝ロズヴィックが戻った後の手伝い、カレンはライオネット達を連れて各地のダンジョンをもう一度巡って危険度の調査、マクスヴェルトはセスやマリエといった新米冒険者への指導に熱を上げている。


「お嬢、もう直ぐ半年になります。本当に来るんでしょうか?」


「どうかしら、あの性格を考えるとそのままって事も十分にあり得ると思うし。私はそれならそれで良いと思うのだけど……」


 ユキノとフィオナがリヴェリアの髪を結いながら話している最中、当のリヴェリアは一通の手紙を見てほくそ笑んでいた。


「私もそれならそれで構わないと思っている。だが、冒険者という物の在り方が変わった以上、これ迄とは違う意味と目的でレイヴンの力が必要になると私は考えている」


「ですが、レイヴンはもう……」


 世界の理を書き換え、自らの魔物堕ちすらも克服したレイヴンは念願の日常を手に入れた。

 それを今更冒険者として働かせようというのは酷な話だ。

 自由に暮らすレイヴンをそっとしておいた方が良いのではないだろうか。


 しかし、リヴェリアの考えは二人とは異なる様だった。


「レイヴンがSSランクへの昇格試験を受けたいと打診して来た時、お前達はどう思った?私は正直に嬉しと思った。自分が生きて行く事以外に関心を示さなかったレイヴンが新米冒険者達との依頼を見事にこなして、自ら手本になろうとした。私はこれまでの一件でのレイヴンの心の変化を非常に重要な事だと見ている」


「確かにあれには驚きましたね」


「でも、レイヴンらしく無いと言うか……」


「フィオナ、“らしい” というのはこちらの勝手な思い込みだ。あてにはならないものだ。さて、そろそろ準備をしよう。クレアとルナに中央に戻る様に伝えてくれないか。三日以内に帰還する様にとな」


「それって、まさか……」


 リヴェリアは手紙と愛剣レーヴァテインを手に立ち上がると、王城へ行くと言って書斎を後にした。



 ーーー三日後。



 闘技場を一望出来るテラスの上に金色の美しい髪を靡かせた竜王リヴェリアの姿があった。

 背後にはシェリル、ステラ、ユキノ、フィオナの姿が、客席にはレイヴンに縁の深い面々が揃っている。その中にはリアーナ、ミーシャ、そしてどういう訳か傷だらけのランスロットの姿もある。


 この闘技場はレイヴンの昇格試験の際にリヴェリアとの戦闘で半壊した建物を新たに改修した物だ。

 冒険者制度を改めるにあたって、誰でも挑戦出来る代わりに厳正な審査が行われる様になった。これは今まで以上に冒険者の質が求められる状況になった事と、冒険者の安全の為でもある。


「皆、よく集まってくれた。もう察しはついている事だと思うが、この場を用意したのは最高位冒険者の証に挑戦しようとする者が現れたからだ」


 リヴェリアが告げた最高位冒険者の言葉に、闘技場を埋め尽くす冒険者と住民達に騒めきが起きた。中には驚きのあまり立ち上がる者の姿まである。

 彼等が驚くのも無理は無い。過去、中央において王家直轄冒険者の称号を持っていた剣聖リヴェリアと賢者マクスヴェルトは最高位冒険者になる事を望む声が多くあったにも関わらず自ら辞退し、魔人レイヴンは冒険者ですら無いままの状態で中央には一度も姿を見せていない。

 当然、他の国からも我こそはと名乗りを上げる者もいたが、各国の代表者による裁定と試験官を務めたリヴェリアによって尽く退けられている。それ故、圧倒的な個の力に突出した三名の居なくなった最高位は三年間空席となっていたのだ。


「今回、最高位冒険者に挑むのは二名。もうその名を聞いた事のある者も、二人に依頼をした者も多くいる事だろう。……そうだ、冒険者クレアとルナの二人だ。彼女等の実力は今や誰もが認めるものである。最高位を与える昇格試験の有無に関わらず、私を含め各国の代表者達に、その称号を与えるのも吝かではないと思わせる程にだ」


 クレアとルナは各地を転々としながら難しい依頼も難なくこなしてしまう腕利きの冒険者として名を馳せていた。

 たった二人のパーティーで並居る熟練の冒険者パーティーが手も足も出ない様な強大な力を持つ魔物すら仕留めてしまう。それもまだ年端のいかない少女二人組というのだから、立ち所に二人の名は世界に知れ渡る事となった。


「だが、その二人が最高位の称号を得る事に異を唱える者がいる。その者は先日、駆け出しの最低ランクの新米冒険者として登録を済ませたばかりだ。本来なら最高位への昇格試験は私が自ら試験官を行うべき所だが、今回はその者に試験官を任せようと思う」


 闘技場を埋め尽くすどよめきは、やがて不満の声を含んだ怒号へと一瞬で変化した。

 クレアとルナの実力は疑い様が無く、昇格試験の厳正さは怒号を上げている彼等もよく知る事だ。

 始まったばかりの冒険者制度。その最高位に就く者が自国から出る事は誇らしい。けれども、その試験官を務める者が最低ランクの冒険者というのは、いくらリヴェリアが認めたとしても納得のいかない事だ。


 リヴェリアはそんな声には耳を貸さず、クレアとルナを闘技場へ入らせた。


「うわあ……僕こういうの何だか見せ物みたいで苦手なんだけど……」


「最高位冒険者だなんて聞いて無いよ……。ルナちゃん知ってた?」


「ううん、全然。相手はリヴェリアだよ?何考えてるのかなんて分かる訳無いじゃん」


 怒号と声援の入り混じる異様な雰囲気の中で困惑する二人を見た観衆達の反応は様々だ。


 二人の事を実際に見た事の無い者達は、どう見ても十五、六歳くらいにしか見えない少女の姿をしている事に驚き。よく知っている者も、二人の反応からリヴェリアがまた何か仕組んだなと勘付く者もいた。だがしかし、その意図については誰も想像がつかないでいた。


 リヴェリアは手を掲げて観衆を黙らせると、立ち上がってテラスの先端へと歩み出た。


「冒険者に必要な才能という物はいくつかある。では、その大事な物とは何だ?技術か?経験か?仲間を大切に想う心か?……どれも欠けてはならない大事な事だ。しかし、現在冒険者を名乗る者も、これから目指そうとする者にも、そうでない者にも是非胸に刻んで置いて欲しい言葉がある」


 “生きようとする意思は何よりも強い”


「これは、私が心から認める一人の冒険者が口にし、体現して来た事だ。どんな状況に陥っても足掻く事を諦めてはならない。その先にこそ未来という名の道が開けるからだ。今日、二人の試験官を務めるその冒険者は、自ら最低ランクへの登録を申し出た。紹介しよう」


 ーーーパチン!


 何処かで指の鳴る音がして、闘技場に一人の青年が姿を現した。


 ボサボサの白髪に赤い目。

 無愛想な表情と、腰には不気味な装飾の黒い剣が下げられている。


「「レイヴン!!!」」


 クレアとルナが驚きの声を上げたのと同時に闘技場全体も大きな騒めきに包まれた。

 最強の魔人レイヴンは実質、冒険者を引退したものと誰もが思っていたし、事情を知る者とて、まさかこの場にレイヴンが二度と現れるとは思っていなかったのだ。


「レイヴン、始める前に何か言いたい事があるか?」


 レイヴンは闘技場全体を見渡した後、静かに口を開いた。

 観衆達も何が語られるのかと耳を澄ませている。


「俺は戦う事が好きじゃ無い。冒険者は生きる為に仕方なくやっていた事だ。俺の事を最強の冒険者と呼ぶ者もいたが、生憎そんな物には興味が無い。そんな事はどうでも良いんだ」


 世界で唯一、最強である事に誰も異論を挟まない存在が最強には興味が無いと言う。

 そんなレイヴンが最強の称号以外に欲する物がある。


「しかし、そんな力が何かの役に立つのなら、欲しいモノがある。もう一度冒険者として登録したのも、それを手に入れる為だ。起きろ、ミストルテイン」


 ーーードクン!!!


 レイヴンは魔剣ミストルテインを発動させて漆黒の鎧を纏った。

 赤く脈動する血管の様な模様に、白く美しい四枚の翼。

 黒い剣を纏う赤い魔力は間違い無くレイヴンが本気である事を分らせてくれる。


 闘技場を覆う結界がミシリと異音を響かせると観衆達から少なくない悲鳴が上がった。


「レイヴン……」


「全然訳が分からないんだけど、本気……だよね?」


 二人は直様戦闘態勢を整えてレイヴンと向かい合った。


 万全の状態の、それも本気のレイヴンと向き合っているだけで冷や汗が流れる。暴走していた時とは全く異なる異次元の圧力をひしひしと感じる。


「どうやら、道が見えた様だな」


 セス達やキッドの様なこれから冒険者として生きようとする若い世代に、レイヴンが伝えられる事はそれ程多くは無いかもしれない。

 彼等が憧れる冒険者になる為には力だけでは駄目だ。これまで気にする余裕も無かった多くの事を、レイヴン自身も学んで行く必要がある。

 今はまだ最初の一歩を踏み出したに過ぎないが、クレアとルナにはこうあって欲しいと願う気持ちを伝える事は出来ると思うのだ。


 そしてその遥か先、どんなに時間がかかったとしても、最強の冒険者と呼ばれるよりも、出来れば誰もが認める最高の冒険者だと呼ばれる存在でありたいと願う。


 だからこそ、もう一度最初から始めるのだ。

 やり直しでは無く、未来を掴み続ける為に冒険者でありたい。


「ああ。俺は長く喋るのがあまり得意では無いのでな。此処から先、伝えたい事はこの剣で語らせて貰う事にする」


 最低ランクの最強の冒険者が今や最高ランクに手をかけた冒険者の試験官をする稀有な光景。しかしもう、誰も異論を挟む者などいない。


「では、これより最高位冒険者への昇格試験を開始する!全力で構わないぞ。結界はマクスヴェルトが管理しているからな。……両者とも準備は良いな?」


「「勿論!!!」」


 魔剣エターナルを発動させたクレアと翡翠を召喚したルナは気合十分といった様子で開始の合図を待った。

 レイヴンに伝えたい事があるのと同じく、二人にもレイヴンに言いたい事が山の様にある。


「ああ、問題無い」


 リヴェリアは両者の魔力が極限にまで高まったのを確認して開始の合図を告げた。


「それでは、始めッ!!!」


 最強の冒険者と呼ばれたレイヴンの、最高の冒険者を目指す新たな戦いが今、始まった。



これにて『最強の冒険者と呼ばれた俺が最高の冒険者を目指した訳』完結となります。

此処までお付き合い頂き本当にありがとうございます。

処女作でいきなり三百話という無茶が出来たのも、日々読んで下さる読者の皆様のおかげであると強く感じております。


改稿作業、修正、加筆作業なども追々ではありますが、進めて行きます。

また、この世界観を元にした新作も構想していますので、そちらでも応援して頂ければ幸いです。


本当にありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 非常にテンポがよくて読みやすい! レイブンのぎこちなさがこっちに良く伝わってくるのが凄い! あと、レイブンが少しずつ成長していくのも丁寧に描かれていて、とても良かった。 [気になる点] こ…
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