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フロア探索

 未発見のフロアに足を踏み入れたレイヴンは、早速魔物を狩り始める事にした。


 カオスゴーレムは上級に位置する魔物だが、レイヴンに言わせればただの土と石ころの塊だ。


 様子を伺っていた十体のカオスゴーレムが元の土塊に戻るのに要した時間は僅か数秒。

 フロアに飛び込むと同時に半数を斬り伏せ、着地と同時に残りの半数を斬って終わりだ。


 ほぼ同時に崩れ落ちたカオスゴーレムの残骸を盾代わりにして通路の奥の様子を伺う。

 

(他にはいないのか? 特に大きな気配はないようだな。これで終わりとは思えないが……)


 とある依頼で手に入れた黒剣『魔神喰い』は持ち主の魔力を餌にして切れ味を増す。所謂、魔剣という奴だ。

 説明が酷く簡潔なのはレイヴンが武器という物にはあまり興味が無いのと、魔神喰いについて殆ど何も記述が残されていないからだ。


 名工による一流の武器だろうが、武器屋の隅で投げ売りされている安い武器だろうが、レイヴンが使う武器はレイヴンの常人離れした膂力に耐える事が出来ずにたった一度の討伐依頼で折れてしまう。

 だが、この魔剣を組合の鑑定士に見せた時、『持ち主を選ぶ魔剣』だと聞いて興味が湧いた。


 そんな武器もあるのだと初めて知ったレイヴンは、“魔物混じりでも扱えるのだろうか?” その程度の理由で使ってみようと思った。


 最初は扱いに苦労した。何せ触れているだけで魔力を喰うのだ。

 なかなか厄介な剣だと思ったが、それでもレイヴンはこの魔剣を気に入っていた。

 魔剣とはこういう物なのかと思っていたし、折れず曲がらず、何を斬っても刃こぼれする事も無い。魔力を込めれば斬れ味が増すのが良かった。何より新しい剣を買わなくて済むのが良い。金を稼ぎたいレイヴンにとって最高の武器という訳だ。


 いくつかの依頼をこなした後、ある異変に気付いた。

 最初はただの黒い剣だった魔剣に赤い血管の様な模様が浮かび上がっていたのだ。その模様はどうやら使用者の魔力に反応しているらしい。いつもより魔力を込める量を増やすと心臓の鼓動に似た音と共に模様が脈打ち始めた。


 レイヴンは直感した。

 この剣は『腹を空かせている』


 その事に気付いたレイヴンは、今まで魔剣を壊すまいと思って抑えていた魔力の制御を止めた。

 腹一杯になった魔剣の力を試してやろうと思ったのだ。

 結果は上々。

 魔剣は以前にも増して斬れ味を増し、帯剣している間でも勝手に魔力を喰う事も無くなった。 試しに他の者に剣を握らせてみたら、魔力をごっそり喰われて気絶していたので間違い無いだろう。

 それが正しかったかは分からないが、どうやらこの時初めて魔剣に主として認められたらしい。


「さて、宝を探しに行くか」


 この辺りのダンジョンは何処も創りが簡素な傾向がある。なら今までのフロアと同じ様な構造になっていると思われる。ただし、強力な魔物が潜んでいる可能性は捨て切れない。念の為に慎重に進むとしよう。


 慎重と言えば、ランスロットは意外に慎重な男だ。奴の提案は正しいと思う。だが、調査隊を先に入れてしまっては貴重なアイテム類や金目の宝が全て中央組合に回収されてしまう。それでは金にならない。


(調査隊に横取りされては困るからな)


 魔物の心臓部にあたる魔核は数ある素材の中で最も金になる部位だ。

 魔核が生み出す魔力を流用して、街などで使われるあらゆる動力源として活用される。魔物のランクによって魔核の大きさや生み出す魔力の量も異なるので、弱い魔物の魔核をいくら集めても大した金にはならない。


 道中、ようやく遭遇した魔物はゴーレムばかりだった。気配を感じなかったのは体が殆ど土と岩で構成されているのが理由のようだ。


(なるほど。動き出す前はただの土塊。侵入者が近付くまでは周囲の環境と魔力に同化して眠っているのか)


 カオスゴーレムの場合は、素材そのものが魔力を帯びて動いている為に魔核が存在しない。つまり、カオスゴーレムをいくら倒そうが金にはならないのだ。


 宝箱はいくつか見つけたものの、大半が下級の武具だった。

 唯一マシな宝はオリハルコン製の武具くらいしかない。


「このフロアにはカオスゴーレムしかいないのか? 宝箱もオリハルコンの武具が一式あっただけ。ハズレだな……」


 落胆したレイヴンは、せめてフロアボスを見つけておこうかと歩き出した。

 そもそも、どうしてダンジョンの中に宝箱があるのか、鎧や剣は誰が用意しているのか。そういう物だと思えばそれだけの事なのだが、どうせならもっとマシな物を入れておいて欲しい。


(粗方倒したな。これ以上は意味が……)


 やはりこのフロアにはカオスゴーレムしかいない様だ。これではボスも期待出来そうに無い。

 そう思っていた矢先、前方に何者かの気配を感じた。


 レイヴンは常に気配を消しているので、相手には存在がバレていない筈だ。


(人間か?ここは未発見のフロアだと思ったが、別の入り口があったのか)


 聞き耳を立て相手の様子を観察する。


 冒険者なら問題は無い。しかし、それ以外の存在であった場合は面倒だ。

 例えば悪魔。滅多に遭遇する事は無いものの、奴らは魔物よりも遥かに厄介な存在だ。狡猾で残忍。人間を奴隷くらいにしか思っていない。


 レイヴンは悪魔と相性が悪い。

 単純な戦闘力なら負ける事は無いのだが、体に流れる魔物の血が悪魔の放つ魔に “共鳴” を起こしてしまう。


 初めて共鳴を起こした時、レイヴンはダンジョンを崩壊させるまで暴れていたそうだ。

 そうだ、というのは、ダンジョンの入り口で倒れているところを中央組合の連中に助けられるまでの記憶が無い為だ。

 他の魔物混じりにも同じ現象が起きた事があるらしいが、レイヴンの場合は特に酷い。


(人数は三人か? 何か話しているみたいだな。ここからではよく聞こえない。もう少し近付いてみるか……)


 岩の陰をつたって話し声が聞き取れる距離まで近付いた。


 どうやら、普通の人間の様だ。しかし、三人の身なりは冒険者には見えない。

 軽装鎧を着た長身の男、黒いローブを着た女、ずんぐりとした体型の背の低い男。

 三人とも街では見た事の無い顔だ。


「あんたがちゃんと見張っていないからでしょ!」


「俺のせいにするな! お前こそちゃんと見張っていなかっただろうが!」


「よしなよ二人共! こんな所で言い争っても仕方ないだろ! 兎に角、もう一度探してみよう」



(仲間割れ?)


 先客がいたとなると、いよいよ探索する意味は無い。

 未発見のフロアでは無かった以上、長居は無用だ。


(仕方ない。街へ戻る前にフロアボスの顔でも拝んでおくか)

 

 討伐可能なら素材の一つでも持って帰れば少しは足しになる。

 方針を決めたレイヴンは三人の前を横切って奥へ進む事にした。


 レイヴンに気付いた三人が驚いた顔でジロジロと見てくる。

 こういう視線には最早慣れたとは言え、やはり鬱陶しい。


「ちょ、ちょっとそこのあんた! 一体何処から入って来たのよ⁈ 」


「此処には俺達しかいない筈だぞ?」


(やれやれ、放っておいてくれれば良いものを……)


レイヴンは視線を合わせる事もせずに通り過ぎ様に言った。


「穴からだ。じゃあな」


「あ、穴ぁ〜?」


「穴って何だ?」


「さあ……?」


(これ以上、相手をするのは面倒だ。さっさとボス部屋を探して街へ戻ろう……)


 再び歩き出したレイヴンはふと閃いた。未発見フロアでは無いのならボス部屋の場所を三人が知っているかもしれない。

 そう思って振り返ってはみたものの、話しかけるのは面倒だし、苦手だ。


(……やはり自分で探そう)


 再び歩き出そうとした時、背の低い男が良い事を言った。


「おい、あんた! その先はボス部屋だぞ! 一人でどうしようっていうんだ!」


「馬鹿! ほっとけよ! あいつの目を見たか?魔物混じり、禁忌の子だ。どうなろうと俺達には関係無いって!」


「ちょっと待ちなよ。一人で此処まで来たって事は腕は立つ筈よね。あの男に着いて行けばボスを倒してお宝を拝めるかもしれないねぇ」


「おいおい、お前まで何言い出すんだ? 正気かよ⁈ 」


「行くだけ行ってみて、倒せそうなら加勢すれば良いさ。でなきゃ見捨てれば良い」


 そういう話ならもう少し小声で話せば良いと思う。


(成る程。ボス部屋はこの先か)


 ボス部屋に向かう道中も後ろから三人の話し声がひっきりなしに聞こえていた。


 奴らが冒険者であれば絶対にそんな事はしない。

 無闇に音を響かせるのは魔物を引き寄せるだけだ。


 通路を進んで行くと巨大な扉が現れた。

 ダンジョンのボス部屋に扉があるのは珍しい。これはもしかしたら意外にも大物の予感がする。


 扉の前に立つと、頑丈そうな扉が自動的に開いていった。


「なんだ、ケルベロスか……」


 待ち構えていたのは地獄の番犬、或いは門番とも言われるケルベロスの亜種だった。

 通常のケルベロスを遥かに上回る巨体。異常に発達した牙や爪が獰猛さを伺わせる。


「む、無理だ……! ありゃ、レイドランクの魔物だ! 俺達全員で戦っても勝てない!」


「アテが外れたね。あんた達、撤退するよ」


「おい、ちょっと待て! まさか……あの魔物混じり、戦う気だぞ!」


「はあ? 勝てるかどうかも分からない奴なんかほっときなよ!」


 三人がケルベロスを刺激しない様にゆっくりと後退していく中、レイヴンは黒剣を抜き魔力を込めていく。


 確かにあのケルベロスはSランク以上の冒険者による複数パーティーでの討伐が望ましい。

 だが、そんな事はレイヴンには関係無い。もっと強い魔物と嫌という程戦って来た。それに、この程度の魔物ならランスロット一人でも多分倒せる。無論、フル装備でならだ。


 Aランク冒険者とSランク冒険者の間に大きな実力の差があるように、Sランク冒険者とSSランク冒険者との間にも常人では超えられ無い高い壁がある。

 だが、どちらもレイヴンにはどうでも良い事だ。


「起きろ。さあ、もう一仕事だ」


ーーードクン!



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