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あの時の続きから始めよう

 意外というか、モーガンの言葉はパラダイムに住む者達の心を動かすには十分だった。

 詳しい事情を知らない者達にとって、冒険者レイヴンは王家直轄冒険者の肩書きと、それに見合う超常の力を持った雲の上の存在だ。

 モーガンはそんなレイヴンの事を最強の冒険者でも、最強の魔人でも無い。

 一人の“友人” と呼んだ。

 身近な存在として手を差し伸べる事、仲間達と協力し合い、互いを守る事を覚えたパラダイムの住人にとって、レイヴンは恩人であり、仲間だ。

 かつてない危機を迎えた仲間を救うのに、友人以上の理由など不用なのだ。


 それを横からランスロットが宴会などと言ってしまうものだから、酒好きなドワーフ達もすっかりその気になって変な盛り上がり方をしている。賑やかなのが好きなリアム達も同じだ。


「ランスロットの馬鹿!何勝手に盛り上がっちゃってるんだよ!」


「ま、まあ…ランスロットさんらしくて好きですけどね……」


 士気が上がったのは良いが、これから待ち受ける暴走したレイヴンとの接敵した時の恐怖による落差が心配になる。


「あはははは!まあ良いではないか。ランスロットなりに緊張をほぐそうとしたのだろう」


「ほぐしちゃ駄目でしょ……これからが本番だっていうのに」


「でも、おかげで私も少し気持ちがほぐれたよ?」


「クレアは甘過ぎ!ランスロットはーーー」


 実際の所、緊張していたのはランスロットも同じだ。


 レイヴンなら絶対に約束を守る。

 分かってはいても不安なのだ。


『我が主……』


「ああ。分かっている」


 リヴェリアの魔力が膨れ上がると白く美しい鎧姿となった。


「二人共、そこまでだ。先ずは私が相手をする。お前達は下がっているのだ」


「え?でも、まだレイヴンは……」


「もう来ている」


 レーヴァテインを構えたリヴェリアは純白の羽を広げて、未だ何も見えない西の平野に向かって飛び出して行った。


 突き出した剣が何か硬い物とぶつかる衝撃と、それを受け止めたリヴェリアの足元が大きく抉れる様に陥没したのを合図に最後の戦闘が始まった。


 警鐘が鳴り響き、マクスヴェルト達も一斉に戦闘準備に入った。

 予想していたよりもレイヴンの到着が早い。その上、近づいて来る気配を全く感知出来なかった。


「カレン!」


「もうやっているわ!最大限の加護を与えてある!ランスロット!後で動けなくなっても文句を言うなよ!」


「へへっ!上等!」


「ライオネットとガハルドはリアーナの護衛を!」


「任せろ!」


「心得ていますよ!」


 ぶつかり合う二人から放たれる衝撃は結界越しでもビリビリと伝わって来る。

 なのに今のレイヴンは魔物堕ちして凶暴極まりない魔力を放つどころか、全く魔力を感じさせ無い。これは本来の力を解放したリヴェリアと同じ状態にあると予想される。


「マクスヴェルトもルナもいたのに全く感知出来ないなんて……」


「魔物堕ちの状態は変わって無いのにどうして⁈ 」


 ずば抜けた感知能力を持つ二人がリヴェリアが動き出すのを見るまで何も感じられなかった。マクスヴェルト達が作戦準備をしている僅かな時間で、何か予想外の異常事態が起こっている。


「……そうか、強くなってるんだ。魔物堕ちした状況で自我を保つ唯一の方法は、自分の意思で魔の力を超える事だ。レイヴンは僕達と戦っている最中も成長を続けていたとしか考えられないよ!」


「「「なっ……⁉︎⁉︎ 」」」


 マクスヴェルトの言葉を聞いた全員、何の冗談だという思いが頭を過った。

 レイヴンが力を増し続けていたのは体内で魔物堕ちの症状が進行していたからだと、レイヴン本人も認めていた。であれば、魔物堕ちした状態が最も強い状態であると言える。

 ところが、この場に現れたレイヴンは魔物堕ちしたままでありながら、自身から溢れる魔力を完全に気配ごと消し去っている。

 魔剣の方に意識を集中していても尚、予想を遥かに上回る速度で成長を遂げているなど誰が想像出来ただろうか。


 いや、一人だけいる。

 ここまでの状況を一人で描いてみせた挙句に、レイヴンの襲来に逸早く対応してみせた人物が。


「相変わらず重たい剣だ」


「リヴェリアか……!」


「驚いた。もうそこまで話せる様になっていたか。私の予想よりもずっと早い。全く、どんな状況になっても出鱈目な奴だな……」


 レイヴンの方は力を押さえ込むのに必死だというのに、対峙したリヴェリアはどこかこの状況を楽しんでいる様に見える。


「……会話だけだ。魔剣が自我を取り戻すのに思いの外、時間がかかっている。まだ体の自由が効かないんだ」


「ふむ……」


 リヴェリアは平静を装ってはいたが、ただこうしているだけでとんでも無く体力を消耗していく事態に焦っていた。


 魔神喰いと斬り結ぶレーヴァテインから感じるこれまでとは違う圧力。強烈な暴力の塊の様な魔力は、レイヴンと魔剣の間で循環する様に流れているのが分かる。

 レイヴンの力が格段に増しているのは魔物堕ちだけが原因では無い様だ。

 こんな状況下で成長を続けているとは本当に呆れてしまう。しかし、そうであったからこそ魔物堕ちをここまで抑え込み、且つ魔剣の制御を同時に行うなどという離れ業が可能となっている。


「成る程。その様子ではまだ視界もぼやけている様だな」


「俺の視界は、だ。悪いが強引にでも何でも俺を止めてくれ」


 リヴェリアはレイヴンの様子を観察しながら、次の一手に考えを巡らせていた。


 このままレイヴンと戦闘を続けるのも良いが、自由に動けないレイヴンと戦っても面白く無い。かと言って、いきなりクレアとルナを加えて戦うのもつまらない。


「ふざけるな。お前の余興に付き合っていられるか」


「ん?」


「丸聞こえだ……」


「あはははは!すまんすまん。お前との決着がまだだったなと思っていたら、つい」


 リヴェリアは悪い癖が出てしまったと苦笑いを浮かべた。


「ふざけた奴だ……」


 レイヴンがそうであった様に、リヴェリアとまともに剣を交わせる相手は少ない。

 今までにリヴェリアを満足させた相手はたったの四人だけ。


 最初に出会ったのはシェリル。

 地上に降りて来て初めて自分と剣を交わす事の出来る相手と出会った。力では無い技術で圧倒的な才能を見せた。

 次に出会ったのが、アイザックとアラストル。

 二人は本当に強かった。シェリルの様な繊細な技は持ち合わせていなかったが、力だけで押し負けたのはあの二人が初めてだった。

 そして、レイヴンとの出会いだ。

 シェリルとアイザックの血を引くレイヴンの実力は異常だった。冒険者として実力を伸ばして行く様子を見守る内にあっという間に追い越されてしまった。


「覚えているか?お前が最初に暴走した魔剣に体の自由を奪われたのもこの街だった」


「……」


 あの時のレイヴンは既に異常な強さを手に入れていた。しかし、それでもリヴェリアの方が一枚か二枚は上手を行っていた。


「次に剣を交えたのは中央での昇格試験の時だ」


 試験会場に現れたレイヴンはあの時のリヴェリアと同等の強さを持っていた。それも苦手な剣を使っての状態でだ。素手で向かって来られていたら、正直どうなっていたか分からない。


「さっきから何だ⁈ 俺はそんな話をしている場合じゃ無い。さっさとしてくれ」


 リヴェリアは剣圧でレイヴンを後方へ弾き飛ばして距離を取った。


 レーヴァテインを鞘に納めて重心を落とす。深く静かに呼吸を繰り返すリヴェリアの目は色を失った様に冷たい光を放ち、一点を見つめて微動だにしない。まるで別人の様な気配を纏っている。


 剣先に魔力を集中させて行くにつれて周囲の空気が凍り付く様に冷え込んでいった。それはやがて冷気を帯びた霧を発生させた。


「仕切り直しだ。あの時の続きから始めよう」


「正気か?俺は……!」


 リヴェリアの放つ針を刺す様な気配に反応したのか、レイヴンの体は意思に反してリヴェリアと同じ構えをとった。


「お前の本能は乗り気らしいな」


「チッ……!」



 城壁の上からその様子を見ていたマクスヴェルトは背筋に寒気が走るのを感じて叫んだ。


「全員防御態勢!!!衝撃に備えて!シェリル、ステラ!カレンの支援を!」


 レイヴンが放つ剣気一閃を防ぐだけで手一杯だったのに、昇格試験の再現をするなんて馬鹿げているとしか思えない。


「ええ⁈ 」


「結界はどうするのよ⁈ 」


「こうするのさ」


 マクスヴェルトは指を鳴らして魔法を発動させると、街を覆う結界を丸ごと空間魔法へと変質させた。


「いつの間にこんな魔法を⁈ 」


「ルナと翡翠がやってた空間魔法を解析して拝借したのさ」


 魔法を使える者はマクスヴェルトの異常性に言葉を失っていた。

 やはりマクスヴェルトもまたレイヴン、リヴェリアと並ぶ化け物だ。


 皆が息を飲んで見守る中、その時は訪れた。


 ニヤリと不敵な笑みを浮かべたリヴェリアの手元がブレて見えた瞬間に、レイヴンも同時に魔剣を抜き放った。


「「一閃ッ!!!」」



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