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世界よりも一人の友の為に。

 

 マクスヴェルトの魂が戻ったのを合図にアラストラルに叩き起こされたフローラが転移魔法を発動させた。

 転移目標は冒険者の街パラダイムだ。


 西に広がる平野に立つのはリヴェリアとルナ、クレアの三人。

 ミーシャは少し離れた後方からいつでもツバメちゃんの力を解放出来る様に構えている。

 城壁の上にはランスロット達と転移して来たマクスヴェルトの無事を喜ぶ皆の姿があった。


「心配させやがって……」


「あはは……悪かったよ。皆も言いたい事はあるだろうけど、それは全部終わってからだ」


「いや、それはよしとくぜ。お前がマクスヴェルトとして戻って来たんだったら、俺達はそれ以上お前に聞く事は無いからな。そうだろ?」


 ランスロットの提案は満場一致で受け入れられた。

 小難しい話も、マクスヴェルトという存在の謎もどうでも良い。


「君ってやっぱり良い奴だよね」


「けっ、何を言ってやがる。当然だ」


 仲間が無事に戻って来た。

 それ以上に重要な事など何も無い。



「あ、あの……私は一体どうすれば……」


 おずおずと落ち着かない様子で城壁の上にやって来たのはパラダイム冒険者組合長モーガンだ。リヴェリアの指示通り冒険者の手配と配置は既に済ませてある。


「先ずは状況を整理しましょう」


 レイヴンは間も無くこの地へとやって来る。

 魔剣が自身の闇を喰らい尽くす迄は、レイヴンは自分の意思では殆ど体の制御が出来ない状態になっている事が告げられた。


「カレンとランスロット達にはパラダイムの防衛を中心にやってもらう。これはレイヴンとリヴェリアの戦闘によって生じるであろう瘴気から発生する魔物への対処を行う為だ」


「それは構わないけど、はっきり言ってこの街の戦力だけでは心許無いわ」


 万を超える魔物の大群との戦闘経験がある者はそう多くは無い。そういう意味ではこの街を拠点として選んだリヴェリアの考えは理解出来る。しかし、この街の住人達は殆どが冒険者を生業としているが、最高でもSランク冒険者までしか駐留していない。

 レイヴンが生み出した魔物の強さを考えれば、求められるのは数よりも質だ。個人の能力や力が突出した者がこれだけ集まっていてもレイヴンの足止めだけで手一杯なのが現実だった。こうして全員が生きていられるのはレイヴンが力を抑えていたからに他ならないのだ。


「なら、俺も戦列に加わろう。かなり消耗してしまっているが、多少は役に立てる」


「いや、魔人アラストルの出番はここまでだよ。ここから先は、妖精王アルフレッドとして支援を頼みたい」


 世界中に張り巡らされた世界樹の根を使って発生する瘴気を浄化する。

 そうすれば魔物を生み出す元を少しでも断つ事が出来る。それが出来るのは妖精王だけだ。


「ふむ……良いだろう。なら、エレノアを借り受ける」


「私をですか?しかし、この街の防衛もあるというのに……」


 ただでさえ数少ない強者がこの場からいなくなるのは痛い。


「もうじき夜が来る。世界樹の根を使うには、妖精の森に発生する魔物の対処をする者が必要だ。数を減らさねば、この街だけに集中するのは難しい」


「なら、決まりだね。アラストル……じゃ無かった。妖精王アルフレッドと共に行くのはエレノアとフローラ、ユッカの三人だ。二人にはアルフレッドとエレノアの支援をお願いしたい。宜しく頼んだよ?」


「は、はい!マ、ママママ!マクスヴェルト様もお気をつけて!それでは早速行って参ります!」


「え、あの、フ、フローラ様⁈ 」


 フローラはマクスヴェルトの正体を知っても、相変わらず緊張が解けない様子だった。

 勢い良く返事をするなり、転移魔法を発動させた。


「マクスヴェルト、私とステラは?この街に結界を展開するにしても、私達まで戦闘に加わったらユキノとフィオナだけでは結界の強度が足りないわ」


「それなら気にしなくて良いよ。シェリルとステラは僕と一緒に結界の維持だ。戦闘範囲をこの地域一帯に絞り込む為の手も打ってある。ユキノとフィオナにはランスロット達とこの街の冒険者達の支援に回ってもらう」


「戦闘範囲を絞り込む?そんな事が出来るの?」


 暴走状態のレイヴンとリヴェリアがぶつかり合えば、その被害は全く予想がつかない。

 互いに全力で戦っていた訳では無い昇格試験の時でさえ、二人が交わした剣撃は凄まじく、地形を変えてしまう程の被害をもたらした。


「それは私から説明しよう」


 ゲイルが説明したのは、マクスヴェルトが展開していた大規模魔法『世界を隔てる壁』の発生源を移動させるという物だ。

 展開範囲を絞り込み、帝国側からも結界で覆う事でパラダイムを中心とした一体を世界から隔離する。そうすれば二人の戦闘の被害が世界中に及ぶ事は無いと考えた。


「現在、ギルとロイがルーファスの部下と共に結界に必要な石板の設置を行なっている。間も無く完了する筈だ」


「それだけじゃ無いよ。ドワーフ族とリアムの街にいる冒険者達にも応援をお願いしてある。魔物との戦闘に必要な戦力としては申し分無い」


「いつの間に……」


 戦闘範囲を絞り込む事に加えて、戦闘に必要な人員も物資も確保済み。

 一体いつからこの図を描いていたのか。

 マクスヴェルト達は平野でレイヴンの到着を待つリヴェリアへと視線を向けた。


「だけど、一つだけ問題が発生したんだよ……」


「世界を隔てる壁を維持する為の魔力が不足している件ですね?」


 ユキノが指摘した通り、世界を隔てる壁の維持には膨大な量の魔力を必要としている。

 今までは中央で増え過ぎた魔物や外の世界から近付いてきた魔物を結界が魔力に変換して吸収する事で半永久的で自動的な展開を可能としていた。


 レイヴンが世界から闇を喰らい尽くした影響で魔物の数が激減している。この状態では満足に結界の維持が出来ないという問題に直面していた。


「範囲を絞ったから以前ほどの魔力を必要とはしないんだけど……」


 ーーーそれは我等が請け合おう。


 天空から響いた声にマクスヴェルトは空を見上げて笑みを深くした。


「竜人族は中立じゃなかったのかい?」


 ーーー可愛い孫娘の願いであれば致し方あるまいよ。じゃが、我等が手出しするのはここまでじゃ。後は自分達で何とかせい。


「十分だ。ありがとう、助かるよ」


 ーーーふん。


 それきり天空からの声は途絶えた。


 元竜人族の長であるダンが地上の事情に口を挟むのは過去の大戦以来、実に数百年ぶりの事だ。


「まさか、あのダンが地上の事に力を貸すだなんて……」


「ふふふ。可愛い孫娘だなんて、案外本当にリヴェリアの事が心配だっただけなんじゃないかしら?」


「本当にそうかもしれないね。ダンはリヴェリアの事が可愛くて仕方が無いんだろうね。ま、これでどうにか準備は整った。じゃあ、最後に作戦司令官から皆んなに激励の挨拶でもしてもらおうかな」


「ま、マクスヴェルト様が指揮をとられるのでは……」


「何言ってるのさ。この街とこの街に住む冒険者達をここまでにしたのはモーガンじゃないか。ほら、丁度、ドワーフ達とリアム達が到着したみたいだ」


 モーガンは突然与えられた大役に顔面蒼白となっていた。

 城壁の下に集まる住民も他の城壁に上がって待機している冒険者達も真剣な表情でモーガンの言葉を待っている。


「さ、君のありのままの言葉で良いからさ」


 果たしてこんな大役を自分が言っても良いものだろうか。

 しくじれば全体の士気に関わる。


「モーガン!!!」


 城壁の外から聞こえた声の方を見ると、リヴェリアがモーガンの方を見ていた。

 その金色の目を見ていると不思議と力が湧いて来る。


 何を言う訳でも無く頷いたリヴェリアを見たモーガンは、深呼吸をして腹を括ると城壁から街を見渡して言った。


「聞け!かつてこの街は不正と腐敗にまみれた街だった。愚かな選択をした我等は魔物混じり達を嫌厭し、迫害して来た。だが!この街が魔物の大群に襲われた時、それを救ったのは一人の魔物混じりの冒険者だった。彼の名は“冒険者” レイヴン!彼は今、自身を蝕む魔と戦っている。これより始まる戦いは、街を襲った数万の魔物との戦いをも超える困難な物になるだろう。だがしかし、我等は黙って逃げ出す訳にはいかない!何故ならこの戦いは、かつてこの街を救ってくれた我等の“友人” を救う戦いであるからだッ!……これは依頼でも命令でも無い。どうか、友を救う為に諸君らの力を貸してくれないだろうか!」


 モーガンの言葉は果たして街の冒険者達に届いたのだろうか。

 街を包み込む静寂が永遠にも感じられる。


「やはり私の言葉では……」


「んな事無えよ。……友の為か、良いねえ。世界の為って言われるより分かり易くて良いぜ!」


「ええ、その通りね」


 世界がどうのと騒いでいる時間は終わった。

 今はただ、大切な友人の為に戦う時だ。


 よく分からない世界の為に命を賭けるよりも、大切な友人を救う為ならば命を賭ける理由としては上等だ。


 静寂の後、大地を揺らす程の足踏みとドワーフ達が打ち鳴らす武器の音が聞こえ始めた。

 それは大気を揺るがす程の振動となり、街にいる全員に広がっていった。

 冒険者だけでは無い。鍋を掲げて打ち鳴らす者、玩具の剣を叩いて音を鳴らす子供達まで様々だ。


「これは……」


「な?やっぱこの街の連中は面白い奴等ばっかだな。よっしゃあ!やるぜ野郎共ーーー!!!とっとと終わらせて、皆んなで朝まで宴会だぜ!!!」


「ちょ、ランスロット⁈ 」


「「「おおおおおおおおーーーーーーー!!!」」」


 勇ましく希望に満ちた歓声が世界に響き渡った。



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