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機械仕掛けの英雄

 

「え、あの⁈ フローラ様⁈ 説明を!」


 ユッカは説明もそこそこに、フローラの指示に従って見た事の無い装置をエレノアの体に取り付けていた。


「あー、そこはこっちの回路を使った方が良いわ」


「え、でも、それだと姿勢を保て無いんじゃあ……」


「変則的な動きには、ここの回路を迂回するより直で繋いだ方が反応速度が上がるのよ。レイヴンの動きを参考にしてる部分もあるから、バランスよりも少し尖った仕様の方が相性良いの」


「なるほど……」


 不気味に光る魔核から伸びる長い紐の様な物は、先程の不気味な魔鋼の塊にいくつも繋がっていて、見るからに怪しい格好になっている。


「あんた達が強いのは分かってるけど、レイヴンを相手に生身で戦っても、こっちが消耗するばかりだもの。そこで私は考えた訳よ」


「仕組みを考えたのは私ですけどね」


「ま、まあ!とにかく!使ってみてよ!」


 フローラはそう言うと聖剣デュランダルに触れて何かの魔法を発動させた。


『……面白い事を考えるものだな。これを私に制御させる気か?』


「いいえ。あなたはあくまでも補助よ。制御するのはエレノアだから」


 まるで意味不明なやり取りをしていると、遂にレイヴンが動き始めた。


 鎧を纏う時と同じ黒い霧の中から現れたのは、人の姿をした魔物が二十体。


「ランスロット達を帰したのは正解だったな。だが、消耗している俺とエレノアだけでは手に余る」


 今までの大地を埋め尽くす程の大群に比べれば大した数では無い。しかし、問題は魔物の質だった。

 瘴気から生まれた魔物と違い、魔剣に蓄えられた膨大な魔力が生み出した化け物。一体一体がフルレイドランク以上の力を有している。


「そこは何とかするしかありません。それと、アラストル。貴方はあの現象をどう思いますか?」


「レイヴンが何らかの方法で魔剣の制御を奪い返そうとしていると見て間違い無いだろう。あの二十体の魔物は差し詰め異物を吐き出したと考られる。聖剣と魔剣の意思が最早修復不可能な状態にあるのかもしれない」


『あれは成れの果てだ。無茶な力の使い方をするからこうなる。残念だ……あれではもう元には戻らない。そして、アレが表に出て来ている間、レイヴンは無防備な状態になる』


「なるほど……。そこの小人の長。さっさと転移魔法で避難しろ。厳しいが、この場は俺とエレノアでどうにかする」


 レイヴン自身は未だ動く気配は無いが、この場でまともに戦えるのはアラストルとエレノアだけだ。フローラとユッカは守るにしても、ユキノとフィオナまで庇って戦うのは難しい。


「何言ってるの。あんたは私達全員の護衛役で残ってもらったんだから!しっかり守りなさいよ!」


「正気か?守ってやれる保証は無いぞ?」


「大丈夫だって言ってんでしょ!おっきな図体してるんだから、どっしり構えなさいよ!ほら!あいつら動き出したわよ!」




 いつの間にかアラストルの肩に乗っていたフローラは、ちゃっかり定位置を見つけて座り込むと、耳元で騒ぎ立てていた。

 鬱陶しい事この上無いと苛立つアラストルであったが、エレノアに装着された装置には多少興味がある。

 聖剣デュランダルがフローラの意見を否定しなかったところを見ると、この緊急事態にも対応可能とも取れる。


「準備出来ました!」


 準備を終えたユッカがアラストルを盾にする様に隠れると、それを見ていたユキノとフィオナもアラストルの背に回った。


「私達の結界より、貴方の方が頑丈そうだから」


「お前達……」


「エレノア!ズバッとやっちゃって!」


「ええ⁈ そ、そんな事を言われても……」


 エレノアが戦おうにも身体中に取り付けられた器具が邪魔をして身動き取れない。


 こんな状態で一体どうしろと言うのか全く分からない。


『私が補助してやる。やかましい奴だが、意外に面白い事を考える奴だ』


 魔核が怪しげな光を放ち始めると、デュランダルを通じて使い方がエレノアの中にイメージとして流れ込んで来た。


「これは……」


「どうよ?驚いた?エレノアは人間になれたけど、体には魔鋼が残ってる。レイヴンも難い事をするわよね〜。博士や技術者の皆んなが長い長い年月をかけて構築して来た回路がそのままの状態で使われてる訳よ。どうやったんだが……」


「エレノアは人間だけど、擬似魔鋼人形としての能力も持ってる。知ってる?街の皆んなは今でもエレノアを倒す事を目標にしてるのよ?」


「しかし、あれはあくまでも……」


 魔鋼の国にあったのは偽りの法。

 エレノアはずっと最強の魔鋼人形として頂上で待ち続けた。


「皆んなが目標にしていたのは、最強の魔鋼人形じゃない。最強のエレノアだったって事よ」


「フローラ様……」


『感情に浸っている場合では無いぞ』


 エレノアは聖剣デュランダルの力を解放して、魔核から変換された魔力を体内へと取り込んでいった。

 体に浮き出る魔鋼回路の輝きが増していくと共に、ユッカの用意した装置から様々な記憶が流れ込んで来る。


「私が待ち続けたのは決して無駄などでは無かった。ありがとう皆んな」


 エレノアは聖剣デュランダルを掲げて告げた。


「我が名はエレノア!かつて最強の魔鋼人形と呼ばれし者!さあ、眼前の敵を片付けますよ!発動せよ!ヘーロー・エクス・マキナ!!!」


 臨界に達した魔核が共鳴を起こし、膨れ上がった魔力の起こす振動が大地を激しく隆起させた。


 地中より姿を現したのは十二体の魔鋼人形達。

 それぞれが異なる姿を持つ魔鋼人形達はエレノアの意思に従って二十体の強大な魔物に突撃して行った。


 フルレイドランクを優に超える強大な魔物を相手に圧倒してみせている。

 これなら動けないレイヴンを守りながら戦うのも造作も無いだろう。


「わお……上手くいって良かったぁ……」


「フローラ様」


 魔力の補給が終わったエレノアは今まで以上に凛とした雰囲気を纏っていた。


「え⁈ あ!何⁈ 知ってた!上手くいくって知ってた!やったわねエレノア!ばっちりじゃん!!!」


「「「……」」」


 これだけの事を自信満々に勧めておいてなんて奴だ。


 アラストルが思わず口にしかけた言葉を飲み込んだ横で、ユッカが必死に頭を下げていた。

 フローラのせいで折角の成功が台無しだ。


 だが、そんな事はエレノアとデュランダルには関係無いらしい。


『十二体の癖を把握するのに少しだけ時間がかかる。その後の制御は任せろ。好きに暴れると良い』


「分かりました。それではフローラ様。行って参ります」


 エレノアは優雅に礼をして飛び出して行った。



 後に残された者達の視線はやたらと自信満々なフローラへと向けられていた。


「フローラには勿体ないわね……」


「どうしてエレノアがあんなに盲目的なのか不思議だわ……」


 エレノアはレイヴンやリヴェリアといった例外を除けば、間違い無く最強の存在だ。

 聖剣デュランダルに、先程見せた新しい能力『ヘーロー・エクス・マキナ(機械仕掛けの英雄)』があれば、どんな強大な魔物が相手でも遅れを取る事は無いだろう。


「な、なななななな!何て事言い出すのよ⁈ 私とエレノアは親友なわけ!大親友よ!大親友!!!超凄い絆で繋がってるわけよ!」


「不憫な……」


 フローラの戯言はさて置き、圧倒的優勢で戦闘を続けるエレノアだが、強力な力には代償が付き物だ。

 カレンの『軍神の大号令』のような反動があってもおかしくない。


「え?代償ですか?ありますよ?」


 あっけらかんと言ってのけたユッカはアラストルの背後から絶対に動こうとはしなかった。



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