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屁理屈

「そんな……」


 マクスヴェルトの心臓が止まったのと刻を同じくして、魔力の気配が完全に消えたのを察知したシェリル達は愕然としていた。


 マクスヴェルトが何をやろうとしたのかは分かっている。

 制御を失った魔剣の制御を取り戻す為に、自ら管理者の役目を買って出たのだ。


 間に合わなかった。

 もっと他にも方法があったかもしれないのに間に合わなかった。


「シェリルーーー!」


 ツバメちゃんに乗ったルナが遠くから手を振るのが見えた。


「あれ?どうしてリアーナちゃんが?」


「それより今、マクスヴェルトの反応が!一体何が起こってるの⁈ 」


「や、やっぱり私達も引き返した方が良いんじゃあ……」


 三人はマクスヴェルトの反応が消えた事に動揺している様だった。混乱しつつも自制心を保っていられるのは、マクスヴェルトの正体を知らない事と、普段から何を考えているのか分からない飄々とした態度を見ていたのが理由だろう。


 リヴェリアが本気で信じているのなら、きっとレイヴンがどうにかするという勝算があるのだ。

 であれば、今はレイヴンとリヴェリアを信じる他に無い。


 予測がつかないのは、マクスヴェルトの正体を知ったレイヴンの反応だ。


 レイヴンはクレアとルナが傷付けられるのを極端に嫌う。自分の手で傷付けたと知ればどんな事が起きるか想像もつかない。


「駄目よ。貴女達は予定通りリヴェリアと合流して」


「私達がどうにかしてみせるから」



 ーーーーーーーーーーーーーーー



 その頃、シェリル達が恐れていた事は現実となっていた。


 ランスロット達は、制御を取り戻すどころか、怒り狂ったレイヴンが無差別に周囲一帯を焼け野原にする攻撃を避ける為に距離を取っていた。


 魔剣は鼓動を続けているが、今度は逆にレイヴンの力に振り回されている様に見える。


「くそ!くそ!くそぉ!!!何なんだよそりゃあ!!!おいっ!アラストル!これも作戦なのか⁈ こんなものがレイヴンを救うって本気で思ってやがったのか⁈ 何とか言えよ!」


 泣き叫んでいるように咆哮を上げるレイヴンの腕には、元のルナの姿に戻ったマクスヴェルトの遺体が大事そうに抱かれていた。


「さすがに説明して欲しいですね。我々はいざという時を覚悟してレイヴンに挑んでいます。ですが、これは明らかに違う」


「我々もこんな話は聞いていない。レイヴンをどうするつもりだ?」


「……」


 どうしてマクスヴェルトが?そんな疑問はランスロット達にとってどうでも良かった。ただ、レイヴンの気持ちを思うと、この現実はあまりに残酷過ぎた。

 ようやくクレアを取り戻したばかりだというのにあんまりだ。もしも、魔物堕ちしてしまったレイヴンを更に追い込む事が救いになるなんて考えているのだとしたら、そんなものは愚策も愚策。悪手としか言いようが無い。


 ランスロットはやり場の無い込み上げる怒りをアラストルにぶつけていた。


「……俺に怒りをぶつけて気が済むのならいつまでもそうしていると良い。だが、おそらくこの画を描いたのはリヴェリアだ」


「お嬢が⁈ てめえ!適当な事ぬかしやがったら許さねえからな!」


「そういう冗談は嫌いなんですよ。お嬢がそんな策を考える筈がありません」


「随分とリヴェリアの事を信頼している様だが、剣を向ける相手を間違えているぞ?」


 ライオネットとガハルドの二人はアラストルに剣を向けて一触即発の様相となった。

 ゲイルとランスロットも剣に手をかけている。


 いくらリヴェリアでも仲間の命を犠牲にしてまでレイヴンを救おうとする筈が無い。

 リヴェリアの部下達は皆、そうならない様に手を打つリヴェリアの姿を見て来た。


 ーーーはいはいはいはい。喧嘩はそこまでよ。


 アラストルに掴みかかろうとしたガハルド達の声を遮ったのは、国に戻っていた筈のフローラだった。

 隣にはユッカの姿もある。


「フローラ様⁈ 何故こちらに⁈ 」


 フローラ達が転移して来たのと時を同じくして、エレノアとカレンが戻って来た。


「あんた達!仲間割れしてる場合じゃ無いでしょ!!!」


 アラストルの前に降り立ったカレンは、激昂する四人に剣を引かせて冷静になるよう促した。

 レイヴンの対処に追われている現在、仲間割れをしている余裕など無い。


「マクスヴェルトの馬鹿……」


 カレンはルナの姿に戻ったマクスヴェルトの遺体を抱いて暴れるレイヴンを見て歯噛みした。


 マクスヴェルトの思惑は果たして成功したのだろうか。今のレイヴンを見ている限り、とても魔剣の制御を行えている様には見えない。



 ユッカの肩によじ登ったフローラは、小さな体を大袈裟に動かしてわざとらしい溜め息を吐いてみせた。


「あん達みたいな強いのが揃いも揃って慌てふためいちゃってまあ……。マクスヴェルト様は稀代の大魔法使いよ?本当にこのままな訳無いでしょ」


「しかし、フローラ様……マクスヴェルトはもう……」


「あのリヴェリアがまだ動かずにいるのなら、失敗したと決めつけるのは早いわ。魔剣の制御をマクスヴェルト様が奪えれば、まだ私達にも反撃の機会はある。……私だって本当はいろいろ言いたい事はあるけど、今は出来る事をするべきよ。ユッカ、もうさっさと説明を始めちゃってよ」


「は、はい!皆さんのおかげで予定地点までの誘導に成功しました!そ、そこで!次の作戦に移りたいと思います!」


 緊張した面持ちのユッカが取り出したのは、大量の魔核が埋め込まれた奇妙な形をした魔鋼の塊だった。


「予定地点?何の話だ?」


 皆の怒りが収まっていない中で次の作戦を言い出すだなんてどうかしている。


 頭に来たランスロットがフローラとユッカに詰め寄ろうとした時、暴れて手がつけられ無かったレイヴンの動きがピタリと止まった。


 異変を最初に察知したのは周囲の警戒をしていたユキノとフィオナだ。


 ーーードクン!


「「戦闘態勢!!!」」


 魔剣の鼓動と同時に叫んだ二人は、レイヴン相手には無意味だと思って展開していなかった結界を全力で展開した。


 だが、肝心のレイヴンに動きは無い。


「フローラ様、これは一体?」


「うーん……レイヴンが魔剣の制御に力を割き始めたと見るべきでしょうね。とにかく!こんなに人数がいたんじゃあ、作戦どころじゃ無いじゃない!ランスロット、ゲイル、ライオネット、ガハルド、それからカレン!あん達はリヴェリアの所へ戻りなさい!」


「フローラ様。ですから、そんな事を言っている場合では……」


 レイヴンを相手にするなら少しでも戦力は多いに越した事は無い。


 ……しかし、エレノアの制止よりも早くフローラを中心に巨大な魔方陣が展開されると、名前を呼ばれた全員が一瞬にして強制転移させられた。


「指名式の強制転移魔法……⁈ 」


「あの二人以外にも使える人がいるなんて……」


 転移魔法は、実現不可能とまで言われる空間魔法すらも応用した非常に高度な魔法だ。扱える人間は限られている。

 世界広しと言えど、賢者マクスヴェルトとルナの二人だけだ。


 フローラは元々、魔法や魔術の研究に明け暮れていた事と、マクスヴェルトから教えを受けたおかげで大きな成長を遂げていた。


「正確には一人だけだったがな……」


「ふふん!ほら、私ってば天才だから!ちょっとコツを掴めば出来ちゃうわけよ!だけどーーー」


 フローラの纏う空気が変わった。


「だけど、一つだけ訂正しておくわ。マクスヴェルト様はマクスヴェルト様。ルナはルナよ。世界に存在出来るのは一人だけ。それが同時に存在している以上、どんな事情があろうとも二人は別人。そこの所を間違えてはいけないわ」


 世界に存在出来るのは一人だけ。

 それは翡翠がルナに言った事と同じだ。


「……屁理屈だな。世界の法則に従えば確かにその通りだ。しかし、あの二人は紛れも無く同一人物だ」


「そこの大っきい人!ごちゃごちゃ言わない!良い?これは本当に大事な事よ。私達がマクスヴェルトという人間を受け入れるかどうかは、世界から存在を許されるかどうかに関わってくるわ。でないと、マクスヴェルトという人間は初めから存在しなかった事になってしまうから」


「あ、あのう……そろそろ説明の続きをしても良いですか?もう、こっちも暴走しちゃいそうで……」


 ユッカの取り出した魔鋼の塊に埋め込まれた大量の魔核が不気味な光を放っていた。



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