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vs暴走レイヴン⑥


東へ向けて一直線に放たれた斬撃の名は『剣気一閃』と呼ばれるシェリルの技だ。

レイヴンが使ったのは冒険者のランクをCランクから上げる為に挑んだ昇格試験で、試験官を務めたリヴェリアと戦った時の一回だけ。


あの技は剣先に集中させた魔力を前方に放って周囲を薙ぎ払う。使い手によって威力の異なる大技。

一気に大量の魔力を失うこの技は、切れ味が良すぎて斬るつもりの無い物まで傷付けてしまう為、この技を生み出したシェリルですら冒険の最中に滅多に使う事はなかった。



辛くも剣気一閃を躱したマクスヴェルト達であったが、次の瞬間には顔を青くして転移魔法を発動させた。


転移目標はルナ達の後方。

嫌な予感が的中したマクスヴェルトは、全力で結界を展開すると、間髪入れずに叫んだ。


「空間魔法準備してッ!!!」


遥か後方で戦っていた筈のマクスヴェルト達の出現にいち早く反応したルナは、翡翠と二人、マクスヴェルトの両脇に素早く移動した。


「お、おい⁉︎ 」


「説明は後!翡翠やるよ!」


『ほほう……よくも咄嗟に器用な……』


空間魔法は複雑で強力な分、普通の魔法よりも発動までに時間がかかる。ルナがやったのは術式を分けて強引に発動させる簡易術式。契約により繋がっているルナと翡翠ならではの方法だ。


「シェリル!」


「分かってるわよ!」


ステラとシェリルもマクスヴェルトの結界を補強する様に結界を展開した。この程度で防げるなら苦労はしない。今は刹那でも時間が稼げればそれで良い。


ランスロット達は何が起こったのか理解出来ないでいたが、直後にやって来た衝撃で、一瞬にして全てを理解した。


「ルナ!翡翠!急いで……!もう……!」


受け止めた衝撃はマクスヴェルトの全魔力を持ってしても防ぎ切れない。結界にヒビが入る度に、カレンとエレノアが加護を最大限に発揮させてマクスヴェルトの補助を行っていたが、受け止める時間が長ければ長い程、魔力を消耗して行く。


「出来た!翡翠!」


『うむ!』


防げ無いのなら別空間へと吸い込んでやれば良い。発想は単純だが、効果は絶大だ。

マクスヴェルト達の目の前に開いた巨大な空間の裂け目が、レイヴンの放った一撃を全て飲み込んだ。


一瞬だけとは言え、レイヴンの攻撃を受け止めたマクスヴェルト達は限界限界を迎えていた。


それは魔力欠乏症と呼ばれる状態で、急激な魔力の消耗によって脱力状態になって動く事が出来なくなってしまう。


「まだ気を抜くな!来るぞ!」


魔力の殆どを使い果たしたマクスヴェルトの横をアラストルが駆け抜けて行った。


何かがぶつかり合う鈍い音。

巨大な地揺れがマクスヴェルト達の足元に亀裂を入れ大地が激しく隆起した。


「ルナ!クレアを連れて先に行け!」


「ラ、ランスロット⁈ 私も戦え……!うわわあああ!」


「ちょ、ちょっと!う、うわ!わわわわわわわわ!……っと!クレアを投げないでよ!」


「マクスヴェルト達を頼む!此処は我々だけで時間を稼ぐ!」


ランスロット、ゲイル、ライオネット、ガハルドの四人は一斉に剣を抜き放ち、アラストルの後を追って立ち込める白煙の中へと飛び込んで行った。


「ルナちゃん、クレアちゃん、乗って下さい!ツバメちゃんで一気にリヴェリアちゃんの所まで行きます!」


「だけど……!」


白煙の中にいるのはおそらく後を追って来たレイヴンだ。

今の一撃でかなり魔力を消耗した様だが、それでもランスロット達が束になっても敵う相手では無い。

マクスヴェルト達が動けないのなら今度は自分達がレイヴンを止める番だと言うが、今のアラストルは魔人化している為、回復系統の魔法は使えない。支援の無い状況でレイヴンに挑むなど狂気の沙汰だ。


「行きなさい!クレアはまだ戦闘には耐えられないわ!」


「お嬢には後で合流するって言っておいて頂戴!」


「無茶だよ!レイヴン相手に皆んなだけで勝てる訳無い!」


SSランク冒険者は常人よりも遥かに強い。けれどそれはあくまでも人間の枠での事だ。

これはランスロットの時の様な“遊び” では無い。レイヴンに自我があるならまだしも、今のレイヴンは魔剣に意識を支配されている。世界の理にすら干渉するレイヴンとまともに相対して生き残れる可能性は皆無だ。

この場は全員で一旦リヴェリアの元まで退避するのが正解だろう。


けれども、ユキノとフィオナはいつもの様に不適な笑みをルナに向けて言った。


「あら?足止めするだけなら私達にだって方法はあるのよ?」


「これでもお嬢と一緒に無茶な依頼をこなして来たんだから。何とかなるわよ」


「でも……」


どんなに強い魔物でもユキノ達がまともに相手が出来るのはレイドランクまで。フルレイドランクの魔物となれば手が出ないどころか、まとも相対する事も難しいだろう。

相手はそんなフルレイドランクの魔物を剣の一振りで屠ってしまえるレイヴンだ。


「行きなさい!!!」


「……ッ!」


ユキノとフィオナは笑みを浮かべると、ルナとクレアの頭を撫でて白煙の中へと飛び込んで行った。


『ルナよ。皆の覚悟を無駄にするな』


「分かってる。分かってるよ……」


無謀すぎる。

マクスヴェルト達でさえレイヴンを止め切れ無かったのに、ただの人間がどうにか出来る訳が無い。


「ルナちゃん、クレアちゃん。私達は私達に出来る事をしましょう。作戦を続けるんです!」


どうしてそんなに強い目をしていられるのだろう?

ミーシャにはいつも助けられてばかりだ。


「ミーシャには敵わないや」


「うん」


ルナは動けなくなったマクスヴェルト達を転移魔法でパラダイムへと送り届けて、ツバメちゃんの背にクレアと共に跨った。




白煙の中では依然としてレイヴンとアラストルが激しい戦闘を繰り広げていた。

ランスロット、ゲイル、ライオネット、ガハルドは、陽動とアラストルが防ぎ切れていない攻撃への対処に専念している。

ユキノとフィオナは結界が無意味だと判断して回復魔法や身体能力の強化魔法に専念している。


レイヴンは、先程の一撃で大量の魔力を消耗したせいか、二回り以上大きくなっていた体は元の大きさ近くに縮んでいた。

赤い目も本当に僅かだが、生気が戻りつつあるのが見てとれた。


しかし、まだ安心は出来ない。魔力を消耗させる事には成功したものの、全てが良い方向に向かっている訳ではないからだ。

体が小さくなった事で更に攻撃の速度が増している。ランスロット達は殆ど勘を頼りに攻撃を防いでいた。


「なるほど!ランスロットの言っていた通り、倒そうとさえしなければギリギリどうにかなりますね!」


「だろ?レイヴンは殺気に反応するからよ!良い考えだろ?」


「だろ?じゃねえ!ギリギリも良いとこだ!一歩間違えば誰の首が飛んでもおかしく無え!もっとマシな対策は無えのかよ!」


「口を動かす暇があるなら足を動かせ!止まれば死ぬぞ!」


アラストルがいなければ、あっという間に戦線は崩壊していた事だろう。

四人は入れ替わり立ち替わりにレイヴンの攻撃を凌ぎながら、ゆっくりと西へ向かって後退し始めた。


現状を維持出来るのなら、暫くはどうにかなりそうな雰囲気は確かにある。レイヴンの動きは強烈で、刃が触れただけでも体力を根こそぎ持っていかれてしまう。ジリ貧なのは明白だ。そうなると、問題はやはりレイヴンの魔剣の方だろう。


「アルフレッド!…じゃなかった、アラストル!レイヴンの魔剣の暴走を止める手段は無いのかよ⁈ 」


「ランスロット、そんな方法があるならマクスヴェルト達がとっくにやっていますよ」


「んな事、聞いてみなきゃ分からねえじゃねぇか!で、どうなんだ?」


アラストルは全身から噴き出る湯気の様な汗を拭ってランスロットの質問に答えた。


「無くは無い。が、既にレイヴンが試みている筈だ。俺達に出来る事はそれまで時間を稼ぐ事だけだ」


「それはどの程度時間がかかる?」


「……半刻か、一刻か、一年か、十年か。果ては寿命が尽きるまでか。全てはレイヴン次第だ」


アラストルの告げた言葉に一同は黙り込んで息を呑んだ。

方法があるのは大きな希望だ。しかし、いつになるともしれない暴走の終息を、暴走状態のレイヴンと戦い続けながら待つのは到底不可能だ。


「……冗談キツイぜ」


ランスロットは魔剣の操り人形と化しているレイヴンを見つめて呟いた。


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