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vs暴走レイヴン③

 

「少しは削っておくか」


「私としてはこのまま消耗してくれるのを待つ方が良いんだけど?」


 アラストルはカレンの提案には耳を貸さずに、戦斧を地面に突き立てて魔法を発動させた。

 魔法陣に浮き出ている文字は魔人族固有の文字だろうか?見た事が無い。


「俺とてそこまで無謀では無い。先ずは代わりを召喚して様子を見るだけだ」


「代わり?ああ……何となく分かったけど現在地上にいる魔物はほぼ皆無よ?」


 世界中の闇を喰らい尽くした事で魔物と魔物が発生する原因となる瘴気は一時的に存在しない。魔物を召喚するにしてもそれは魔界からという事になるが、果たしてそんな事が出来るのだろうかと疑問に思っていた。


「妖精の森を襲った白い翼を持った魔物の出所を探っていて見つけた。トラヴィスは我々が考えていたよりも厄介な連中に手を出していた様だ。これは交渉の一貫だ。処分するには丁度良い」


「成る程ね……でも、自分も行くんでしょう?」


「当然だ」


 シェリルやリヴェリア達が着々と作戦に向けた準備を行っている間、アラストルは白い翼の魔物が何処から来たのかを探って天界へと足を伸ばしていた。

 過去の大戦で神も悪魔も殆どの戦力を失い、自由に動かせる兵力は皆無だった筈だ。レイヴンに対して警告しかして来なかったのが良い例だろう。


 神や悪魔と一括りに言っても様々だ。当然ながら派閥や勢力争いもある。決して一枚岩などでは無い。

 特に前魔王である兄アイザックが死去してからの魔界は、現在では無法地帯になっており手が付けられない。一部の上級悪魔達が覇権を争っているとの情報もあるが、やっている事と言えば精々が小競り合い。新たな魔王を決める戦いも膠着状態に陥っているのが現状の様だ。


 おそらく神達も似たようなものだろう。そう思っていたのだが、神の方は少し事情が異なる様子だった。

 神とは元来、争いを好まない。大戦に参加したのも、あくまで世界の秩序を守る為だった。


 調べてみて分かったのは、トラヴィスの魔眼による支配を受けた一部の神が天使を使い魔物を作り出していた事だ。

 当然、格上の神によってその神は粛清されたのだが、困った事に魔物化した天使達を処分する為の戦力が無く、野放しの状態だった。

 お粗末な話だが、神とて万能では無い。神でも悪魔でも無い数万体にも及ぶ魔物を排除するには力が足りなかったのだ。


 そこに目を付けたアラストルは神を相手に交渉を持ちかけた。


「神との単独交渉?無茶するわね。流石レイヴンの叔父。血は争えないという事かしら」


 ステラも末端とは言え、神の眷属だ。

 神という存在が如何に頭の硬い連中なのかはよく知っている。

 そんな連中との交渉を成立させたのなら、アラストルが妖精王アルフレッドとして交渉したとは考え無い方が良い。まず間違い無く武力で脅しをかけているだろうからだ。


「紳士的な交渉だったとも。魔人族らしくな」


「対価は?」


「レイヴンの件には手を出さないという事で折り合いが着いている。まあ、奴等は元より静観するつもりの様だったがな」


「どうりで……干渉して来ないと思ったわ……」


 レイヴン相手に戦えば、最悪の場合種族の滅亡もあり得る。実に懸命な判断だと言えるだろう。


「結果論に過ぎないが、過去の大戦で神と悪魔が疲弊していなければ、今回の件はより複雑で厄介な事になっていた。その事を思えば邪魔が入らないだけ幾分マシだ」


 アラストルは白い翼を持った魔物を呼び出し、レイヴンの相手をさせ始めた。


「キツイわね……」


 レイヴンが放つ赤い雷の結界に触れるなり、次々と消し炭にされて行く。

 凄惨な光景だが、あまりに呆気無さ過ぎる。


「生かしておいても人間を襲うだけだ。それに、白い翼を持つ魔物は通常の魔物よりも段違いに強い。レイヴンの魔力を消耗させる“道具” くらいにはなる」


「……」


 カレンはアラストルが白い翼を次々に突撃させる事に何の抵抗を感じていない事に眉を潜めた。


「やめておけ。何も知らない人間達が抵抗も出来ずに襲われるよりは遥かにマシだ。そう割り切る事だ」


「そうだけど……」


 魔物による人間の被害は後を絶たない。アラストルの言っている事もやっている事も理解している。

 こんな強力な魔物が地上に解き放たれたなら、人間などあっという間に滅んでしまう。

 それでも、こんな光景は見たくは無かった。


「……やっぱり、あの結界は厄介ね。強力な魔物でないと近付く事も出来ないだなんて……」


 触れただけで死を撒き散らす赤い雷の結界。

 ただでさえ強いレイヴンが使うといよいよ手が出せない。


「カレン、ステラ。レイヴンは魔剣の力で何をしようとしているのか聞いたか?」


「いいえ。だけど、きっと悪い事にはならないと思う」


 レイヴンが一体何をしようとしているのかは分からない。けれど、世界中の闇を喰らい尽くした事は、レイヴンのやりたい事の一部の様な気がする。


「そうね。後はエレノア次第だけど。デュランダルの声を聞くなんて出来るのかしら?」


「あのリヴェリアがわざわざ指名した使い手だ。どうせ何か“見えた” に違いない。リヴェリアの考えている事など俺には分からない。こちらが気を揉むだけ無駄だ。さて、そろそろ俺も仕掛けるとしよう」


 アラストルは地面に突き立てていた戦斧を引き抜いて担ぐと、庭でも散歩しているかの様にレイヴンに近付いて行った。


「そうだった……アラストルも十分化け物だった」


 何食わぬ顔で歩くアラストルには、触れた者を一瞬にして灰にしてしまう雷が全く通用していなかった。

 レイヴンの異常な強さの前では霞んでしまうのも無理は無いが、アラストルはレイヴン、リヴェリアに次ぐ実力者だ。その証拠に漆黒の鎧には傷一つ付いていない。


「カレン。戦闘狂の様に言わないでくれ。俺とてレイヴンと同じだ。戦いは好きでは無い」


「アイザックとは正反対よね」


 アラストルは魔人として生まれた事を悔いてはいなかった。魔王である兄の手助けになるならとどんな事もやって来た。アラストルにとって、アイザックの描く理想を実現させる事こそが誇りだったのだ。しかし、これだけは言える。数百を超える戦場を潜り抜け、ただの一度も好んで戦いに赴いた事は無い。


「……兄者はアレで良かった。そうでなくては魔王など務まらん。だが……変われたのは義姉上とお前達のおかげだ」


 好戦的で力で魔界を統べ様としていたアイザックが変わる転機となったのは、魔界へ迷い込んだ三人の少女達との出会いがきっかけだった。


 竜人の少女と神の気配を纏った二人の少女。

 あの出会いが全ての始まりだった。


「……」


 レイヴンの赤い目はアラストルを睨む様にギラついた光を放っていた。徐々に意識が浮上して行っているのが見て取れる。


「こうしていると本物の兄者を見ているようだ。レイヴン、兄者の話に興味があるか?なら、さっさと魔剣を黙らせるのだな。いくらでも話してやろう」


 アラストルは担いだ戦斧をレイヴン目掛けて振り下ろした。



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