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ギルとルーファス

昨日投稿出来なかった分まで投稿したかったのですが、書く時間が無さ過ぎて無理でした。

ごめんなさい……。

 

 崩壊した城の上空で向かい合う二体の化け物は互いに沈黙を守ったまま出方を伺っていた。

 どちらもフルレイドランクの魔物を優に超える力を持ってはいるが、その力は拮抗してなかなか動き出せないのだ。


 皇帝が魔物堕ちした姿はエンシェントドラゴンと呼ばれる古の竜だ。竜人族の上、ただでさえ強大な力を持つと言われた皇帝ロズヴィックは、魔物堕ちした事で更に力が増大している。表の世界に出て来たばかりの常世の姫君がロズヴィックと張り合えるだけの力を持っているのは驚くべき事だ。


(よもやこれ程とはな……。だが、これで良い。期待以上だ)


 ロズヴィックが本来の美しく雄々しい姿で顕現していたなら、その圧倒的な存在感と神々しさに歓声が湧いた事だろう。

 けれど、この姿を帝国の民が目にする事は無い。ロズヴィックの指示通り、ギルが上手く民を非難させたかたらだ。とは言え、急な事で他国へ全員避難させる事は出来なかった。そこで避難場所に選んだのが、レイヴンに“掃除” を依頼していたトラヴィスの地下研究施設だ。無論、あのままでは使い物にならない所だが、レイヴンが助けた三人組が協力を申し出て来た事でダンジョンの核となる水晶を入手する事が出来た。後はルーファスがダンジョン内を拡張して一先ずの居住空間を確保し、護衛には騎士団が任務にあたっている。

 トラヴィスの魔眼の影響下にあると思われる者は睡眠系統の魔法をかけて強制的に隔離してある。


「……ドウシタ?来ナイ、のか?」


 ロズヴィックの自我はもう殆ど残っていない状態だ。

 もう間も無く完全に意識が消えて魔物化してしまう。それまでに決着を着けたい所だが、常世の姫は舌舐めずりを繰り返すばかりで近付こうともしない。

 おそらくロズヴィックが完全に自我を失うのを待っているのだろう。

 そして、その判断は正しい。


(チッ……)


 クレアとしての経験が活きているのか、はたまた常世の住人としての勘なのかは不明だ。

 お互いに力が拮抗しているのなら、自我失って魔物化したロズヴィックと戦う方が容易いと勘付いているのだ。


「んー……まだかなぁ?もう少しかなぁ?ねえ、何処から食べて欲しい?」


(やむを得んか……)


 ロズヴィックは腐りかけの翼を広げると、常世の姫を威圧する様に咆哮を放って攻撃を開始した。





 ーーーーーーーーーーーーーーーー




 帝国の空が騒がしくなって来た頃。

 地下に避難させた民と騎士団を纏めていたギルは、何処からか戻って来たルーファスと今後の予定について話し合いを進めていた。


「そうか。皇帝陛下が……」


 ロズヴィックの最後の命を受けたギルの言伝を聞いて、ルーファスは何かを察した様に視線を落とした。


「……はい。ですが、宜しいんですか?ルーファス様は皇帝陛下をお救いする為にこれまで動かれて来たのに、それがこの様な……」


「ギル。畏った喋り方をしなくても良い。立場的には俺とお前は同列だ。勿論、ゲイルもな」


「いえ、自分はゲイル団長が姿を消した後の穴埋めに過ぎませんので、このままで……」


 第八騎士団長ゲイルは襲撃して来た黒い鎧の魔人によって殺された事にされた。その後釜として副団長であったギルが代理を務める事になったのだが、それを快く思わなかった一部の者達は、皇帝ロズヴィックの掲げる理想を理解しようとせずに反発した。

 結果、貴族の雇った暗殺者に命を狙われたギルは、瀕死の重傷を負って死にかけていた所をルーファスによって命を救われる事となって今日に至る。

 当然、騎士団長襲撃の件は皇帝ロズヴィックの耳にも入る事となり、怒りを買う事になった。貴族達の“魔物混じりが騎士団長などあり得ない” という主張は呆気なく退けられ、国を上げてギルの騎士団長任命式を大々的に行い、貴族のみならず民達にも魔物混じりのギルが皇帝の認めた騎士団長である事を周知させた。


「そんな事は無い。ゲイルは新たな騎士団創設を陛下に進言していた。勿論お前を団長としてだ。俺の所へも協力してくれと頼みに来た。レイヴンの襲来が無ければ進言は聞き入れられ、新たな騎士団創設が叶っていただろう。早いか遅いかの違いだ」


「そう…だったのですね……」


 ゲイルは頭の固い男だが、認めるべき者の事はきちんと見えている。身分も種族も関係無くだ。

 第八騎士団の団員達は、そんなゲイルが直接声をかけて集めた者達で構成されている。ギルが騎士団長になると決まった時も皆が祝福の言葉をかけてくれた。けれども、ギルには分かっていた。自分では第八騎士団を纏める事は出来ないと。団員達の多くがゲイルの帰還を待ち望んでいるのだと。


「……揺れが激しくなって来たな」


 ルーファスが見たロズヴィックは既に魔物堕ちしていた。対峙している黒髪の少女とは力が拮抗している様だったが、それも長くは保たないだろうと思われる。


「ルーファス様、陛下はこのまま……」


 ギルは皇帝ロズヴィックの命に従わねばならないと思う反面、自分に出来る事が無い事を自覚して悔いていた。

 初めはただゲイルの人柄に惹かれて騎士団に入ったギルであったが、騎士団長となり皇帝の側へいる事が多くなってからというもの、ゲイルが何故あれ程皇帝陛下に仕える事を誇りに思っていたのかを知る事になった。

 圧倒的な力で貴族達を無理矢理抑えて従わせている。そう考えていた頃の自分が恥ずかしくなるくらいにだ。


「案ずるな。既に手は打ってある。陛下はまだ帝国の民達にとって必要なお方だ。絶対に死なせるものか」


「しかし……」


 皇帝の命は絶対だ。しかし、その命令を唯一違える事が出来る裁量を与えられているのがルーファスだ。

 仮面の下の素顔を見た者もおらず謎の多い人物であるにも関わらず、諜報機関の長であるルーファスには、騎士団長と同等の地位と権限が与えられている。しかも、場合によっては大臣達よりも大きな発言権を持つ事も許されているという特権まで有しているのだ。

 皇帝が如何にルーファスを信頼し、重用しているのかが分かる。言わば皇帝の懐刀的な立ち位置だ。


 だがしかし、いくら権限があった所で帝都上空から感じる魔力は桁違いだ。

 帝国内でも一二を争う実力を持っていたトラヴィスが裏切った今、頼れるのは目の前にいるルーファスと、生存の発覚したゲイルだけだ。だと言うのに、そんな二人ですら上空にいる化け物の様な二人には遠く及ばない。


「顔を上げろ。騎士団長のお前がそんな様では他の者の士気に関わる」


「も、申し訳ありません……」


 民の中には魔物混じりも多い。不安を煽って万が一魔物堕ちすれば、護衛にあたっている騎士団だけでは対処し切れない。


「念の為に迫害を受けていた魔物混じりは、俺が新たに作った地下通路を通じて、西にあるドワーフの街へ匿って貰える様にしてある。被害が拡がればそことて絶対では無いが、外に放り出されたままよりはマシな筈だ」


「西へ?では、あの魔法の壁を自由に越えられる様になったのですか⁈ 」


「自由に、では無い。今回の件に関してのみ、中央大陸を統べる竜王リヴェリア陛下と、世界を隔てる壁を展開した張本人の賢者マクスヴェルトには直接会って民達の保護の了解を得ているというだけだ」


「リヴェリア……マクスヴェルト……まさか、あの⁈ 」


 中央大陸には三人の化け物がいるという話は事情に聡い者であれば平民でも知っている事だ。

 皇帝ロズヴィックと同等か、それ以上とも言われる強大な力を持つ三人は、王家直轄冒険者という特別な肩書きを与えられていると聞いていた。帝国全土をたった一人で恐慌状態に陥らせたのも、その内の一人。確か魔人レイヴンという名だ。

 今回避難している地下もそうだ。一人で魔物の群れを殲滅している。

 ルーファスが言った『手を打っている』というのがその三人であれば、もしかしたら皇帝陛下を救う事も出来るかもしれない。


「ギル。ここが落ち着いたらゲイルの元へ行け。まだ会っていないのだろう?」


「それは……」


「会って来い。今のお前を見ていると俺まで辛気臭くなりそうだ。説教をするつもりは無かったが、与えられた肩書きなど“役割” にしか過ぎないのだと肝に銘じておけ。お前はお前だ」


 ギルが感じているのはゲイルのいた地位に自分が立っている事への負い目だ。


 肝心なのはどう生きたいのか。


 それを成すのは他の何者でも無い。

 自分自身なのだ。


「私は……」


「馬鹿になれとは言わないが、俺が先日見た馬鹿は、その三人の化け物の一人に勝ってみせたぞ。実力的にはお前と同じくらいか。確か、ランスロットとかいう名だ」


 ランスロットの名を聞いたギルの目の色が変わった。


「あいつが……」


 ルーファスは手に残った戦いの感触を確かめる様に拳を握り締めたギルの肩を叩いて、また何処かへと姿を消した。



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