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降り注ぐ破壊の赤い閃光

 二体の咆哮がダンジョンを揺らした頃、レイヴンは異常事態を察知して魔剣を抜き放った。

 フルレイドの魔物二体を相手にするのはゲイル達には厳しい。咆哮を放ったという事は威嚇の意味もあるが、経験上獲物の品定めが済んだ合図の場合が多い。


「レイヴンこの感じヤバいよ!」


「時間が無い。しっかりと捕まっていろよ」


 目覚めた魔剣が激しく鼓動し始めると、赤い魔力を迸らせ周囲の壁を削っていった。


 ーーードクンッ!ドクンッ!


 ゲイル達のいる地下迄はまだかなりの距離がある。そこへ辿り着く為に悠長に走っている場合では無くなった。多少強引だろうが、やはりこれが一番手っ取り早い。


 急停止したレイヴンは足元に狙いを定めて構えた。


「ルナ!真下の状況を!」


 意図を察知していたルナはレイヴンに言われるよりも早く、転移魔法を応用して地下の景色を探っていた。

 脳裏に浮かんで来たのは二体のフルレイドランクの魔物に挟まれた状態のゲイル達の姿。正面には巨大な蜥蜴の様な姿をした魔物が、もう一体は鳥の姿をしているのが確認出来た。しかし、レイヴンが立っている位置からだとゲイル達を巻き込んでしまう。


「索敵……完了!真下には蜥蜴の姿をした魔物だけだよ!だけど、このままじゃ皆を巻き込んじゃう!」


「問題無い。分かってる」


 ーーードクンッ!!!


 魔剣が大きな鼓動を発するとレイヴンの魔力が異常に膨れ上がった。

 どれだけ距離があろうとも、これだけ魔力を高めればレイヴンの存在に気付いてくれるだろう。


「穿てッ!」


 レイヴンは地下までの岩盤を全て貫く為に魔剣を地面に突き立てた。

 地面を這う様に赤い雷が走り、足元に強烈な閃光が発せられると、地下までの分厚い岩盤を一気に貫いた。





 レイヴンの思惑通り、ゲイル達も頭上から感じる桁違いの魔力に気付いていた。

 二体のフルレイドランクの魔物に挟撃されるという絶体絶命の危機にも関わらず、それすらも生温いと錯覚してしまいそうになる圧倒的な暴力の化身が自分達の直ぐ真上にまで迫って来ている。


 二体の魔物もその存在に気付いた様だ。ゲイル達には目もくれずに動きを止めて見上げて震えている。


「フルレイドランクの魔物が怯える?……まさか」


「あいつしかいねえだろ……」


 なんとも異様な光景だ。ゲイル達を容易く屠れるほどの存在が、姿の見えない何かに怯えている。魔力の反応だけで魔物を退けるだなんて真似が出来る人物はたった一人しかいない。


(此処へ直接来る気か⁉︎ )


 嫌な予感を感じたゲイルは応戦しようとする仲間に向かって叫んだ。


「全員壁際へ走れ!緊急退避だ!!!」


「で、ですが……」


 急に走れと言われても殆どの者が状況が飲み込めないでいた。迂闊に壁際へ移動すれば逃げ場を失ってしまう。それよりも魔物が動きを止めている間に攻撃してしまった方が良いのではないか?どうするべきか戸惑っていると、再びゲイルが叫んだ。


「何をぐずぐずしている!巻き込まれるぞ!急げ!!!」


 沈着冷静なゲイルらしく無い鬼の形相を見た仲間達は、動きを止めた二体の魔物の間をすり抜ける様にして壁際へと即座に走り出した。


「ゲイルさん!一体何が起こると言うんですか⁈ 」


「黙っていろ。直ぐに分かる」


 その直後だった。

 天井の分厚い岩盤を突き破って来た赤い雷が轟音を発しながら蜥蜴の魔物へと容赦無く降り注いだ。


「「……ッ!!!」」


 ボス部屋を赤い閃光が埋め尽くし、周囲の地面ごと魔物を飲み込んでいく様は見ている者の背筋を一瞬にして凍りつかせる程の恐ろしい破壊を撒き散らした。

 赤い雷は抗う事を一切許さずに一撃で魔物を灰へと変えてしまった。尋常で無い威力の攻撃の前では、魔物の再生能力など何の役にも立たない。


「「なっ……」」


 死すら覚悟した強大な力を持つ魔物が、逃げる事も出来ずに消炭にされていくという異常な光景。それを見たルーファスの部下達は、魔物が焼かれて灰になっていく様子を呆然としたまま見つめていた。


「相変わらず無茶苦茶だな……」


「なんつうかよ、また強くなってねえか?」


「……(勘弁して欲しいッス)」


 ロイの報告でレイヴンの近況についてはある程度の情報を得ていた四人だったが、やはり実際に目の当たりすると、その凄まじさがよく分かる。


「狙いバッチリ!でも、ギリギリだったね」


「ああ、間に合って良かった。だが少し威力が強過ぎたな。酷い土煙だ」


 未だ燻る土煙の中から人の話し声が聞こえて来た。

 緊張感とは程遠い会話に、ゲイル、ライオネット、ガハルド、ロイの四人は呆れた様な表情を浮かべて苦笑いするしかなかった。


 土煙の中から姿を見せたのは赤く光る黒い剣を持った無愛想な顔をした青年と、背中におぶさっている白い髪の美しい可愛らしい美少女だった。

 二人の様子はもう一体の魔物など存在しないかの様に自然体で、まるで散歩でもしているかの様な軽い足取りでゲイル達の方へと歩いて来た。


「あ!ゲイル久しぶり〜!」


「まったく……そちらは相変わらずの様だな」


「助かりましたよレイヴン。しかし、何故此処に?」


「ライオネット、話は後だ。もう一体を先に片付ける」


 レイヴンの視線の先には鳥の姿をした魔物が怯えて翼をバタつかせながら、必死に後退る姿があった。震えてしまって飛ぶことも出来なくなってしまったようだ。

 フルレイドランクの魔物と言えど、こうなってしまっては非力な小型の魔物と大差は無い。


(これは使えそうだな……)


 レイヴンはルナを背負ったまま無造作に魔物に近付くなり、いとも容易く魔物を両断してみせた。斬られた魔物にも何が起こったのか理解出来なかった事だろう。レイヴンの腕がブレて見えた次の瞬間にはバラバラにされていたのだから無理も無い。

 魔物の意識は不適に笑ったレイヴンの姿を見たのを最後に暗闇に沈んでいった。


「そんな……あんなにあっさりと……」


「ゲイルさんと知り合いの様だが、一体何者なんだ……」


 呆気ない幕引きに誰も理解が追い付かない。

 レイヴンと呼ばれた青年が魔物混じりである事は赤い目を見て直ぐに分かった。けれど、とても強大な魔物が怯えるほどの人物には見えなかったのだ。


「なるほど。魔物に対してだけ威圧していたという事か」


「簡単に言いますが、これはとんでもないですよ……。私がレイヴンに会ったのはほんの数日前だというのに……」


 フルレイドランクの魔物すら赤子の様に扱うレイヴンの力は増大するにつれて扱い難くなる筈だ。それなのに、強大な力を正確に操る術まで会得しているとなると、いよいよレイヴンに敵はいない事になる。

 最強の冒険者にして最強の魔人と呼ばれるレイヴンは、この世界に存在する生命の頂点に立っているのと同義だ。


 皆がそんな事を考えている間、レイヴンはバラバラにした魔物の素材を隈なく観察して吟味していた。


「あ、もしかして素材売るつもりでしょ?」


「……」


「絶対そうだよね。どれも高く売れそうなとこだけ無傷だもん」


「……気のせいだ」


 ゲイル達が死すら覚悟した魔物をあっさりと倒して退けた超常の存在は、ゲイル達の緊張感を置き去りにしてバラバラに解体した魔物に手を伸ばした。


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