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四ヵ国会談へ向けて

第三部始まります。

宜しくお願いします。

北、東、南との協力を取り付けたリヴェリアは緊急の会談を開くべく、マクスヴェルトの作った通信連絡用の魔具を持って冒険者組合を後にした。


ガザフ、フローラ、ユッカの三名は、砕けたクレアの魔剣を蘇らせる為に、一足先にフローラの国へ向かった。そしてもう一組、サラとオルドは中央商会へ手続きに向かっている。オルドはその後、一度孤児院の管理を手伝って貰っている知り合いの所へ向かうそうだ。


(ようやく形になって来たな。どれ、もう一息だ)


目指す場所は中央王城の一室。流石に各国の代表者との会談で冒険者組合の一室を使うという訳にもいかず、渋々王城を使う事にしたのだ。


「迎えは必要無いと言っておいたではないか」


王城の門に差し掛かると、絢爛豪華な衣装を纏った一団がリヴェリアを出迎えた。

これまで王城の門から先は天界へと繋がる転送魔法の入り口として機能していた。今はそれも解除され、王城の中へと入る事が出来る。


「そういう訳には参りませぬ。せめてここより陛下の御身をお護りさせて頂かねば民への示しが付きませぬ故」


一歩前へと歩み出たのは元老院筆頭ガレス。

リヴェリアと同じ竜人族で、幼い頃からの世話人の一人だ。ある時、地上へ降りたリヴェリアを追って来てからずっと中央の執政を実質的に執り行っている。


「余計な心配だ。民はまだ私が竜王だとは知らないのだから今まで通りで良い。堅苦しいのは苦手なのだ」


「なりませぬ」


「……頭の固い奴だ」


ガレスは長年姿と名前を変えながら民に混じって生活して来た。

贅沢な暮らしとは無縁、民に一番近い場所で声を聞く事が楽しいと言って、食事も一番安い食堂や酒場で済ませている変わり者だ。それでこそ政の責任者に据えている訳だが、どういう訳かオルドと馬が合うらしく、今でも交流を続けていたそうだ。


「陛下の記憶が戻られた事で状況は大きく、速く動いております。偽りの記憶も徐々に本来あるべき記憶へと変化しておりす。体裁という物も少しは考えて頂かなければなりません」


「……レーヴァテインと同じ様な事を言いおって」


ガレスの後ろに控えているの者達は代々城に仕えてきた者の末裔達だ。大方の事情は説明を受けている筈だ。


リヴェリアは少しだけ意地悪をしてやろうと思い立つとレーヴァテインに命じた。


「仕方ない。レーヴァテイン、お前の言っていた“必要な処置” とやらの出番だぞ」


『……全封印術式を解除します』


何やら少し不満そうなレーヴァテインが光り輝くと、封印されていたリヴェリアの膨大な魔力が一気に吹き荒れ始めた。


「「おおお……」」


黄金に輝く魔力に金色の髪と目。

全くの別人の気配を纏ったリヴェリア本来の姿を見た面々は言葉を失くしていた。


「これで良いのだろう?」


リヴェリアは意地悪な笑みを浮かべてそう言うと、呆然とするガレス達の横を通り過ぎて城内へと入って行った。




ーーーーーーーーーーーーーーーー




一方、ニブルヘイム王城は蜂の巣をつついた様な騒ぎになっていた。


新しく女王として即位したレイナは先先代の国王がそうであった様に政を粛々と執り行う名君としての片鱗を早くも見せていた。

勿論それは大臣達にとっても嬉しい誤算だった。しかし、復興が急務のニブルヘイムの国力は著しく低下しており、国としての体裁を保つ事が危うい状況にまで疲弊していた。そこへ会談の報せが来たものだから、大臣を始め家臣達は大慌てで会談の準備に追われていた、


そこで申し出があったのが、中央から支援に来た竜王の部下達による指揮系統の構築だった。当然そんな事を他国の人間に任せられる筈が無い。当初は断りもしたのだが、無碍にして無用の軋轢を生むのは避けるべきとの意見が出た事で一部の指揮を任せる事にしたのだ。正直なところ、あまり期待はしていなかったが、竜王の部下はとにかく優秀な者が多く、とても魔物を専門にしている冒険者とは思えない手際の良さには大臣達も舌を巻くばかりだった。


大臣達が会談の準備を進めている最中、肝心の女王は未だに自室にいた。


「どうでも良いけど、早く決めてくれないかしら?会談が始まっちゃうわよ?」


女王レイナの部屋で苛立ちを隠しもしない黒髪の美女ユキノは、一人で会談に臨むのは嫌だと言うレイナの頼みを頑として拒否する、ふてぶてしい態度の猫の姿があった。


「ま、待って下さい!もう少しでカイトを説得出来ますから!」


レイナは以前のボロでは無く女王に相応しい格好をして準備を整えていた。

なのに部屋の隅に座り込んで動かなかった。その原因はアレだ。


「説得だって?僕は君の為なら何でも協力するつもりで此処にいるけれど、相手は竜王だよ?悪魔の僕が女王の隣に居たんじゃ、君だけじゃ無い、この国に不信感を抱かれ兼ねない。今はまだ自力で統治が出来る状態じゃないんだ。それくらい分かるだろう?」


「そ、それはそうだけど。レイヴンが信用しているのなら、竜王陛下だってきっと分かってくださると思うわ」


流暢に喋る猫とは何とも奇怪な生き物だ。

それもレイヴンが救った悪魔の生まれ変わった姿だと聞かされては文句の言いようも無い。

ユキノも一応の事情は把握しているのだが、どうしてレイヴンが悪魔を助けたのかについてはまだ全てを把握している訳では無かった。


「レイナ、もう一国の女王としての立場があるんだ。君の振る舞い一つで竜王が機嫌を損ねる様な事があったらーーー」


ユキノはカイトの話を聞きながら、お菓子を頬張りながら紅茶に舌鼓を打つリヴェリアの姿を思い浮かべていた。


目を放すと着の身着のまま何日も同じ服で平気で過ごすし、髪もボサボサ。頬を膨らませて小遣いを寄越せと駄々をこねる姿は子供そのものだ。

しかし、いざレーヴァテインを手に魔物に相対すれば、剣聖とまで言われる剣技が見る者を魅了する。

その落差がリヴェリアの魅力なのは間違い無い。皆がお嬢と呼んで慕うのも、だらしの無い所まで全てをさらけ出した上で向き合ってくれるからだ。


「ちょっと良いかしら?カイトが悪魔でも問題無いわ。お嬢……陛下は貴方の事を知っているし、会談の場にいても全く気にしないと思うから」


白い毛並みの美しい猫は首をもたげる様にしてユキノの方を見て言った。


「ユキノとかいったな。僕はレイヴンの事は信用も信頼もしている。だけど、君達の事を信用した訳じゃ無い。竜王がどういう人物なのかは関係無い。国同士の重要な会談で僕の様な悪魔が女王の側にいる事が問題なんだ。悪いけど口を出さないで欲しい」


レイヴンが信用している人物であれば、レイナが言う通り懐の深い人物なのだろう。それでも他国の代表が顔を突き合わせる場に悪魔は相応しく無い。

ここはレイナ一人で乗り切って貰うしかないとカイトは考えていたのだ。


ユキノはそんな事情を察しつつも、カイトがレイナと共に会談に臨むべきだと判断した。

魔物混じりにとって悪魔は天敵だ。作為的な魔物堕ちと精神支配をしてくる悪魔がいると知れただけで少なくない混乱を引き起こすだろう。だが、それはあくまでもレイヴンという存在が居なかったらの話だ。


「東と南の代表はそれぞれレイヴンに縁のある人物よ。悪魔の一人……一匹か。居たって何も問題無いわ。レイヴンと関わる人達がどういう人達なのかを考えれば、悪魔なんて可愛いものですもの」


「それは……」


レイヴンという規格外の存在が関わる様な事案という事は、それだけで普通の人間には手に負えない事なのだと分かる。

中央大陸と外界との繋がりが開かれてから僅かの間に四カ国同時の会談が行えるまでに状況が大きく動いている事も、きっとレイヴンが何かしたに違いない。


「カイト、別に何かを言わなくても良い。一緒にいて、一緒に考えて欲しい」


レイナの温かい手に抱かれたカイトは少し沈黙した後、了承の返事をした。


「……分かったよ。僕も付き合おう」



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