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レイヴンvsカレン、エレノア

 

 それはレイヴンの一言から始まった。


「少し調整したい。付き合ってくれ」


 食事を終えたレイヴンは、エレノアとカレンに声をかけて未だ森が再生していない平野にやって来ていた。


 シェリル、ステラ、ルナの三人は無言のまま三方向に分かれて結界を展開している。

 誰一人として“どうして?” とは聞かなかった。

 レイヴンが理由も無く戦闘行為をしない事くらい分かっているからだ。枯渇した筈の魔力はあり得ない程の速度で回復し、以前よりもレイヴンの内包する魔力が増えているのを理解していた。


 魔物堕ち。

 レイヴンの体の中で進行を続ける魔物堕ちの症状は外見にこそ変化は無いが、確実にレイヴンの体を蝕んでいる。

 力が増せば今までの様には立ち回れない。

 感覚のズレを修正していかなければ周りにいる者達をも傷付けかねないのだ。


(さて、どこまでやれるか……)


 漆黒の鎧を纏いもせずに素手のまま立つレイヴンに対して、エレノアは聖剣デュランダルを解放し、カレンは紅蓮に燃え盛る炎の鎧を纏っていた。

 二人が既に本気なのは一目瞭然だった。鋭い目付きと高まる魔力の波動は結界があるにも関わらず、離れているランスロット達にも伝わって来る。


 開始の合図もどういう風にすれば良いのかも何の打ち合わせも無い。次第に息苦しくなる気配が始まりが近い事を教えてくれる。



 先に動いたのはやはりエレノアとカレンだった。

 カレンが手甲を打ち鳴らしたのを合図に、重心を低く構えていたエレノアが地面を踏み砕く勢いで飛び出した。

 瞬きほどの瞬間にレイヴンの懐に到達したエレノアの剣が迫る。


 だが、レイヴンはそれよりもカレンの動きの方を注視していた。

 エレノアの剣を重心を僅かにずらして紙一重で避けた後、反対側から接近して来ていたカレンの拳を払い退けた。

 カレンの動きは特別速い訳でも無いが、多岐に渡る戦闘経験は対魔物に集約されている。エレノアの持つ膨大な戦闘経験とは想定する相手が違う。この事がレイヴンにカレンの方を優先させた。


(重い攻撃だ。軌道をずらすだけでも体の芯に響いてくる……)


 エレノアの方はデュランダルの形状を巧みに変化させながら戦闘のリズムを変えて来る。

 これでは避け様にも攻撃の呼吸が読み辛い。だが、一つ気になる事がある。

 以前のエレノアはレイヴンと同じ戦い方をしていた。なのに今はクレアとの戦いで見せた様な技術に頼った動きに変わっていた。

 人間の体を得た事で感覚が追いついていないのかもしれない。


「あり得るのか……」


 リヴェリアの部下の一人が驚愕の声を漏らした。


 レイヴンが素手で戦う方が強いという事を知っていても、本気のエレノアとカレンを相手に武器も使わず立ち回るレイヴンの姿は異様だった。

 目を凝らしてやっと見えるかという高速戦闘をしているのに、レイヴンの立ち位置は最初に立っていた場所から殆ど動いていない。

 リヴェリアも似た戦い方をするが、レイヴンの場合は相手が動き始める前から次の行動に移っているのだ。後の先どころか、先の先とでも言うべき恐ろしい次元の先読みによって、全て最小限の動きでいなしている。


 二人の攻撃を見事に捌いたレイヴンは一旦距離を取って今度は魔剣を抜いた。

 それでもまだ鎧は纏わない。脱力した様に重心を低くした独特の構えをしたレイヴンの目の色が変わった。


「準備運動はこのくらいで良いだろう。次は俺からも手を出す」


「「……ッ!」」


 レイヴンの姿がブレた後、瞬きすらする間も無くカレンの目の前にレイヴンがいた。

 踏み抜いた地面が崩れる音がズレて聞こえるほどの圧倒的な加速。

 この時点で目で追う事が出来ていたのはシェリルだけだった。


「ぐううぅ……!これしき!!!」


 カレンは燃え盛る手甲でレイヴンの魔剣を受け止めた。

 魔剣の斬れ味はゴーレム種ですら紙切れの様に斬り裂く。カレンは魔力を手甲に集中させる事で強度を増して防いだのだ。


「すまん、少し強過ぎた」


「遠慮は無用だ!私にとっても良い訓練になる!」


「そうか」


 レイヴンは離れ際にカレンの胴を蹴って後方へ吹き飛ばした後、背後から迫っていたエレノアの一撃を振り返りもせずに魔剣で弾き返した。


「なっ……⁈ 」


「驚いている暇は無いぞ。クレアにもこのくらいなら出来る」


 会心の一撃をあっさりと防がれ、驚愕に顔を歪めるエレノアの目の前には既に体を反転させたレイヴンが迫っていた。


「くっ!」


 レイヴンの動きはエレノアが一方的に斬り刻まれた時よりも格段に速い。

 漏れ出す魔力も気配も隠さないレイヴンの動きについていけない。寧ろ気配を隠していない事がレイヴンに有利に働いている。

 大き過ぎる気配のせいで素早い動きのレイヴンを正確に捉える事が出来ない。


「デュランダル!」


 エレノアの声に応えて盾へと姿を変えた聖剣デュランダルがレイヴンの一撃を受け止めた。

 必死に堪えるエレノアであったが、フッと力が抜けて体制を崩しかけた。


「これは…⁈ 後ろ!!!」


 クレアが使った技と同じ感覚を感じたエレノアは、咄嗟にデュランダルの形状を変えて背後を薙いだ。しかし……。


「残念。こういう使い方もある」


「しまっ……!」


 レイヴンは背後へは回らずに、その場で姿勢を低く沈めてエレノアの足をはらって転倒させた。

 咄嗟に崩れかけた体を捻って攻撃の一手としたのは見事な判断だったが、クレアの時は空中での戦闘だった。地上には地上の戦い方がある。


 あっという間に終わってしまっと思いきや、火柱を巻き上げながら起き上がったカレンが、再びレイヴンへ攻撃を仕掛けて来た。


「その姿は初めて見る」


 エレノアへの追撃を中断したレイヴンは、剣の腹でカレンの拳を受け止めた。


「チッ、これも駄目か。私もここまでするつもりは無かったんだけどね、こうでもしなければ戦いにすらならないんだもの。それに、私にも意地があるわ」


「いや、そこまで本気にならなくても……」


 カレンの金色と赤色の目がそれぞれ輝きを増し、肌には竜の鱗、口元には魔物の牙が生えていた。

 レイヴンとしては調整に付き合って欲しかっただけで、殺し合いをするつもりは毛頭無い。


「私もまだ戦えますよ。それに私とて奥の手はあります。まだ未完成ですが、レイヴンが相手ならば思う存分試せる!やりますよ、デュランダル!」


「お、おい…お前まで何を……」


 聖剣デュランダルが強い光を放つとエレノアの魔力が膨大に膨れ上がった。

 全身を覆う青を基調とした鎧には氷の様に美しい装飾が刻まれいる。その姿は神話に登場する戦乙女の様な佇まいだ。

 可憐でいて力強く美しい。凛々しい表情も絵になっている。


「「「おおお……」」」


 これには見ていた男達も感嘆の声を漏らした。


「え?あ、これは……ありがとうございます」


「ちょっと、あんた達!私の時には何も言わなかったじゃない!」


 エレノアが恥ずかしそうにお礼を言ったのに対して、頬を膨らませて怒りを露わにしていた。どうやら自分も褒められたかったらしい。カレンにしては珍しい反応だ。


「いや、カレンは可愛いって言うより綺麗って感じだけどさ、燃えてるじゃん」


「お!ルナ、よく言った!」


「「カレンも可愛いわよ〜!」」


(おお、炎の勢いが増した……)


 カレンはシェリルとステラの声を聞いて顔を真っ赤にして俯いていた。隠しているつもりなのだろうが、口元が少しにやけているところを見ると嬉しい様だ。


「馬鹿ランスロット!後で覚えときなさいよ!」


「俺だけかよ⁈ 」


 カレンが手甲を打ち鳴らして再び緊張感が戻って来た。

 レイヴンは、二人がこのまま戦闘を止めるかと思っていたのにまた戦う姿勢を示した事に溜め息を吐いた。


「まだ続けるのか?おかげで、もう調整は終わったんだがな……」


「あら、だったら丁度良いじゃない?」


「ええ、本気のレイヴンが相手でなくては力試しになりません」


 レイヴンは結界を張っているシェリル、ステラ、ルナの三人が頷いたのを確認して戦闘続行を決定した。


「仕方ない……これを見て、まだ戦う意志があるなら相手をしてやる。そこから先は責任は持てないからな」


 ーーードクンッ!!!


 桁外れの魔力の重圧と共に、レイヴンの赤い目に闇が堕ちた。



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