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幕開け

 レイヴン達は、アルフレッドの案内で妖精森の深部へとやって来た。


「「太ッ!世界樹の根、太ッ!」」


「地下にも平野と森があるだなんて……」


「圧巻ね……」


 世界樹の木の根は地上から降り積った土を支えて空間を作り、地下に幾層からも成る広大な地下世界を形成していた。


「世界樹の根は遥か上空から空気と太陽の光を取り込んでいます。なので、地上の様に夜は訪ずれないのですよ。とは言え、地上が夜である間は魔物が発生するのは同じです」


 ついて来たリヴェリアの寄越した部下達もこの世の物とは思えない壮大な景色に魅了されていた。

 ダンジョンには時に不思議な空間が発生している事がある。それも説明の出来ない現象ではあるのだが、これはあまりにも想像力を超越した景色だった。


「この辺りで良いでしょう」


 アルフレッドが示した場所は地下の中でも一番開けた場所だ。


 エレノアが持って来た魔鋼人形はエレノアに使用していた予備部品から組み立てた物で、素材はどれも一級品だ。

 ただし、当然ながらエレノアやユッカと違い、生身の部分は一切無い状態だった。これではいくらレイヴンでもどうしようもない。


「ランスロット、頼めるか?」


「おうよ!活きの良い奴を連れて来てやるよ!」


「小型の魔物で良い。肉体を作るきっかけにさえなれば十分だ。くれぐれも殺すなよ。魔核は……」


「鮮度が大事なんだろ?分かってるって」


「なら私も行くわ。追い込みなら人数は多い方が良いから」


「ああ、頼んだ」


 森の奥へと入って行った二人を見送ったレイヴンは、魔剣の力を発動させた。


 ーーードクン。


 漆黒の鎧に美しい四枚の白い翼。

 ただそこに立っているだけで息が詰まりそうな程の重圧が押し寄せて来る。


 リヴェリアの部下達もレイヴンの黒い鎧姿は何度か見ている。

 昇格試験の模擬試合でリヴェリアと戦った時のレイヴンも凄まじかったが、あの時以上の力を感じる。

 しかし、レイヴンの持つ超常の力の理由を知ったクレア達にとってはそうでは無かった。

 力が大きくなる度にレイヴンの命は確実に終わりに近付いているのだ。


『来た……』


 ずっと沈黙していた翡翠が地上を見上げて呟いた。


「此処ならと思っていたのですが、どうやら甘かった様ですね」


「その様だな」


 異変に気付いているのは二人と、レイヴンだけ。

 シェリルは魔剣の中へ戻ってその時に備えている。


 世界樹によって支えられていた天井が揺れて一部が崩落し始めた。

 隙間から這い出て来た物体は白い翼を持った魔物だった。


『さて、こうも動きが速いとはのう。奴等は余程シェリルの復活を阻止したいらしい。ルナよ、やり方は分かっておるであろうな?』


「まあね。無茶振りもいいとこだけど、やってみせるよ。けど、準備に少し時間がかかるんだ。翡翠こそ頼んだよ?」


『ふふふ、誰に言っておるか。妾は精霊の王ぞ』


 何をしようというのか、翡翠とルナは互いに手を握り合って目を閉じて意識を集中し始めた。



「レイヴン。フローラ様、そしてあの国の皆を救ってくれた恩を今返します。こちらは任せて下さい。絶対に邪魔はさせませんから」


「気にするな。しかし、お前は剣を持ってはいない様だが?」


 魔鋼人形を運んで来たエレノアは丸腰の状態だった。

 いくらエレノアが強くても、流石に素手で戦うのは無理がある。


「剣なら竜王様が貸し与えて下さいました。私には過ぎた剣ですが、これであれば相手が神や悪魔であっても遅れを取る事はありません」


 エレノアはレイヴンの問いに笑顔を見せると、嵌めていた指輪にそっと口付けをして叫んだ。


「さあ、目覚めなさい!デュランダル!」


 眩い黄金の光がエレノアを包むと、何持っていなかった筈の手に美しい装飾が施された剣が現れた。


 周囲を満たす圧倒的な聖の魔力に、集中していた翡翠も感嘆の声を上げた。


『ほう……それは正しく聖剣デュランダルじゃ。まさかリヴェリアに託しておったとは、あの頑固ジジイもいよいよ腹を括ったという事か』


 天空に住む竜人族は、自分達の持つ強大な力が利用されない様に、これまでずっと中立の立場を貫いて来た。

 竜人族の長ダンが聖剣を託したという事は、竜人族の命運をリヴェリアに託したのと同義。最早後戻りは出来ない、するつもりは無いという意思表示だとも受け取れる。


 過去の一件でリヴェリアの精神が壊滅的なダメージを負った際には、竜人族の怒りが天災となって下界に降り注いだ。

 その怒りは神と悪魔であっても鎮める事は出来なかったという。

 そして、その怒りを鎮めたのは何処からともなく現れたマクスヴェルトだった。


「竜人族秘蔵の聖剣。なるほど、これならば……。では、私からは翼を授けましょう。魔物混じりでありながら聖剣に選ばれた貴女ならば、直ぐに使いこなせる筈」


 アルフレッドが手を一振りするとエレノアの背中に妖精と同じ透明な羽が生えた。


「これは有難い。使わせて頂きます!」


 聖剣デュランダルを手に、美しい羽を携えたエレノアは、その名の如く光を纏っている様だった。


「私も戦う!いくよ!エターナル!」


「駄目だ。クレアはミーシャ達と待機だ」


 エターナルと名付けた生まれたばかりの魔剣を抜きはなったクレアをレイヴンが制止した。


「どうして⁈ 私だって戦えるもん!足手纏いになったりしないよ!」


「駄目だ!大人しくしていろ!!!」


「……ッ⁈ 」


 戦いに向けて戦意が高まる中、レイヴンの怒声が響き渡った。


 これにはクレアも驚いて立ち尽くしていた。

 ようやく認めて貰える様になって来た矢先、これからが大事な戦いだという時に役に立て無いだなんてショックが大き過ぎた。


「……私が、弱いから?」


「違う」


 クレアが声を絞り出す様にした問いかけもあっさりと否定されてしまった。


「じゃあどうして⁈ 私だって戦えるのに!レイヴンの役に立てるのに!!!」


 いっそのこと足手纏いだとはっきり言われた方が納得出来る。

 けれども、レイヴンはそれ以上クレアの事を見ようともしなかった。


「クレアちゃん、此処はレイヴンさんの言う通りにしましょう。大丈夫。クレアちゃんの力はレイヴンさんだって認めてくれたんですから。きっと何か考えがあるんですよ」


 ミーシャはレイヴンに目配せをして、クレアと一緒にリヴェリアの部下達がいる場所まで下がった。



「良かったのですか?クレアの戦いぶりは私も微かに覚えています。あれだけの実力があるなら足手纏いには……」


「駄目だ。この戦いにクレアは参加させ無い」


「ですが……」


「もう決めた事だ」


 レイヴンの態度にはルナも驚いた様子だった。

 クレアの事を心配しているのは理解出来る。この場にはカレン、翡翠、アルフレッド、エレノアという強大な力を持つ者がこれだけ集まっているのだ。無理に戦わせる必要は無いにしても、今のクレアなら戦力として十二分に活躍出来る。


「レイヴン!」


 丁度そこへランスロットとカレンが狼の姿をした魔物を追い立てながら戻って来た。


 これで準備は整った。

 天井を突き破って侵入して来た魔物はエレノアとアルフレッドが倒してくれるだろう。


「始めるぞ」


 ーーードクン!


 レイヴンは魔剣へと意識を集中させてシェリルの存在を明確に認識する様に努めた。


 既に自分の肉体を失っているシェリルの魂を魔鋼人形と魔物の血肉を使った体に移し替える。それには先ず、魔物の体から共鳴を誘発させる為の魔核を取り出す必要がある。


 ーーーレイヴン。クレアの事、皆んなに話さなくて良かったの?


「やるなら今しか無い。シェリル、今は自分の事に集中しろ」


 レイヴンは魔物へ急接近すると同時に魔物の頭を切り落とし、貫手を放つ様にして魔物の体を貫くと魔核を鷲掴みにして取り出した。


 これからやろうとしているのは疑似的な魔物堕ちの再現だ。

 本人の肉体が全く無い以上、シェリルの持つ生前の姿のイメージが何より重要になる。そしてもう一つ、血縁者であるレイヴンの血を使う事で肉体を再現する足しにする。


(くっ……いつ聞いても耳障りな音だ)


 共鳴が始まった。


 レイヴンは魔核を持った自分の指を噛み切って、魔核へ自分の血を染み込ませていった。

 後はそれを横たえてある魔鋼人形の魔核へ重ねれば準備完了だ。


 暴走を始めた魔核はレイヴンの狙い通り魔物の肉を吸収して増大を始めた。


 意思を持たない筈の肉の塊が魔鋼人形をも取り込んだ時。

 凍り付く様に冷たい声がレイヴンの耳元で囁いた。


「それは駄目。私の願いとは違うもの」



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