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動き出した二人

 皆の了承を得た事で、レイヴンは自らが進むべき道を明確に見据えた。

 踏み出した先が茨の道でも、少なくとも暗闇では無い。


「なあ、一つはっきりさせておきたいんだけどよ。つまるところ、魔物混じりは世界の均衡が崩れた影響で生まれたって認識で合ってるか?」


 ランスロットの疑問はクレア達も感じていた。


 シェリルの昔話の中には“流民” という聞き慣れない言葉が出て来た。現在よりも人々は自由に旅をする事が出来ている状況を考えれば、魔物混じりや強力な魔物がいなかった、或いはそれ程多くは無かったと思われる。

 魔物混じりという特異な存在が世界の均衡が崩れた事で発生したのではないかというランスロットの疑問は当然とも言えた。


「それは……」


 シェリルとしても自分達の行いが原因で魔物混じりが生まれる様になった可能性には気付いていた。


 その不安は精霊王翡翠と妖精王アルフレッドの二人によって否定された。


『一概には言えぬ。魔物混じりが増えたきっかけとなった可能性は否定出来ぬが、魔物混じりとはある種の突然変異に近いものとでも言うべき事象なのじゃ。昔から一定数存在しておった』


「そうですね。確かに魔物混じりは少数ではありますが、世界の均衡が崩れる以前から存在していました。これは勘違いされ易いのですけれど、魔物混じりは何も人間に限った事だけではありません」


「人間だけじゃ無い?どういう事だそりゃ?」


「馬鹿ランスロット……私は魔物混じりだけど竜人よ」


「あ……」


 アルフレッドの話によれば、そもそも魔物混じりとは人間が呼び始めた呼称であって、他の種族、又は植物や動物に至るまで魔物の血を持つ存在は昔から一定数存在しているそうだ。

 その殆どが魔物堕ちという症状によって自滅してしまう為、子孫が産まれる事、生き残り次代へと生命が受け継がれる事は非常に希な事なのだそうだ。


 例えば、レイヴンは第一世代の魔物混じり。

 魔物の血が濃く、抵抗力の無い人間の体と血では、まず存命する事は不可能とされる。


 レイヴンの場合は魔物の血と神に連なる聖の血が混同している非常に特殊な事例だ。ただし、魔神という魔の直系の血と、神とは言え眷族の血とではバランスが保て無い。その為にレイヴンは魔物の血が非常に濃い状態となっている。


『レイヴンが非常に強大な力を持っている理由の一つじゃが、全てでは無い。あくまでもレイヴン自身の成長の結果じゃと付け加えておく』


「戦いを望んでいなかったとしても、戦い続けた事で魔物の血に抵抗する為の肉体と精神が鍛えられたと言えるでしょう」


 そして、ミーシャの様に子孫へと血が受け継がれる過程で魔物の血が薄くなった世代は第十三世代に当たるのだそうだ。


「十三世代?そんなに続いているんですか?でも、うちってそんなに長い家系じゃ……」


「これはあくまでも変異の段階を示す物です。直接的な家系とは関係ありませんが、世代を重ねる毎に魔物への抵抗力を獲得した人間が生まれました。これは人間特有の進化と言えますね。他の動植物にはこの進化が無かった為に殆どが絶滅しましたから」


『マクスヴェルトの展開した世界を隔てる壁によって、中央大陸は閉鎖された土地となった。その中で時間を巻き戻しレイヴンが生き残る可能性を模索した結果、これ迄に無い新しい可能性を獲得するに至ったと考えられる』


「何だか難しくてよく分からないです……」


『絶望からは確実に遠ざかっておるという事じゃ。そして、それを可能にしたのはおそらく……』


「願いを叶える力、か」


『そういう事じゃ』


 シェリルから受け継いだ願いを叶える力は無意識のうちにレイヴンの思想を反映していたのではないか、というのが翡翠とアルフレッドの出した仮説だった。


 皆がそれぞれに納得している中で、ミーシャは腕を組んで難しい表情を浮かべていた。


「どうした?まだ何か引っかかるのか?」


「あの……世界を変える事が世界を敵に回す事になるなら、リヴェリアちゃんやマクスヴェルトさんがやっていた事はどうなるんですか?今まで驚く事ばかりで、“そうなんだ” って思ってましたけど、それって変ですよね?何度も時間を巻き戻しているって……」


『それはマクスヴェルトが世界を騙しておるからじゃよ。執念……いや、愛情か。奴はこの世界には無い概念の魔法を使って、世界中に存在する眷族と繋がりを持つ妾すらも欺いておる。妾が説明するまでも無く、その内分かるじゃろう』


「はあ……」


 この場で意味が分かっているのは翡翠だけ。

 アルフレッドもシェリルも心当たりが無い様だった。


 ーーーーコンコン。


 アルフレッドが扉を開けると、随分と小さな妖精がひらひらと蝶の様に部屋に入って来た。


「客?そんな予定は無いはずだが……。失礼。少し外します」


 小さな妖精から用件を聞いたアルフレッドは少し慌てた様子で部屋を出て行った。





 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 中央冒険者組合の一室。

 普段はあまり使われる事の無い会議室には、任務で帝国へ行っているライオネット、ガハルド、ロイの三名を除くSSランク冒険者達が集まっていた。


 最後にコツコツと小気味良い靴の音を響かせて部屋に入って来たのはリヴェリアとマクスヴェルトだ。


 リヴェリアは子供の姿でも赤い髪の女性の姿でも無い、金色の髪が美しい神々しい姿で現れた。


「皆、忙しい中よく集まってくれた。既に事情を聞いている者も、そうで無い者もいる事だろう。だが、今は詳しい事情を説明している余裕が無い。ここに外界の各国に宛てた手紙がある。諸君らは三つの班に別れて各国へ向かって貰いたい」


「じゃあ、班分けと作戦概要を書いた紙を配るね〜」


「これは……⁉︎ 」


「ずっと部屋に籠もっていたのはこの為だったんですね……」


 最初は大人の姿になったリヴェリアの雰囲気に戸惑う者が多かったが、彼等はマクスヴェルトから配られた紙を見て表情を引き締めた。


「なるべく戦力を均等に割り振ったつもりだが、一部偏りがあるのは現地の状況や環境を考慮した構成にもなっているからだ。では、各班のリーダーを発表する。北のニブルヘイムへはユキノ、東の魔鋼人形の国へはフィオナ。南の妖精の森へはマクスヴェルトを其々リーダーとして向かってもらう」


「驚いたと思うけど、これは遠くない内に起こり得る事なんだ。僕達はこれに備えて各国へ支援に行く。現地への移動に関しては僕の転移魔法を使うから大丈夫。何か質問があるかい?」


 リヴェリアの部下達は困惑した表情でお互いに顔を見合わせていた。


 質問も何も、全てが唐突過ぎて何から聞けば良いのか全く分からない。

 マクスヴェルトから渡された作戦概要を見る限り、各地で大規模な戦闘が発生する可能性があると書かれてはいるが、その相手が予想の斜め上を行っていたのだ。


「あの、お嬢。私達は何があってもお嬢について行きます。それは此処に集まった全員が同じ気持ちです。ですが……」


 ユキノが代表して声を上げたが、流石に動揺を隠し切れない様子だった。


「不安は分かるよ。でもこれは確定事項って訳じゃ無いんだ。あくまでも予想で、保険なんだ。けど、その可能性はかなり高いと見ている」


「相対予想される敵は、不特定多数の神と悪魔。この一文で何が起ころうとしているのかは察しはつきますけれど……あまりにも……」


「今回の件はレイヴンの持つ魔剣“魔神喰い” に関する伝承に基づいた物だ。皆も先日聞いただろう、世界に響く咆哮を。大気を揺るがす鼓動を。当然、神も悪魔もその事に気付いている」


「まさか、標的はレイヴン……」


「そうなる。悔しいが、我々がレイヴンにしてやれる事は限られている。何しろレイヴンは最強の魔人で最強の冒険者だ。下手に戦闘支援をしようとしても足手纏いになるだろう。故に、レイヴンが戦闘に集中出来るように可能な限り敵を排除する」


 御伽話としてすら語られる事の無いあの戦いは実際に起こった事で、リヴェリアも当事者の一人だ。しかし、それを今説明した所で余計な混乱を招くだけだ。


「レイヴンの強さは皆知っています。しかし、いくらレイヴンでも一人で戦うなんて……」


「一人じゃ無いよ。今のレイヴンは一人じゃない。君達も僕達もいる」


 マクスヴェルトの言葉に、俯きかけていた皆が顔を上げた。

 本人は覚えていないだろうが、皆レイヴンには何度も依頼で助けられた事がある。無口で無愛想な冒険者レイヴンの在り様は彼等一流と言われるSSランク冒険者の中でも一つの理想となっている。憧れているのはランスロットだけでは無いのだ。


「私を信じてくれる皆に満足のいく説明をしてやれない事を詫びさせて欲しい。だが、この難局を乗り切れば世界が大きく変わる。こういう物言いは好きでは無いのだが……」


 これからやろうとしている事は世界を相手にした戦争だ。

 リヴェリアの予想が合っていれば、そろそろレイヴンが世界の改変について何か答えを出している頃だ。


「今更何をビビってるのさ。あれだけ準備して来たんだ。ビシッと言っちゃいなよ」


 リヴェリアは大きく息を吸い込んで告げた。


「竜王リヴェリアの名において命ずる!各地へ赴き、戦闘指揮をとれ!相手が神だろうが悪魔だろうが、この世界は我々人間の物だ。民を守り、敵を排除せよ!奴等の好きにさせるな!」



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