表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
216/313

精霊魔法

 レイヴンの反応が最も強い場所を探し当てたルナとミーシャは、大樹の壁面を垂直に空へと向かって滑空を続けていた。


 大樹に近付いてみて分かったのは、大樹の至る所が淡く光って脈打っている事だ。


「ルナちゃん、これってもしかして……」


「多分だけど、樹液が魔力を帯びてるんだ。こんなに大きな木がどうやって存在していられるのか不思議だったけど、成る程これなら維持していられる訳だ」


 分厚い雲を突き抜ける。


 太陽の光を浴びて少し体が温まって来た。

 驚いた事に大樹はまだ先が見えない。


「レイヴンさんの反応がまた強くなりました!もう直ぐです!」


「でも、これって何か変じゃない?あちこちからレイヴンの反応がする」


「え?」


 レイヴンの反応は確かに木の中からする。

 やはり何かしらの結果に覆われているからなのか、魔力の反応が弱くて正確な場所が特定出来ない。


「せめてレイヴンが暴れてくれたら正確な場所が分かるのに」


「まさか、いくらレイヴンさんでもそんな無茶は……」


 ミーシャ言いかけた時、大樹がミシリと音を立てて僅かに揺れた。


「……?」


 “こんなに巨大な物体が揺れるだなんて” そう思った矢先。今度は木の中から尋常では無い大きな魔力の反応がした。

 こんな馬鹿げた魔力はレイヴン以外にあり得ない。


「ミーシャ!あそこだ!ツバメちゃんを横に着けて!」


「は、はい!」


 ツバメちゃんの背中で立ち上がったルナが魔剣を構える。


 魔剣の主であるレイヴン以外には魔剣の力を使う事は愚か、触れる事も出来ない。だが、かつて魔剣の素材にされていたルナであれば触れる事は出来る。


「さあ、お前の主の元へ行け!レイヴンを頼んだよ!!!」


 ーーードクン。


 ルナは声に応えた魔剣を大樹に向かって力一杯に投げた。


 ゴツゴツした木の表面に刃が触れると、刃先を中心に蜘蛛の巣の様な亀裂が走った。


「や、やった!やりましましたよルナちゃん!」


「いや、まだだ!やっぱり僕じゃ魔剣の力が全然引き出せない!あれじゃあ結界を壊す前に止まってしまう!」


 魔剣は結界を食い破る様にゆっくりと木の中へと向かっていた。けれど結界を完全に突破するには後もう一押しが足りない。


「ルナちゃん、ツバメちゃんにしっかり掴まって下さい!」


「え⁈ ちょ、何する気⁈ 」


「こうするんですよ!ツバメちゃん!」


「くるっぽ!」


 ミーシャの合図で少し距離を取ったツバメちゃんが、魔剣に向かって勢いよく突っ込んで行った。


 魔剣の柄をツバメちゃんの足が完璧に捉えると、魔剣は勢いを取り戻して一気に結界を突き破った。


「やった!成功だよミーシャ!やるじゃんツバメちゃん!」


「や、やりました……。でも……」


「ミーシャ?」


 肩で大きく息をするミーシャの顔から血の気が引いて、汗をびっしょりとかいていた。


「ごめん……なさい。思ってたよりも魔力が……吸われちゃった、みたいで……もう……」


 ミーシャが意識を失うと同時に召喚されていたツバメちゃんも姿を維持出来なくなって消えてしまった。


「全く……無茶するんだから。でも、そういうとこ、嫌いじゃないよ」


 ルナはミーシャの鞄から魔力回復薬を取り出して口に含むと、ミーシャの口に流し込んだ。


 地上に落下する迄にどの位の猶予があるのか分からない。


 襲ってくる浮遊感の中で、ルナは慌てるでも無く気絶したミーシャを強く抱きしめて覚悟を決めた。


「絶対に助けてみせる!死なせるもんか!」


 ルナは目を閉じて意識を集中させる。


 体に残された魔力は残り少ない。

 カレンの加護のおかげでどうにか持ち堪えている状況だ。下手をすればルナまで意識を失って、なす術も無く地面に激突してしまうかもしれない。


「それでもやるしか無い!」


 目を開けたルナの目は赤い輝きを増していた。体に残されたありったけの魔力を掻き集めるには魔物の力を限界まで高める必要がある。


 レイヴンの力によって新しい体を得た人間は二度と魔物堕ちしないだろうとマクスヴェルトが言っていた。けれど、魔物の血は変わらず体の中を流れている。

 であれば、魔物堕ちと同じ状況を故意に発生させる事も可能な筈だ。


「ぐぅっ……!ぼ、僕だって誰かの役に立てるんだ!」


 限界を超えて魔力を行使するルナの体は悲鳴を上げて血を流し始めた。

 体の中で魔物の血が暴れているのが分かる。それでも止める訳にはいかない。


 少しでも魔力消費を抑える為に魔法詠唱を始めた。


「この世界に数多存在する精霊よ!我が呼び声が聞こえるなら応えよ!我が名はルナ!汝らとの契約を望む者也!開け!精霊界の門!僕の全魔力をくれてやる!誰でも良い……!ミーシャを!僕の仲間を助けて!!!」


 即席だが、これでかなり魔力消費を抑えられた筈だ。


 ミーシャは言った。

 魔物混じりであっても、想いが届けば精霊は応えてくれると。

 精霊や妖精といった、魔物の血と相性の悪い聖の存在が相手でも契約に至れると証明してみせた。


 けれど、ルナの展開した魔法陣は何の反応も示さないまま霧散してしまった。


 あれだけ遠かった地面がもう直ぐそこまで迫っている。


「開け!開け!開け!!!これっきりで良い!誰か応えてよ!僕はどうなっても良いから、せめて……!せめてミーシャを……!」


 やはり無理なのか。

 同じ魔物混じりでも、魔物の血の濃いルナには到底不可能な魔法だったのだろうか。


 せめて自分が下敷きになろうと体制を入れ替えようとした瞬間。

 ルナは白い闇に取り込まれた。



「うう……ミーシャ⁈ ミーシャは何処⁈ 」


『無茶をする。妾が助けねば死んでおったぞ?』


 真っ白な世界の中に美しい翠色のドレスを着た女が、豪華な装飾の施されたソファーに横たわっていた。


「ミーシャは何処⁈ 助かったの⁈ 」


 女は自分のぼろぼろになった体の事よりも、真っ先にミーシャという名の少女の身を案じる魔物混じりの少女を見て目を細めた。


『落ち着け小娘。主らは未だに落下しておる最中。此処は妾の世界じゃ。時間は流れておらぬ』


「落下してる最中だって⁈ そうか……!お願いだ!あ、いや、お願いがあります!ミーシャを助けて下さい!僕と契約しなくても良い!残り少ないけれど、僕の全魔力をあげます!だからッ!ミーシャを!ミーシャを助けて……」


 女はゆっくりと体を起こして座り直すと、必死に頭を地面に擦り付けて懇願する魔物混じりの少女に言った。


『足りぬな。お前の今の魔力などたかが知れておる。妾を使役する対価にはとてもとても……』


 ルナはビクリと体を震わせた。

 目の前の女はおそらく精霊だ。奇跡的に繋がっている今、女の力を借りれなければミーシャは助からない。


「僕に差し出せるのはもうこの僅かな魔力しかないんだ……。お願いだ…ミーシャを助けてくれるだけで良いんだ……」


『何故、自分を助けろとは言わない?対価を払うのは主じゃぞ?どうしてそんなにあの娘を助けたがる?』


 返答を間違えてはいけない。

 これが最後のチャンスかもしれないのだ。


「ぼ、僕は……」


 何と答えるのが正解なのか分からない。

 その時だ。焦るルナの脳裏にレイヴンの姿が浮かんだ。


(そうだった。僕はいつだって馬鹿正直なレイヴンの背中を見て来たんだった……)


 レイヴンは嘘を吐かない。

 たまにしょうもない嘘を吐こうとしても、絶対に顔に出てしまう。

 そんな、いつだって自分に正直なレイヴンの事が好きだ。


「ミーシャは僕の仲間だ。それに、生まれて初めて出来た友達なんだ。だから助けたい!理由はそれだけだ!」


『その為に命を賭けると?あはははははは!』


「な、何がおかしい!僕にとっては命を懸けるだけの大事な事なんだ!お前なんかに笑われる覚えは無い!!!」


 笑っていた女はピタリと笑うのを止めてルナの目を真っ直ぐに見つめた。


(しまった、言い過ぎた。……怒らせたか?)


『誤解するでない。主の覚悟を笑った訳では無い。ただ、この子の言っていた通りだと思ってな……』


 いつの間にか女の肩に見覚えのあるまん丸な体をした小鳥が乗っていた。


「ツバメ、ちゃん……?」


『愉快な名前よな。どう見てもハトであろうに……。じゃが、この子は大層あの娘の事を好いておる。妾を呼んだのはこの子じゃ』


「な、なら!ツバメちゃんの力を貸してください!」


『それは出来ぬ』


 女は無情にも藁にもすがる思いのルナの願いを退けた。



本日中にもう一話投稿します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ