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パーティー結成

 

 一人で森に入って行ったレイヴンを密かにつけていたカレンは、レイヴンが何者かと話しているのを聞いていた。


(レイヴンらしい言葉だ。だけど、相手は誰?)


 相手の言葉は聞こえなかった。レイヴンの話していた内容からして相手はシェリルでは無いと分かる。気掛かりなのは謎の話し相手の事だ。

 遠く空を見上げた様に話すレイヴンの横顔には苛立ちと怒りが透けて見える。

 感情を表に出さないレイヴンが戦闘以外で感情を露わにするのは珍しい。


 話が終わったらしい。

 カレンはレイヴンを探しに来た風を装って話しかける事にした。


「レイヴン。どうした?眠れないのか?」


「カレン……いや、少し風にあたりたかっただけだ。もう戻る」


「そうか。なら一緒に戻ろう」


 二人は揃って他の皆が野宿している場所へ戻る事にした。


 何を話す訳でも無い。

 カレンの少し後ろをレイヴンが歩く。


(そう言えばレイヴンと二人きりになるのは初めてよね)


 カレンの元にレイヴンを連れて来たのは当時から腕は確かだがお調子者で有名だったランスロット。レイヴンの方は無口で無愛想。けれど、魔物を倒す事にかけては他の追随を許さない圧倒的な強さだと、カレンの部下の間でもよく話題に上がっていた。

 レイヴンがシェリルの忘れ形見だと気付いた時には激しく動揺したが溢れそうになる感情をどうにか抑え込んだものだ。


 噂通りレイヴンの持つ個の力はズバ抜けていた。

 魔物を見つける嗅覚、危機察知能力、相手の弱点を瞬時に見抜く観察眼と勘の良さ。冒険者としてと言うよりも、戦う為に必要な技術と能力を併せ持つ獣。そういう雰囲気を纏っていた。

 けれども、地形や数の不利も物ともしない荒々しく時に無謀な戦い方を見て悟ってしまった。レイヴンは生きる為に戦いながらも、死にたがっている様に感じられたのだ。

 生きる事生き抜く事は、それ自体が目標であり目的だ。決して当たり前などでは無い。

 生きようとしない者が生きていけるほど世界は甘くない。しかし、レイヴンには本当の意味で目的が無い様に思われた。

 何者でも打倒し、困難があれば振り払う。それはレイヴンの強さである事に違いないが、剣の一振り、足の運び、どれも死と隣り合わせの狂気を孕んでいた。


 マクスヴェルトからレイヴンの生い立ちにつて聞いて時、ようやくレイヴンが死に急ぐ理由が分かった。

 その過程が酷く険しかったからでは無い。

 レイヴンの手にした力が大き過ぎるからだと分かったのだ。


 生きる為に磨いた牙は、ある時から肉を引き裂く行為に然程の力を必要としなくなった。


 何事も程々が丁度良いし、限度という物がある。

 切れ過ぎる包丁や剣が、まな板や骨を僅かな力で傷つけてしまう様に、必要以上の切れ味は必要無い。それでは余計な物まで傷付けてしまうからだ。


 そうだ。レイヴンは強くなり過ぎたが故に生きる事を持て余していた。

 生きる為の必死さを失った訳では無い。いつだって生きる事には真剣に向き合っていると感じた。けれど、大きくなり過ぎた力はレイヴンから生き抜く目的を奪っていくのに十分だったのだ。

 おそらくは無意識の事だろう。しかし、反面良い効果もあった。

 人間らしい生活に近づくにつれて、周囲の事にも関心を持つ様になった事だ。これまでレイヴンに助言をして手を差し伸べてくれた人達の存在も忘れてはならない。


「クレアやルナはお前が居なくなるとうるさいからな。勝手に何処かへ行かないでやってくれ」


「ああ、そうだな……」


「レイヴン?」


 不意にレイヴンの声が途切れたのを不審に思ったカレンが振り返ると、そこにはレイヴンの魔剣だけが残されていた。


「嘘でしょ……冗談はよしてよね……。レイヴン!何処だレイヴン⁈ 」


 慌てて周囲の気配を探ってみたが、レイヴンは完全に気配ごといなくなっていた。

 それどころか、昼間あれだけ妖精の気配に満ちていた森が魔物の気配で溢れかえっている。


 穏やかだった森は瘴気で満ち、木々は瞬く間に枯れ果てていった。


「カレン!」


「ランスロット!それに皆も無事か!」


 異変に気付いたランスロット達がカレンの気配を追って来た様だ。

 皆無事な様だが、森の急激な変化に戸惑っている様子だ。


「カ、カレンちゃん、これは一体……?」


「「レイヴンは⁈ レイヴンは何処⁈」」


「分からない。ほんの今まで一緒にいたんだけれど、気が付いたら魔剣を残して居なくなっていた」


「何それ⁈ レイヴンまた僕達を置いて先に行っちゃったって事⁈ 」


「私、探しに行って来る!」


「待て!!!」


 ランスロットは飛び出して行こうとしたクレアの腕を掴んで制止した。


「離して!レイヴンを探さなきゃ!」


「落ち着けって!レイヴンはもうお前達を置いて行ったりしない。あいつが居なくなった事と、この森の急激な変化には何か関係がある筈だ。今俺達がバラバラに動くのは危険だ。お前も冒険者を名乗るならパーティーを組んでる意味を思い出せ」


 レイヴンはもう二人の事を認めている。

 単に大切な存在としてだけでは無い。共に戦う仲間としてだ。

 魔物堕ちした女王との戦いもフローラの国での戦いも、一歩間違えれば死にかねない危険な戦いだった。

 二人の実力が非常に高い次元にある事を考慮しても以前のレイヴンなら二人に危険な戦いをさせたりはしなかっただろう。それを許したという事は、レイヴンの二人に対する信頼の証である事は明白だ。


「……ごめんなさい」


「気にすんな。分かれば良いんだ。ルナも良いな?」


「わ、分かってるよ……」


 パーティーを組むメリットは多い。如何に個の力に優れていようとも、足りない部分を仲間同士で補った時の方が目の前の敵に集中出来る分、疲労もストレスもかなり軽減される。一人では勝てない敵であっても生存確率を高める事だって可能だ。


 リヴェリア、マクスヴェルト、カレン、そしてレイヴンの四名は単独での戦闘において、パーティーからの支援を必要としない規格外の実力者だ。

 だとしても、カレンに至っては集団を率いる団長として突出した能力を持っているし、リヴェリアも形は違えど、ダンジョン攻略となれば多くの冒険者を率いて潜る事に躊躇は無い。

 竜人の性質なのかは知らないが、どちらも人を操る術に長けている。


 単独行動の目立つマクスヴェルトとレイヴンもパーティーの有用性を理解している点では同じだ。

 つまり、どんな強者であってもパーティーを組むメリットの重要性を強く理解しているという事だ。


「単独行動は絶対に駄目だ。全員でレイヴンを捜しに行く。ミーシャを中衛にして陣形を組んで先へ進もう」


 皆、異論はない様だ。

 ランスロットは皆が頷いて了承したのを確認して話を続けた。


「ルナはミーシャから離れるなよ。この森の中で魔法を使うリスクが僅かでもある以上は戦力として考える訳にはいかないからな。お前が倒れたら回復手段がミーシャの作った薬しか無くなるのを忘れるな」


「うん、分かった!」


「き、緊張して来ました……」


 ミーシャが作った薬の効果は高いが、即時回復という訳では無い。それに、魔法が使えないと言っても、危険を避ける為の様子見だ。万が一の場合にはルナの魔法が頼りになる。


「心配すんな。俺達が守ってやるから、どっしり構えてろ。それから、クレアも中衛だ。中衛の守りと前衛と後衛のカバーをやってもらう。役割が多いけど、俺達の中で一番身軽なのはクレアだからな。周囲の警戒を怠るなよ」


「は、はい。でも……」


 クレアの直接戦闘能力は既にランスロットをも上回っている。それでもクレアを中衛に置くのには理由がある。


「前衛に必要なのは敵への先制攻撃ともう一つ、敵を自分に引き付けて背後にいる仲間達へ矛先が向かないように壁となって受け止める事だ。スピードよりも耐久力、持久力が重要になる場面が多いからな。私もクレアは中衛が良いと思う」


「な、なるほど。分かりました」


 クレアの戦闘能力は頼りになるが、体の小さいクレアでは壁の役割が果たせない。


「いいか、パーティーを組む以上は単独行動は厳禁だ。例え単独で倒せる敵であっても、リスクを分散させる為に一人で全部片付けようとはするな。余計な体力の消耗は命取りになる。その辺もきっちり頭に入れとけよ」


 クレアもそれなりに持久力がある方だ。だがそれは一対一の場合だ。パーティーでの体力の配分とは違う。


「では、私が先頭に立とう。まだ仮定だが、レイヴンを連れ去った程の相手となると、ランスロットよりも私の方が適任だろう」


 まったくもってカレンの言う通りだ。

 レイヴンを連れ去った相手となると、ランスロットの実力では心許ない。

 同じ程度の実力者に言われたなら、自分の方が弱いとでも言うのかと食って掛かるところだが、カレンが相手では反論の余地は無い。

 けれど……。


「いいや、先頭は俺がやる。んで、一番ケツの後衛はカレンだ。言ったろ?リスクを分散させるって。仮に、本当に仮でしかない話だが、レイヴンよりも強い相手だったとして、相手の正体も掴めない内に俺達の中で一番強いカレンが倒される様な事があったら困る。だから先頭は俺だ」


 カレンはランスロットの言葉を聞いて満足そうな顔をしていた。


 ランスロットが弱いと言いたいのでは無い。レイヴンと同じく、強さに拘って単独行動ばかりしていたランスロットが、パーティーを組む意味を理解していたからだ。

 パーティーを組む事で生存確率を上げる。これはメリットであっても、最大のメリットとは少し違う。


 全滅を避ける。

 これが肝心なのだ。


 どんなに念入りに事前の準備をしても、全員が無事とは限らない。相対した敵によっては、一人でも生き残って生還するという選択肢を迫られる。この時に情報を持ち帰る者が最低でも一人は必要になる。



「良いだろう。では次にリーダーだ。私はランスロットを推薦する。皆はどうだ?」


「お、おい!それはカレンの役目だろ⁈ 」


 ランスロットはここへ来て初めて慌てた様子を見せた。


 リーダーの判断一つでパーティーの命運が決まる。それなら経験豊富なカレンが最適だ。


「そうか?今の様子を見て、皆に異論は無いようだぞ?」


 クレア、ルナ、ミーシャの三人が頷くのを見たランスロットはがっくりと肩を落として項垂れた。


「マジかよ……。分かったよ、やるよ。ったく、調子に乗って出しゃ張るんじゃ無かったぜ」


「安心しろ。全てを任せきりにはしない。何、どっしりと構えていろ」


「この野郎……からかってやがるな……」


 こうしてランスロットをリーダーに、突如としてダンジョン化した広大な森を突破しつつレイヴンを捜す事になった。



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