原因とミーシャの語るレイヴン
本日2話目の投稿です。
前話を読まれて居ない方はご注意ください。
一先ずの危機を打開したランスロットとリヴェリア達は作戦の司令部が設置されている冒険者組合へとやって来ていた。
そこではモーガンが魔物を引き寄せる原因を探す為に集めた情報を整理している最中だった。
「モーガン、奥の部屋を借りるぞ」
「ラ、ランスロット殿⁈ 魔物は⁈ キングゴブリンはどうなったのですか⁈ まさか、倒し……」
「倒したのは私だ。お前がこの街の組合長か? すまんが部屋を借りる」
「た、倒した? 貴女が? ランスロット殿……そちらの女性は?」
中央にいたモーガンならリヴェリアの事を知っていると思っていたが、どうやら顔は知らないらしい。
普段のリヴェリアは十歳くらいの外見をしているので、戦闘時にしか大人の姿にならないリヴェリアの事を知らないのだろう。
説明してやっても良いが、面倒だ。それに今は時間が惜しい。
「あー、ミーシャの姉ちゃんだ。んじゃ、部屋借りるぜ」
「え⁈ 私の? んー、悪くないかもです。こんなに美人なお姉ちゃんなら大歓迎です!」
「あははは! 私も妹が出来て嬉しいぞ」
「……」
無言で見送るモーガンを放っておいて部屋に入る。早速、リヴェリアの言う問題とやらを聞くとしよう。
この部屋は小規模な応接室になっているらしく、骨董品やら調度品が並べられていた。
「何だこの趣味の悪い部屋は。しかも、見事にどれも偽物。これだけ偽物を集めるとは、ある意味凄いぞ」
「偽物? 見ただけで分かるんですか?」
「ああ、私の知り合いに腕の良い骨董商というか商人がいてな。そやつがここにある調度品の本物を持っている。二つと無い品ばかりだから間違いあるまい」
おそらくどれもドルガが集めた物だろう。
詳しくは知らないが、賄賂を使って偽物集めとは、どこまでも残念な奴だ。
「待て待て。そんな事より早く本題を話してくれ。冒険者の連中も限界が近い。急がねえと!」
リヴェリアのおかげで士気は高まってはいるが、一時的なものだ。消耗した体力が戻る訳では無い。
リヴェリアの言う問題を解決する方法を早急に見つける必要がある。
まだ魔物を引き寄せる原因が見つかっていないのに問題が山積みだ。
「では単刀直入に言う。この街を囲っている魔物を排除するのは無理だ。不可能と言っても良い。ミーシャの使役しておるツバメちゃんに乗っている時に空から確認したのだが、私がミーシャから聞いていた魔物の数は約三万。私と共にパラダイムに来るまで約三時間経過しておる」
「ああ、それについちゃ驚いたよ。それで、無理ってのはどういう意味だ。お前なら倒せるだろ」
「増えておるぞ? それもまだまだ数が増しておる。ざっと見た限りで既に十万以上」
「は?じゅ、十万?」
「はい、地の果てまで魔物がぎゅうぎゅうになってました……」
(ぎゅうぎゅうって、他に言い方があるだろ……)
「あ! 今、他に言い方があるだろとか思いましたね⁉︎ 」
「分かったって! 悪かった悪かった!」
「また二回言いました!」
「あははは! 面白いが、二人共その位にしておけよ。さっきは冒険者達の士気を上げる手前、楽勝という風に振舞ってはみたが……正直きりが無い。このまま戦い続けてもどうにもならん。ジリ貧だ。気付いておるだろうが、これは普通では無い。いくらなんでも異常だ。ランスロット、原因は掴めそうなのか?」
「いや、まだだ。さっきモーガンって奴がいただろ? あいつに魔物を引き寄せる原因を探してもらっているんだが、どうしても見つからない……」
魔物が増え続けているとなると確かにどうしようも無い。いくらリヴェリアが強くても、体力の限界はある。
「それは魔具の類を探しているのか?」
「?」
「その顔では、まだ人間は探していない様だな」
「人間? どうして人間が?」
リヴェリアは深いため息を吐いて頭を抱えてしまった。
「ランスロット……そんな事だからユキノに馬鹿だ馬鹿だと言われるのだ」
「なっ! ユキノは関係ねぇだろ! あいつの人を見下した顔思い出しただけで苛々するぜ!」
「人間に魔物の核を移植する人体実験の話を覚えおらんのか?」
「人体実験……? そうか! そういう事か!!!」
人間を使った人体実験は、禁忌の子が持つ魔物の力に目を付けた魔術師達が研究を始めたのが人体実験の始まりとされる。魔物の核を健康な人間の体内に移植する事で、禁忌の子と同じ力を人工的に生み出す事を目的とした物だ。成功した事例は無く、人体実験の被験者の生命を危険に晒す実験は当然禁止された。表面上は、だ。
「成功した事例は無いとされているが、実験は今でも続いている。仮に成功した個体がいて、この街に紛れ込んでいるとしたら?」
「ちょっと待って下さい! 人体実験の話は、分かった様な分からない様な……とにかく何となく分かりましたけど、それと今回の件と一体何の関係があるんですか? 私にはさっぱりです」
冒険者では無いミーシャには分からなくても無理は無い。
人間に魔核を移植するなんて胸糞悪い人体実験は、中央のお偉いさんに俺達SSランク冒険者が協力して揉み消した。一般には殆ど知られていないし、無かった事になっているのだ。
「……共鳴か」
「うむ。少しは頭が回って来た様だな。魔物の核は共鳴を起こす事がある。それは人間には聞こえない音を周囲に放って魔物を引き寄せる。これ程の数を集める共鳴ともなれば、使っている魔核が特殊なのか、埋め込まれた人間が特殊なのか、或いは両方か……。心当たりは無いか? この街の人間か、それ以外の人間だ」
(街の連中は今回の防衛の割り当てをする為にモーガンが管理していた筈だ。異変があれば気付くだろ。となると、街の人間以外……そうか!)
「分かったぞ!!! あの女の子だ!」
あまり考えたくは無かったので可能性から除外してしまっていた。
まさかという気持ちが強いが、リヴェリアの話を聞いた後では他に考えられなかった。
「女の子? どういう事だ?」
「ま、まさかランスロットさん……誘拐? いくらチャラチャラしているからって、まさかそこまで。見損ないましたよ、ランスロットさん!」
「違うわ!!! ……この街に来て直ぐの事だ。レイヴンがダンジョンの中で人間の女の子を拾ったんだ。それで、俺が女の子をこの街の診療所に連れて行ったんだ」
今思えば、もっとレイヴンから事情を聞いておくべきだった。ダンジョンに女の子がいるなんて不自然過ぎる。あの時はレイヴンを探し回っていた疲労と、ようやく見つけた安堵感で頭がいっぱいだったのだ。
「不自然だとは思わなかったんですか? 普通おかしいって思いますよ?」
「うっ……」
「だから、ランスロットは馬鹿だと言われるのだ。呆れた奴だな。ガハルドでも気付くぞ」
「ぬぐぐ……」
(あんな脳筋オヤジ以下だと⁈ )
「しかし、これで原因は分かったな。後は確かめるだけだ。だが、その前にだランスロット。レイヴンと言ったな? 奴がこの街の来ているのなら何故姿が見えない? 奴がいれば、この事態も収拾できただろう? 出来なかったとしても、今よりも随分楽に時間を稼げた筈だが? 」
「そ、それはだな……」
「リヴェリアちゃん、レイヴンさんを知っているんですか?」
ミーシャの質問を受けたリヴェリアの視線がランスロットに突き刺さる。
そういえばミーシャにはレイヴンの事を話していなかったな。などと今頃になって気付いた。
「知っているも何も、レイヴンは私と同じ王家直轄冒険者の一人だ」
「へ? ……へ?」
どういう事だと言わんばかりにミーシャがランスロットに詰め寄って行く。
「ミーシャの知っているレイヴンの事だよ。黙っているつもりは無かったんだ。その、言うのを忘れてた。すまん……」
「はいいいいいいいいいい⁈⁈ レイヴンさんが…? 王家直轄冒険者ーーーー⁈⁈ ちょっと! ランスロットさん! 私、聞いてませんでしたよ!!!」
「あ、いや、だから、すまん。あまり大っぴらにしたくなかったんだ」
「いややあああああああ!!! 私、めちゃくちゃ馴れ馴れしくしちゃいましたよーー⁈⁈」
レイヴンが王家直轄冒険者だと知ったミーシャは頭を掻き毟って発狂していた。
「私の事もちゃん付けで呼んでおるではないか」
「それとこれとは違うんですーーーー!!!」
「ち、違うのか……」
レイヴンの正体を知ったミーシャを落ち着かせるのは大変だった。
言っていなかったのも悪いのだが、まさかそんなに驚くとは思わなかった。
「ご、ごめんなさい。取り乱しました……」
「いやぁ、見事な取り乱し方だったな。私の時より激しかったぞ」
「それは、レイヴンさんは私達魔物混じりにとって憧れの存在ですから」
「憧れ? レイヴンが?」
ミーシャは恍惚とした表情で語り始めた。
「魔物混じりでありながら王家直轄冒険者にまで上り詰め、その上私達と同じ魔物混じりだけじゃなくて、人間の為にも孤児院をいくつも作って支援しているんですよ! って、実際には見た事無いんですけど…。凄いじゃないですか! 凄くないですか⁈ 」
(なるほどな。知らなかったぜ。レイヴンがあんなに金金金金言ってたのはそういう事か)
興奮した様子でレイヴンの事を熱く語るミーシャをリヴェリアとランスロットは嬉しそうに眺めていた。
魔物混じりであるレイヴンの味方は少ない。
それは魔物混じりであるというだけで、誰も本当のレイヴンを理解しようとはしないからだ。そして、王家直轄冒険者の肩書きを持っている事を妬む輩も大勢いる。
リヴェリアとランスロットは中央でも数少ないレイヴンの理解者だ。
「ふふふ。レイヴンめ、まさかそんな事をしておったとは私も知らなかった」
「ああ。長い付き合いだが、俺も全く知らなかったよ。ミーシャ、その事は絶対にレイヴンに言うなよ?」
「え? どうしてですか?」
悪事を働いているなら兎も角、善い事を行なっているのに黙っていろと言われても意味が分からない。
「レイヴンの奴、多分そういうの隠してんだよ。だから絶対に言うなよ」
「そんな、凄い事なのに……」
「黙っておいてやれ。それから、ミーシャよ。礼を言う。仲間の事を褒められるのは嬉しいものだ」
「ま、あいつがリヴェリアの事を仲間だと思っているかは分からないけどな」
「構わんよ。私が仲間だと思っている。それだけで良いのだ」
「そうだな……」
レイヴンが魔物混じりと呼ばれる者達の間でそんな風に見られていたとは知らなかった。
あいつがやって来た事はちゃんと誰かが見ていてくれている。
「思い出しましたぞーーーー!!!」
扉を勢いよく開けてモーガンが飛び込んで来た。
その慌てっぷりは魔物の大軍にも動じなかったモーガンらしくない。
「思い出しました! その赤い髪! 金色に輝く目、白い鎧! 腰に下げた美しい剣は正しくレーヴァテイン! 貴女は王家直轄冒険者の一人、剣聖リヴェリア殿だ!!! うおおおおおお! レイヴン殿に続き、二人目の王家直轄冒険者にお会い出来るとは…このモーガン。感激であります!!!」
「あ、ああ……」
「お前もかよ……」