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白い翼

 面倒事は早々に終わらせてしまうのが良い。

 天幕から出たレイヴンは、早速帝国へ向かう事にした。


 皇帝からの情報によればトラヴィスが魔物を集めているのは騎士団の屯所から西南辺りの地下だそうだ。

 地下に魔物を集めているとなるとかなりの広さが必要になる。


(瘴気が溜まってダンジョン化している可能性も考慮するとなると、外から潰すのは止めておいた方が良いか……)


 皇帝は帝国民に植え付けられた恐怖心を利用しろと言って来た。癪な話だが、人的被害を出さずに済むならそれに越したことは無い。

 トラヴィスがダンジョンの元となる水晶を使ってまで帝国の地下にダンジョンを作っているとは考え難いが、変な三人組の件もある。念の為に用心しておいた方が良いだろう。あれを帝都内で使われてはどんな被害が出るか分からない。


「レイヴン行くの?」


「俺もついて行ってやろうか?少しは役に立てるぜ?


「すまないが事情は聞いての通りだ。クレア、直ぐに戻るからリアーナ達の所で待っていてくれないか」


「うん、分かった。それからコレをレイヴンにってルナちゃんが」


「コレは?」


 クレアが手渡して来たのは瓶に入った無色透明の液体。甘い香りがする以外にはただの水にしか見えない。


「ルナちゃんが『超凄いの出来たから試してみて』って言ってた。今は『薄めて大儲けだあぁ!』って言って沢山作ってたよ」


(……大儲け?)


 ルナはふざけている様で無意味な事はしない奴だ。何を思いついたのか知らないが、馬鹿な真似はしないと信じたい。


「分かった。無茶だけはするなと言っておいてくれ」


「うん!」



 ーーードクン!


 皆が見守る中、魔剣の力を解放したレイヴンが漆黒の鎧に身を包むと、周囲に響めきが起きた。


(ん?)


 リアーナは一度この姿を見ている。初めて見るキッドや他の子供達が驚くのは理解出来るのだが、どういう訳かクレアやランスロット、リヴェリアまで驚いた顔をしていた。


「レイヴン……その翼……」


(翼?)


 皆の視線がレイヴンの翼に集まっている。

 翼を広げて確認してみると、白と黒だった翼はどちらも白く変質し、おまけに翼の数まで増えている。

 片翼に二枚、計四枚の翼が生えていた。


「ああ、増えているな」


「増えているな。じゃねえって!何でお前が一番落ち着いてんだよ⁈ 体は何とも無いのかよ⁈ 」


「いつも通りだ。何も問題無い」


 翼はレイヴンの意思で自在に動かせる。多少疲労が残っている以外には特別何も異常は無い。強いて言えば、黒一色だった鎧の至る所に赤く細い線が入っている事くらいだ。

 魔剣の力を制御出来る様になるに連れて少しずつ変化していたし、今更気にする様な事では無いと思っていた。


「問題無いって…。おい、リヴェリアは何か知ってるか⁈ 」


「い、いや、しかし……レーヴァテイン、何か分かるか?」


『いえ、私にも分かり兼ねます。ただ、レイヴン殿の両親のいずれかが、神、或いは天使に属する者であると推測されます。あくまで可能性ですが』


「なっ……!」


 リヴェリアの愛剣レーヴァテインの発言に皆言葉を失った。

 レイヴンの両親について知っているのはこの中でリヴェリアだけ。しかし、そのリヴェリアにも全く心当たりが無い。

 レイヴンの父親は魔物混じり。シェリルは願いを叶える特別な力を持ってはいたが普通の人間の筈だ。


「馬鹿馬鹿しい。第一、俺は魔物混じりだ。そんな馬鹿な事ある訳が無いだろ。それに、白い翼を言うならリヴェリアもそうだろう」


「いや、そうだけどよ……」


「くだらない事を言っていないで俺が居ない間、リアーナの護衛を頼んだぞ」


 レイヴンはそれだけ言うと翼を広げて西の空へと飛び立って行った。



「あっという間に見えなくなっちゃった……」


「すっげぇ!!!リアーナ姉ちゃん、今のレイヴンカッコ良かった!俺もあんな鎧と翼欲しい!」


「ええっ⁈ 」


 キッドを始め、子供達は興奮した様子ではしゃいでいた。

 子供達にとってレイヴンは憧れの存在なのだから無理もない。けれど、リヴェリア達は深刻な表情を浮かべて西の空を見上げていた。


「なあ、リヴェリア。今のって……」


「いや、魔物堕ちとは関係無い。寧ろあれだけ禍々しかった気配が薄れている。理由は分からんが、中央へ帰ってマクスヴェルトに聞いてみる事にしよう」


 レイヴンが普通の魔物混じりで無いのは百も承知していたリヴェリアであったが、あの翼の変化は普通では無い。

 レーヴァテインの言った通り、両親からの遺伝だとしても有り得ない。


「あの…リヴェリアさん、レイヴンは大丈夫なんでしょうか?」


「それは心配無い。レイヴンの強さは私が保証するとも。どんな魔物がいようが、レイヴンなら容易く殲滅出来るだろう」


「は、はあ……」


 レイヴンがとんでもなく強くなっているのは知っている。しかし、強さを保証すると言われても、リアーナの目の前にいる可愛らしい少女はキッド達と歳も変わらない様に見える。

 初めて会った時も何処かの偉い貴族の令嬢だと思っていたくらいだ。子供らしくない大人びた言動もそういう環境で育てられたからだと思っていた。所謂、英才教育というやつだ。


「大丈夫だって!リヴェリアもレイヴンと同じ王家直轄冒険者の一人だからな。戦闘に関しちゃ、レイヴンと唯一渡り合えるくらいに強いぜ」


「え⁈ こ、こんな小さな子供が……あっ、ご、ごめんなさい」


「ランスロット!私を戦闘狂の様に言うな!だが……この姿では無理もないか……」


『我が王。だから申し上げたではありませんか……』


「ぐぬぬ……」



 遠くの方から申し訳なさそうな声が聞こえて来た。


「あのう…そろそろ俺達にも事情を説明してもらえると有難いんですけど……」


 冒険者風の青年は、何故だか木の陰からリヴェリア達の様子を伺っている。


「何でコソコソしてるのよ!リアムはこの街の代表なんだから、もっと堂々としなさいよ!」


「うっせー!俺はこういうのに慣れて無いんだよ!痛っ…イタタタタタタ!!!ア、アンジュ!耳を引っ張るなって!」


「いいから、さっさと歩く!」


 活発そうな女性に連れられて?出て来たのは冒険者の街リアムの代表リアムと補佐官となったアンジュだ。

 冒険者の街リアムとは通称で正式には『追憶の街リアム』と名付けられている。もっとも、この呼び名はこの街に起こった出来事を知らない者にとって分かり辛い為、もっぱら冒険者の街リアムと呼ばれているのだ。

 どちらにしてもリアムの名前が付くのはリヴェリアの思い付きなのだが、半分はリアムの名前を周知させる目的がある。


 冒険者というのは良くも悪くも他人の話を聞かない者が多い。自分の命を預けても良いと思える相手以外には決して弱味や本心を明かさないからだ。

 その極端な例がレイヴンな訳だが、リアムは良い意味で真逆の性格をしている。

 自信過剰な面もあるものの、素直で真っ直ぐな性格は人を惹きつける。そうでなくては人間と魔物混じり合わせて百名からなる大規模パーティーを纏めるなど不可能だ。


 リヴェリアの部下の中でも同じ事が出来るのはライオネットとガハルドの二名だけだ。

 けれど、リヴェリアはその事をリアム本人には話していない。


「おお!二人共元気そうだな!此度は急な話になって悪かったな。リアーナと子供達の件は手紙で知らせておいた通りだ。しっかりと守ってやってくれ。それから、何か不足している物資があれば組合の者に言うと良い」


「……」


「どうした?」


「あ、いや。リヴェリアさんの名前が聞こえたんで説明して貰おうと思って出て来たんだけど……えっと、妹さんか何かで?」


「なっ⁉︎⁉︎ 」


 リアムの衝撃的な妹発言に、流石のリヴェリアもショックで開いた口が塞がらない。可愛らしい顔が台無しだ。

 背後ではリヴェリアの大人になった姿を知っているクレアとランスロットが必死に笑いを堪えていた。


『我が王……』


「う、うるさい!何も言うな!あー、もう!せめて赤毛の頃の姿に戻れればこんな事には…!!!」


『可能です』


「……今、何と言った?」


『可能です。と申し上げました。我が王』


「この……!だから、何でそういう大事な事を言わないのだ⁈ これで二度目だぞ⁈ 」


 レーヴァテインの事を知らないリアムとアンジュには、子供が地団駄を踏んで駄々をこねている様にしか見えていない。


『ですから、威厳という物が……』


「何で子供の姿が駄目だと言い出した時に言わない⁈ もういい!知らん!私は中央へ帰る!レーヴァテイン!」


『はあ…。封印術式の解除を実行します』


 金色に輝く魔力がリヴェリアを包み込むと金髪の美しい女性が姿を現した。背中には白い翼がある。

 ランスロット達も初めて見る姿だ。それに以前とは明らかに纏っている雰囲気が違う。


「ランスロット、レイヴンが戻るまでこの街から出るなよ!」


「お、おう……」


 リヴェリアはランスロットが問いかける間も無く、白い翼を羽ばたかせて北の空へと飛び立って行ってしまった。


「リヴェリアお姉ちゃん、最初からあの姿をしていれば良かったのに……」


「クレア。それはリヴェリアには言わない方が良いと思うぜ?」


「うん、そうする……」



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