表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
196/313

カレンとステラ

 急激に高まったレイヴンの魔力が霧散して消えてしまう少し前。


 カレンの指揮下に入った技術者や一部の魔法使い達は長年訓練された兵士の様に隊列を組んで鬼神の如き快進撃を続けていた。

 中でも最も威力を発揮したのは魔鋼人形達だ。予測していた通り、魔鋼人形そのものはカレンの能力を受け付けなかったのだが、操者である技術者達の能力が劇的に向上した事により、魔鋼人形本来の実力を遺憾無く発揮するという結果になった。


「すげぇなこりゃ。俺達が居なくてもこいつらだけで戦えるじゃねぇか」


「うん。私が初めて見た時と全然違う……」


 さすがに一騎当千とまではいかないものの、複数体での連携に頼らずとも押し寄せる魔物の群れを見事に撃退している。魔物が持つ毒などの状態異常にかからないのも期待以上の活躍を見せている要因と言えるだろう。


「お前達、私語は慎め。驚異的だとは思うが、やはり欠点はある。攻めている分には良いが、守りに入った途端に崩れるぞ。あの時間差だけは私の能力でもどうにもならん。お前達二人が補え。行け」


「へいへい。思考を残してくれたおかげで良い訓練になるからな。思う存分にやらせてもらうとするぜ!」


 ランスロットは愛用のロングソードを担ぐ様にして魔物の群れの中へ飛び込んで行った。


「わ、私も一緒に!」


「クレア。お前はこっちだ。私の目の届く範囲にいろ」


「だけど、それじゃあ……」


 クレアの実力はカレンも知っている。同じ年頃の娘と比べれば異常。高ランク冒険者の中でも既に頭一つ抜きん出た存在だろう。しかし、いくら強くとも子供は子供だ。

 本気でレイヴンの隣に立つつもりなら、死線の一つや二つ潜るだけではまるで足りない。


「その剣。まだ扱いきれていない様だな。少し見ぬ間に本物の魔剣として目覚めているとは驚いた」


「え、どうして……」


「不思議か?私の金色の目は伊達では無い。見れば分かる。力に振り回されている様では話にならん。お前はお前のやり方で力を制御する術を体で覚えろ」


「はい!」


 カレンはクレアを送り出した後、レイヴンについて考えていた。


 カレンがレイヴンが生きていると知ったのはランスロットから“滅茶苦茶強い新米冒険者がいるから遠征に一緒に参加させて欲しい” そう言って手紙を寄越して来たのが最初だったと記憶している。

 ランスロットの紹介とは言え、何の実績も無い新米冒険者を遠征に連れて行くのはリスクが高い。しかし、丁度補給の為に中央へ戻っていた事もあって会ってみる事にした。


 真っ黒な髪、赤い目、幼い顔立ち。

 青年とも呼べない仏頂面の魔物混じりの少年。

 カレンは一目見た瞬間に、その少年がシェリルの息子であると確信した。しかし、同時に疑問が湧いた。

 身篭ったシェリルは最終的にリヴェリアとの戦いの果てに死んだ。そう、あの時点でシェリルはお腹の子供諸共命を落とした筈なのだ。ならば目の前の少年は一体何者なのか……。

 答えが分かったのはそれから数年後、レイヴンが王家直轄冒険者の称号を手にした後だった。


 リヴェリアに呼び出されたカレンはそこでレイヴンがシェリルの息子で間違い無いという確信を得た。しかし、記憶を封印されたリヴェリア、いつの間にか姿を現したマクスヴェルト。二人がレイヴンの事を異様に気にかけている事に疑問を感じ、部下にレイヴンの身辺を調べさせた。

 魔剣の習得には驚いたが、もっと驚いたのはその後だ。

 悪魔と神を相手にシェリルと共に戦った者。シェリルの姉ステラの生存だ。

 てっきりあの戦いの時に命を落としたと思っていたステラの生存はカレンに全ての謎を解かせた。


 ステラはシェリルの墓を暴いたのだ。


 人工的に人間を造る技術はステラの研究題材であったと知っていた。禁忌に触れる行いを激しく非難し、何度も辞めさせ様とした事もある。

 事もあろうにステラはその研究技術を使ってレイヴンを蘇生させた。最初は何故シェリルでは無く、レイヴンだけを蘇生させたのか理解出来なかった。ステラなら二人を生き返らせるくらいの事はやってしまうと思った。

 その疑問はレイヴンがクレアを魔物堕ちから救ってみせた力を改めて検証する内に解決へと至った。

 “願いを叶える力” あれは魔剣の力などでは無い。元々はシェリルが持っていた力だ。


 ここから先はまだ推測の域を出ないが、おそらくこうだ。

 マクスヴェルトから、魔剣が元は聖剣であったという話を聞いて合点が行った。

 魔と神を喰らう力は元は魔剣と聖剣それぞれが持つ力だった。ステラはその二本の剣を一本の魔剣へと変化させるという狂気の研究に手を出した。その繋ぎ目にルナという人工生命体を使ってだ……。

 魔剣と聖剣。二つの反発する力をルナは受け続けた。その恐怖や絶望は想像を絶するものであったに違いない。けれど、ルナをレイヴンが救った事で二本の剣は安定した。その後ステラが呪いを解いたという話だが、今となってはあれは呪いでは無く、魔剣を定着させる最終調整であった可能性が高いと思っている。


 魔物混じりであるレイヴンに聖剣は使えない。そして、完全な人間では無いレイヴンでは願いを叶える力を使う為の魔力も足りない。

 魔神喰いと呼ばれる魔剣で喰らった魔力をレイヴンへ、レイヴンに送り込まれた魔力を願いを叶える力へと変換させ発動に至る。


 ここまではマクスヴェルトとの話し合いで一致した見解だ。


「とまあ、ここまでは読み解く事が出来た訳だが……何か訂正したい事はあるか?どうせ、私の頭の中を覗いていたのだろう?ステラ……」


「ふふふ……流石ね。まさか、カレンまで首を突っ込んで来るとは思わなかった」


 カレンの背後に現れたステラは、薄気味悪い笑顔を浮かべて、戦場を見下ろすカレンの隣に立った。


「私の頭の中を覗いておいて、よく隣に立てたものだ。覚悟は出来ているのだろうな?」


 親友シェリルの遺体を弄び、忘れ形見であるレイヴンを惑わす存在。

 例え禁忌であったとしても、レイヴンが生きている事はカレン、リヴェリア、マクスヴェルトの三人にとって唯一の救いだった。


「あの子……クレアと言ったかしら。あの純真さ……とても人工的に造られた存在には見えないわね。これもレイヴンの力なのかしら?」


「お前には関係の無い事だ。それより私の推測が間違っているのかどうか話せ。死人は喋れないからな」


 ステラは自分に向けられた殺意を意に介した様子もなく言葉を続けた。


「カレン、誤解がある様だから言っておくけれど、私はレイヴンを救いたいだけよ。レイヴンを守りたいのなら、あの子を守る事ね」


「どういう意味だ?今更そんな話を信じろと言うのか?馬鹿馬鹿しい。時間稼ぎのつもりなら話は終わりだ。お前を殺せばレイヴンはレイヴンのままでいられる」


 ステラの存在だけは放置出来ない。過去がどうであれ、レイヴンは普通に生きようとしているだけだ。余計なことを知る必要は無い。


「それはどうかしら……。気付いているのでしょう?あの子が鍵だと」


「……それもお前には関係の無い事だ」


 横に立つステラの淀んだ目にカレンが映る。


 カレンはステラを逃がすつもりは無い。必要であれば今指揮下にある者達を使ってでも始末する気でいた。


「カレンは何も変わらないわね。貴女はいつだってリヴェリアよりもずっと先が見えているのに、絶対にそれを表には出そうとはしなかった。あの時だって……」


 レイヴンの魔力が高まっていくのを感じる。願いを叶える力を発動させる準備が整った様だ。


「終わった事だ。お前が居なくなれば全て丸く収まる。大人しく私に殺されろ。せめてもの情けだ。お前の罪は私が墓場まで持って行ってやる」


「私の罪?言ったでしょう?私はただ…」


「「……ッ⁉︎ 」」


 レイヴンが放っていた魔力の反応が霧散して消える直前、二人は懐かしい気配を感じてレイヴンの元へと走り出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ